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人材紹介に明日はあるか②


スペックを下げる

  人材紹介会社のコンサルタントが、取引先企業から受けた求人の相談に対し、現実的に候補者を紹介し得る水準にまでその要件の緩和を求めることを言います。
特に新しい表現ではなく、私がこの業界に足を踏み入れた20年前には既に業界用語として定着していました。

  経験や能力、専門知識に加え、表立っては制限してはいけない年齢層など、企業が中途採用募集を行なう時には様々な要件が指定されます。要件やその組合せによっては、現実的に存在し得ないようなプロファイルが出来上がってしまうこともありますので、期日までに採用を行なうためには要件を現実的なレベルに擦り合わせることは必要です。
  企業としても、日々人材市場の動向に触れているコンサルタントに「そんな人いませんよ」と言われたら、ある部分では納得せざるを得ませんでした。

  よって、人(会社)によっては、人材紹介で実績を上げられるかどうかは、うまく“スペック”を下げることができるかどうかだ、という見方をしています。

  場合によっては、多少当初指定した“スペック”から外れる人材であっても実際に採用してみたら期待以上に活躍してくれた、ということもあるでしょう。その会社が当初の非現実的な“スペック”にこだわり続けていたら、未だに「候補者募集中」でビジネスが前に進んでいなかった、ということもあるわけですからその価値は計り知れません。

  しかし、人材紹介各社が目を向けなければならないことは、そういう個別の事象ではなく、そのサービスの本質です。

  いくら表面的には「人の紹介で企業の経営課題を解決する」、「企業が採用に成功するよう適切に期待値を調節する」というお題目を掲げたところで、社員の無意識下に『“スペック”を下げさせることで成約(売上)を上げる』という旧い法則・価値観がある以上、サービスの価値は高まりません。それどころか、ITの発達と代替品の参入によって取引先企業との情報の非対称性が解消しつつある中で、これまでと同じように「そんな人いませんよ」と言ったところでそれが真実かどうかは相手の方がよく知っています。  

  『取り敢えずデータベースから見つけた人(応募すると言ってくれた人)を、あたかもそれがベストの候補者であるかのように伝えて、企業の妥協のもとに売上を作る。』

  自分が行なっているサービスが、無意識のうちにこの前時代的な意識構造のもとで行なわれていないかを人材紹介に携わる全ての“コンサルタント”は内省すべきです。

  年収の35%という世界的にみても極めて高水準の手数料を受取る以上、人材紹介会社に求められる提供価値は「35%もの手数料に見合ったサービス」なのであり、それはすなわち「他の手段では獲得できないような候補者と引き合わせてくれること」でしかあり得ません。

  そんな高度な専門性やスキルをもつ人材を安定的かつ全方向的に集め続けることはごく限られた大手をもってしても難しく、各社はこれまで以上に独自領域(①需要が見込まれ、②自社には集め得るが、③競合他社には集められない)の登録人材募集へとリソースを集中して参入障壁を築く必要があります。

  コロナショックで市中の顕在的な求人数が激減する中、手っ取り早く集められる求人と求職者をマッチングして安易に目先の数字を上げようとすることに時間と労力を費やせば費やすほど、新たな時代に向けたスタートが遅れ、気付けば居場所を失っているということになりかねません。

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