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「解説」イギリス憲法とは?

英国で政治学を専攻している私にもいまだに難解なのがイギリスの憲法。友人にも「イギリスって憲法あんの?」とか「そもそも不文憲法ってなんなん?」とかよく聞かれます。今回は簡単にそれらの疑問に答えます。

結論から言うと、イギリスに憲法は存在します。「しかしよくわからん、もっと簡単に説明してくれ。」と思ってる方が大半でしょう。正直私自身も学者みたいに論説できるわけではありません。なのでここでは講義で教授が触れた基本をそのまま記していきます(ノートをとるのが苦手で上手く纏まっている自信はないけど……)。「何から始めればいいのか分からん!」という人は以下の内容をプレゼンやらパワポでそのまま使っていただいても構いません。

今回は簡潔にイギリスの憲法の概要を以下の箇条書き順に記します。

そもそも憲法とは?

- 価値観・主義・国家の性格の明言(その国の歴史)
- 組織図/統治の手引き
- 国民の権利および義務の規定
- 権力の所在と主権者大権並び国家権力への制約

イギリスではこれらが一つの文書に纏められておらず、いくつもの要素によって構成されています。しかもそれらの構成要素は文章として成文化されているものもあれば、不文律として記述されていないものまで様々です*1。

*1:  保守主義の父エドマンド・バークは著書の中で、イギリス憲法を「色とりどり且つ点在的な、そして窪みだらけで気紛れに繋がりあった雑多なモザイク」と評しています。

イギリス憲法の基本基本的な構成要素

- 成文法 (Statute law)
- 慣習法 (Common law)
- 憲法習律 (Constitutional conventions)
- 権威書 (Works of authority)
- 君主大権 (Royal prerogatives)
- 欧州連合法 (European law)
- 条約 (Treaties)

※今回はイギリス憲法の根幹をなす上記3つと君主大権を説明します。

成文法 (Statute law)

成文法、日本語では制定法とも呼称される議会によって制定された諸法律。特筆すべき例として以下の法律が挙げらます。

- 権利章典 (The 1689 Bill of Rights)
- 改革法 (The 1832 Reform Act)
- 議会法 (The 1911 Parliament Act)
- EC加盟法 (The 1972 European Communities Act)

これらはイギリスにおける政府運営に関わる法律です。

慣習法 (Common law)

慣習法とは、裁判所や議会構成者による法解釈
[実例]
• イギリスの国家体制(国体)は判例先例慣例の原則に従っており、それらの法解釈は次世代の裁判官に受け継がれる
• 議会は既存の慣習法に於ける法解釈について不賛成の場合、それを解消する為の新たな法律の制定が可能

憲法習律 (Constitutional conventions)

- 法的根拠に依らないが、正当な手続きとして認められた政権運営者が遵守すべき規則*2

*2:  分かりやすい例として、議会の多数を占める政党の長が首相に就く等があります。戦前日本に存在した「憲政の常道」もこの憲法習律に該当。

憲法習律こそがイギリス憲法の柔軟性適応性の所以と言われています*3。

*3:  イギリスの元首相ジェームズ・キャラハンは「(イギリス憲法は)大雑把で成文憲法典もないが機能している。何故なら時には常識で事足りる問題にそれら(イギリス憲法)は対処できるからだ。」とあらゆる問題に対して一から法律の文言を変えずとも即座に解決できる応用力こそがイギリス憲法の強みであると指摘しています。

君主大権 (Royal prerogatives)

- 諮詢権 (Right to be consulted)*4
- 激励権 (Right to encourage)
- 警告権 (Right to warn)*5

*4:  相談を受ける権利。
*5:  国務大臣等が君主の警告を受け入れるかどうかは国務大臣自身の意思決定に依る為、君主は警告の間接的な結果に対する政治的責任は負わない

最後に

これらがざっくりとしたイギリス憲法の正体です。条文からなる成文化された憲法典が憲法の全てだと思っている日本人にとって、イギリスの憲法はとても複雑で歪なものに見えるかもしれません。しかし実はこの歪で難解な憲法こそが、民主主義の母国たるイギリスの国家体制の核なのです。


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