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稲穂健市の知財コソコソ噂話 第2話 いつまでもパクリと思うなよ

 8月に夏季休暇を取り、久々にタイの首都バンコクとマレーシアの首都クアラルンプールを訪れました。アジア諸国への旅行では、いわゆるパクリ商品を探すことが毎回の楽しみとなっていますが、その傾向も変化してきているように感じました。
 かつては「SHARP」ならぬ「SHRAP」、「Panasonic」ならぬ「Panasoanic」などの怪しげなロゴの付いたオーディオ製品などを露店でしばしば見かけましたが、現在は本物によく似たスマートフォン用アクセサリーなどが主流のようです。乗用車を除くと、街で見かける日本製品は明らかに減っていて、韓国Samsungや中国OPPOのスマートフォンの広告、中国の電気自動車であるBYDやNETAの宣伝などが目に付きました。中韓メーカーの技術水準も向上しており、特許や論文などの各指標を見ても、日本の優位性が下がってきているのは残念ながら客観的な事実です。
 その一方、「日本ブランド」の顧客吸引力は健在で、ドラえもん、ポケモン、ハローキティをはじめとする日本のキャラクターの人気には相変わらず根強いものを感じました。もちろん、依然として海賊版とおぼしきキャラクターグッズも目に留まります。バンコク市内で、古ぼけたエアコンなしの路線バスに乗ったところ、運転席の上にドラえもんのぬいぐるみ(一見して正規品ではないもの)がずらりと並び、運転席の横にはドラえもんが描かれた 日よけカバー(こちらも一見して正規品ではないもの)が置かれていました。 運転手はドラえもんのことが大好きで、その関連グッズで自らのバスを彩っているのでしょう。貧富の差の激しい国では、正規品を手に入れることが経済的に難しい人もいるでしょうから、「海賊版は許せない」と思いながらも、複雑な気持ちになりました。
 最近はアジア諸国からも人気のアニメやゲームが発信されるようになってきましたから、将来的には日本発のコンテンツの優位性が揺らぐことも考えられます。クアラルンプールのペトロナスツインタワー付近にある大型モニターでは、日本アニメ風の萌(も)えキャラ が通行人に語り掛ける映像が流れていましたが、よく見ると、中国miHoYoの人気ゲーム『Genshin Impact』(原神)の広告でした。
 「日本ブランド」という観点では、日本発の飲食店はもちろん、ユニクロ、無印良品、ダイソーなどの小売店も変わらぬ人気で、その影響を受けたと思われる小売店も明らかに増えています。よく知られるのが、ユニクロと無印良品とダイソーを足して3で割ったようだと 揶揄(やゆ)される「メイソウ(名創優品・MINISO)」です。当初は日本産であると誤認させる表示で物議を醸したものの、最近は独自色を打ち出し、全世界で3600店舗以上を展開するなどの成功を収めています。マレーシアでは、同社を模倣したとおぼしき「ユビソオ(優質優品・YUBISO)」が店舗網を拡大。不自然な日本語などがネットを賑(にぎ)わせていますが、今後は質的にも洗練されていく可能性があります。
 かつての日本も米欧からの模倣が多いと批判されていましたが、現在では独自のプレゼンスを発揮しています。アジア諸国についても「いつまでもパクリと思うなよ」という考え方が必要になってきていると感じました。

バンコクの路線バスの車内に飾られたドラえもんのぬいぐるみ(筆者撮影)

『発明 THE INVENTION』(発明推進協会)2023年10月号掲載


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