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稲穂健市の知財コソコソ噂話 第9話 知的財産権と刑事罰

 知的財産権は独占排他的な権利です。そのため、自分の知的財産権が侵害された場合、権利者は侵害者の行為を差し止めたり、侵害者に対して損害賠償を求めたりすることができます。また、その行為が悪質なときは、侵害者が刑事罰に問われることもあります。故意に特許権・意匠権・商標権・著作権を侵害した場合は、原則、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはその両方が科せられます。
 逃亡や証拠隠滅の防止のため「逮捕」に至ることもあります。著作権侵害については、音楽・映画・漫画・ゲームソフトなどの海賊版の製造・販売、商標権侵害については、偽ブランド品の製造・販売を手掛ける業者が警察に逮捕されるというニュースが頻繁に流れています。意匠権侵害についても、2012年、ホンダの小型車「フィット」のフロアマットの純正品に似せた製品を通販サイトに出品していた業者が逮捕されました。
 特許権も例外ではありません。今年3月、ピアノ演奏用の靴を販売していた業者が特許権侵害の疑いで逮捕される事件がありました。特許権の権利範囲は「特許請求の範囲」で定められており、一般的には侵害かどうかの判断は容易ではありません。このケースでは、特許権者との製造委託契約の解除後も同じものを販売し続けていたことから逮捕に至ったようですが、最終的には不起訴となっています。
 ちなみに、起訴されたからといって、必ずしも有罪になるわけではありません。少し古い事例となりますが、1999年に米国製のコミュニケーション人形である「ファービー」の類似品が出回ったことがありました。その販売業者は著作権侵害の疑いで逮捕されましたが、その後の裁判で、ファービー人形は実用品であり著作物性がないとして著作権侵害が認められず、その業者は無罪となっています。
 ここまで「侵害の罪」について見てきましたが、「詐欺の行為の罪」により刑事罰を受けることもあります。「詐欺の行為」とは、虚偽の資料を提出して審査官や審判官を欺き、登録要件を満たしていないのに登録を受ける行為などです。2007年、登録商標を3年以上使用していないとして不使用取消審判を請求された商標権者が、商標登録の取り消しを免れるために、当該商標を使ったスピーカーを納品したとする虚偽の納品書を特許庁に提出したことがありました。その後、納品書の偽造が発覚して関係者が逮捕されています。このケースでは、商標権者が多額の和解金を要求していたため悪質と判断されたようです。
 さらに「虚偽表示の罪」もあります。「虚偽表示」とは、特許権・実用新案権・意匠権・商標権についてその登録がないのに虚偽の権利を表示する、または紛らわしい表示をすることなどです。この罰則は一度も適用されたことがないようですが、実際に虚偽表示と思われる製品を見かけたこともありますので、十分な注意が必要です。また、「虚偽表示」ではありませんが、登録実用新案については、特許庁で実体的な審査を受けていないため、その権利の有効性に注意を払う必要があります。なお、著作権表示として知られる「©マーク」は、法律で定められたものではなく慣行的に使われているものなので、意味合いが異なります。

初代ファービー(判例時報1763号より)

『発明 THE INVENTION』(発明推進協会)2024年5月号掲載

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