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森林経済学サマースクール in スイス 体験記(その3)

◎プログラムの内容
月曜日:林産物とサービスの評価法(ヘドニック法、CVM等)
火曜日:森林管理に関してのモデリングと最適化
水曜日:フィールドツアー ダボスのWSL施設と保全林の見学
木曜日:森林経営における意思決定、リスク・不確実性・地球温暖化
金曜日:サプライチェーン論、市場行動論
以上が午前中のプログラム。
午後は参加した大学院生の研究内容プレゼン(水曜日を除く)。

森林科学の研究の今のはやりは、地球温暖化と生物多様性に関するもの。そういう分野に多くの予算が投入されているので、必然的にその分野の博士課程の学生が多いです。大学院生になると、ドイツやスイスでは指導教官が関わっている様々なプロジェクトに参加することで、生活費を確保しながら学位を取得するのが一般的。

研究の内容そのものについては、日本の大学院でもおそらく似たようなレベルのものが行われていると思うのですが、英語での報告が少ないせいで本来あるべき存在感を十分発揮できていないように感じます。

◎フィールドツアー

伐採後の様子

今回のサマースクールの売りの一つが水曜日のフィールドツアー。ダボス近郊の森林を、現地のフォレスターの案内の元に歩きました。この森林は7割が私有地ということで、所有者の一覧が分かる地図を見せてもらうと、相続が進むにつれて分割された結果、多数の森林所有者が存在する現状に至ったことがよく理解できました。こういう現状は日本のそれとよく似ています。ちなみに韓国からの参加者が韓国も同じような状況だと教えてくれました。

伐採直後の現場で、積み上げられた丸太を前にしてどれがどのくらいの利益になるのかを説明してくれました。一番質の悪いものはペレット用に、それ以外は建材として利用するが、質のよいものはスイス国内で販売し、それ以外は距離の離れたオーストリアの業者に販売するとのこと。それぞれどのくらいの利益になるのかも教えてもらいましたが、償却費用などを考慮すると平均したら利幅はほとんどないとのことでした。ケーブル搬出が主ということもあり、ドイツと比べると費用高になってしまうようです。

◎森林科学研究と森林経営とのかかわりについて

3年5年の期間で、森林科学の研究成果が森林経営の実務に生かされるということは少ないでしょう。ですが、10年スパンでは経営者の意思決定に良い影響を与える研究は可能だと思いますし、そういった研究をしたいと思っています。

研究対象としての森林は、他の応用科学の分野と比べて2つの大きな特徴があります。一つは時間軸がとても長いこと。もう一つは、経済面以外の効用が大きいということです。時間軸が長いということは、経営者からすれば自身の決断の結果を自身で知ることができないということになります。こういう環境は他のビジネスではあまりありません。それだけに研究対象としても面白いのですが、経営者の明確なヴィジョンが求められるということでもあります。

まして、人口が増え、気候が不安定になり、国境もだんだんと意味を持たなくなっている21世紀、明確なヴィジョンを持つことはますます重要になるでしょう。そして研究者たるもの、そういったヴィジョンを形成するための、科学的な見識に基づいた論理的な情報を提供しなくてはなりません。そういう意味で、こういった国際的な環境で研究者のタマゴたちが揉まれるというのは、彼らの将来に、そして僕の将来にも、とても良い影響を与えることになると確信しています。


オリジナル記事公開日:2012年8月14日

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