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稲穂健市の知財コソコソ噂話 第3話 ジャニーズ事務所と知財

 今年3月放送のBBCの長編ドキュメンタリーにおいて、故ジャニー喜多川氏による性加害疑惑が報じられると、半年後にジャニーズ事務所がその事実を認めて謝罪しました。社名変更を経て、事務所を事実上解体する動きが進んでいますが、個人的には直ちに同情する気にはなれません。実は筆者は、過去に何度かジャニーズ事務所に対して知財関係の取材を試みていますが、応答があったのは講談社を通じて質問状を出した時の一度きりです。
 その質問内容のひとつは、故メリー喜多川(藤島メリー泰子)氏の考案した実用新案「早変わり舞台衣裳」(実用新案登録第3168034号)について、「なぜ特許権ではなく実用新案権を取得したのか?」「早着替えをするジャニーズのアイドルはその舞台衣装を着ているのか?」というもので、もうひとつは同事務所の登録商標「SMAP」(商標登録第2340431号)に関して、「なぜ指定商品に、かつお節、とろろ昆布、こんにゃく、納豆、ふりかけ、ぎょうざ、すし、たこ焼きなどが含まれているのか?」というものでした。
 「同社の知的財産戦略等に鑑み、ご質問についての回答は差し控えさせていただきたく存じます」という返信が代理人弁護士2名の連名で届きましたが、ほとんど内容のない返答を、広報担当ではなく代理人がしてきたのには、開いた口がふさがりませんでした。
 産業財産権に関しては、明確な戦略などないのではないかと思います。「早変わり舞台衣裳」については、「実用新案技術評価請求」(実用新案権の有効性に関する特許庁審査官による評価書の請求)までしていますが、実用新案権の存続期間は特許権の半分しかなく、2021年3月に権利が消滅しています。また、先ほど挙げた登録商標はSMAP解散後の2021年4月に更新登録していますが、指定商品はそのままです。
 戦略と呼べるものは、肖像管理くらいでしょうか。ジャニー氏本人が実際にラジオ番組(NHKラジオ第1「蜷川幸雄のクロスオーバートーク」第1回、2015年1月1日放送)で話しているのですが、同氏が未成年のころに米国で日本の芸能人の興行を手伝った時、出演者の写真を会場で販売すると飛ぶように売れ、肖像の価値を認識したそうです。この成功体験によるものか、同事務所によるパブリシティ権(有名人の肖像等に生じる顧客吸引力を中核とする経済的価値に関する権利)の統制は徹底しています。
 ジャニー氏本人の肖像も例外ではなく、BBCのドキュメンタリーのなかで記者も次のように語っています。「2019年にジャニー氏が亡くなると、あらゆる媒体がトップニュースとして扱いました。お別れ会の様子を映した動画に限らず、とりあえず何かしらジャニー氏関連の動画素材がないか探し続けていました。しかしどこに接触しても同じ反応でした。ジャニーズ事務所に関する動画や画像はいっさい提供できないというのです」(出典:BBC「J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル」)。このドキュメンタリーには、同事務所の社屋を撮らないように主張する警備員に向かって、記者が「何が問題なんですか。ここは歩道の上ですよ。公共の場所です」と反論するシーンもありました。何ら問題ないことは説明するまでもありません。

出典:BBC「J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル」
https://www.youtube.com/watch?v=zaTV5D3kvqE

『発明 THE INVENTION』(発明推進協会)2023年11月号掲載


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