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BFF ベタ・フラッシュ・フォワード[5] 長 賢太郎 ファッションデザイナー【型と肩】

    *『建築ジャーナル』2019年5月号の転載です。 
       誌面デザイン 鈴木一誌デザイン/下田麻亜也 

あるとき気付くと、プレゼントでもらったコム・デ・ギャルソンのPコートに穴が開いていた。

PCや図面、重い資料の入ったリュックが長らく腰部に擦れていたらしい。大切な一着だったので、まずはかけつぎを考えたが、思いのほか値段がかかる。オリジナルに忠実に復元するならよかったが、これまで着てきた痕跡がなかったように見えるのは違和感があった。

下町のはずれ、長屋の角をアトリエにするファッションデザイナーに修復を依頼することにした。
単に穴をふさぐというよりは、この腰まわりを直すことから発想してほしい、と伝えてあとはお任せした。

しばらくしてアトリエへ呼ばれると、そこにはエプロンのようなものの巻かれたPコートが吊るされていた。
それにはぐるりとポケットがあり、反射テープが貼られている。
元々の4つボタンと、追加された3のボタンで留められているので、取り外せば穴をふさがれたPコートだけで着ることができる。

コートを預けた際に見た彼の最新コレクションは、たくさんのボタンが付いた服や、大きなポケットの取り付いたものが多かった。 
コートの上からエプロンを巻くなんて考えたこともなかったが、「やばいっしょこれ」と長賢太郎に言われると、不思議と普通に思えてしまうのだった。

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osakentaroのアトリエの壁には素材のはぎれやディテールのスタディ、写真、スケッチが大量に貼り付けられ、一枚のコラージュ作品のようにも見える。
中でも特に目を引くのは、スタディ群だ。
異種の布がぼやけるように編み込まれていたり、ほつれる寸前のようでいてしっかりとつながっていたり、はたまた布ですらない素材が縫われていることもある。

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