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忌野清志郎 青春を駆け抜けた音楽

5月2日は忌野清志郎の命日でした
忌野清志郎の歌を初めて聞いたのは 
高校2年の冬

いわずと知れた日本ロック界の偉大なシンガー
僕は彼の歌が、人き様が好きでした

後に大好きになるシンガー
清志郎を知るキッカケになった友の話

当時僕は高校生、バレーボール部
当時にハイキュウー漫画あったらよかったな~と
まだ そんな漫画がない頃

全国大会を目指すような強い学校ではないが
弱いなりにも真剣に練習し汗を流していた
毎日7時から朝練
夜も7時まで練習する部活青年だった

同級生メンバーの中に家に帰る方向が
同じ人がいて毎日一緒に朝練に行き一緒に帰る
真剣な話、恋の話に先輩の愚痴まで
何でも話をした

高校生で出会った僕らは短い時間で打ち解け
部活ではライバルでもあり仲のいい友

バレーの上手い彼は1年でレギュラーになり
先輩から気に入られていた
一歩先を行く
彼の背中をいつも僕は追いかけていた

高校の青春の真っただ中で僕らは出会い
一生の友人と出会ったと思えた人だった 

部活で試合に負けたら
悔しく皆で泣いた時もある
僕らは強くなりたいと
ますますバレーボールにのめり込んでいく

1年でレギュラーになった彼は試合慣れし
2年で初めて公式戦に出た僕は緊張しガチガチ
彼が高くジャンプしアタックする姿を
斜め後ろから見上げていた

彼は生き生きと活躍しているのに
僕はボールが自分に飛ばない事を祈り
試合をしている

その試合、最後は僕のミスで試合が負けた
情けなさと悔しさで誰とも話をせず
一人帰ろうとした時、彼は追いかけてきて
「何勝手に先に帰ってるんだよ。冷たいヤツ!」と落ち込む僕の背中を強くたたく

ボールが飛んでくるのが怖いと
弱音を吐く

彼は大声で笑った
そんな事考えてるの?馬鹿だな~
大声だせば緊張がとけるよ!

いつも練習で馬鹿みたいに大声だしてるだろ
試合で君の声が聞こえなかったよ

そんなもんかな?
いいから、やってみなって!自然と体が動くから
そういえば いつも変な大声出してるな!と

苦しい時も笑わせてくれる
二人の関係になっていた

高校2年の秋
友人の彼に彼女ができた

同じ学年の女子バレー部の子
朝練に行く時に恋愛話が増える

彼女の居なかった僕は
いつでも先を歩く彼が羨ましく
バレーでも恋愛でも先を越されてた

秋から冬になろうとしていた頃
彼と彼女がカセットテープの交換を始めた

自分の好きな歌をレンタルし
カセットテープに録音しお互いに交換
自分の好きな歌を集め
カセットテープに編集が当時は流行っていた

年が明けて1月になり
修学旅行で長野県へスキーに行く2日前の夜

部活の終わりに彼の家に寄った
2階にある部屋で
いつものように部活や恋の話をしていた時に
机の上に1つのカセットテープが置かれていた

彼女と交際を始めてから
定期的に交換していたカセットテープ

もういらないから君にあげる と言われ
「えっ 彼女に渡すやつでしょ」と僕は驚く

もう渡さないから
「どうして?」と聞き返す

俺、修学旅行から戻れば
別れようと思ってるんだ

「えっ!なんで!」

また、それは別れてから話すよ
「今、言えよ!気になる!」

もう要らないから あげる

彼女が受け取るはずだった
カセットテープを
ポケットに入れ家に帰る事になった

また返せと言われたらいけないので
1度も開けることなく机の引き出しの奥に入れ
修学旅行の日を迎えた

初めてのスキーを経験し雪山の上で
会う部活仲間とじゃれ合う

彼と雪山の上で

「別れる理由は知らないけど
テープは返すから彼女に渡しなよ」

君がもらってて!もう彼女には渡さないから

「やっぱ返すわ!朝練行く時もっていくわ」

でもさ、あれ片面しか入ってないんだよ
テープ作ってる途中で、別れる事になったので
ごめんB面は空なんだ
と言われ

「彼女に渡してあげたら?」

もう君にあげたから!じゃバイバイ!
朝練遅れずに迎えにきてよ!

これが
僕と彼が交わした最後の会話になった


修学旅行から戻り、週末は部活が休み
月曜日の朝練で部活がスタート
もうすぐ、大事な公式試合が控えている

日曜日の夜11時頃
部活のキャプテンから電話が鳴る

キャプテンは僕に※※が死んだ・・・
(※は彼の名前)

「えっ 何んて?」
バイク事故で死んだ

「えっ・・・本気?冗談?」

キャプテンは泣きながら
先生から連絡があり病院に駆け寄り
今家に戻ったとこ

「いや ・・・何言ってんの?
こんな時間に・・・」

うめき鳴く声が聞こえ電話が切れた
時間は夜の11時過ぎ

僕はドッキリと思い、そのまま布団にはいるが
寝れない。嘘か本当か何度も考える

そのまま朝5時になった

少し早いが、いつも朝練を行くように
彼の家に自転車で向かい
家のインターホンを押した
今まで何度となく繰り返してきた同じ行動

インターホーンは反応がなく
僕は恐る恐る玄関の引き戸をゆっくりと開けた
すると父親がちょうど玄関に来たところで

「よく来てくれたね
息子の綺麗な顔をみてやってくれ」
と涙を流しながら呟いた

そのまま、無心で部屋に入り
彼が横になり寝ているのを見た

朝早い空気の重い部屋
半分開けられたカーテンの隙間から光が入り
重い空気に反射して部屋の焦点がボケて
いつも見てきた部屋が
時の止まった部屋に見えた

友人は布団に寝かされ
顔に白い布をかけて
頭の後ろにある蝋燭の灯が
風もない部屋でユラユラと揺れている
光にキラキラ反射した埃が宙を舞い
光のカーテンを作り彼の顔に掛けられた
白い布を照らす
鼻に線香の香りが刺さる

父親は
白い布を取り顔を見せてくれた
死人とは思えない綺麗な顔で
眠っていた

正座し横に座った僕は言葉が出ない
事実を受け止めきれず思わず声をかける
声は震えながら
「朝練 先に行くよ・・・」と
そして心の中で
遅れずに迎えにきたよと呟く

僕は全く信じられないまま学校へ向かった
早く学校に行って仲間と会いたい

まだ僕は、皆で壮大なドッキリをしていると疑い
学校に行けばネタバレして嘘だという期待を胸に
自転車を急いでこぐ

段々学校に近づくにつれ

嘘じゃない!これ現実かも・・・
本当に死んだ?

心はかなり乱れ一気に涙がこぼれ堕ち
目の前が見えなくなった

もしこれが現実なら

二人で話す事も遊ぶことも
バレーボールで一緒にコートに立つことも
決めた試合のサインも
1年の時に約束した僕らの誓いも
卒業し仕事の悩み
結婚話や子供の話
一生続くと思った関係も

何も何も何も
まだ何一つとして・・・
始まってない

こんな形で終わるのは酷い
涙が止まらない
初めて僕は彼が嫌いになった


それから、慌ただしく葬儀が終わり
火葬され僕らの目の前から突然消えた

それでも
日常が無情にも始まっていく

怒りや悲しみや嘆きは行き場を失い
心に出来た穴を埋めるように部活に専念し
無我夢中でボールを見ている時だけ
忘れる事ができた
しかしコートにも教室にも体育館にも
彼はいない
あれだけ楽しかった部活の帰り道が
こんなに辛くなるなんて


月日が経った頃
修学旅行の前
カセットテープを受け取った事を思いだした
彼女の為に編集したA面だけのテープ

カセットテープを引き出しから探し
裏に書かれた彼が選んだ曲のタイトルをみた

A面
1、DAY DREAM BELIEVER
2、スローバラード
3、君が僕を知ってる
他、RCサクセション忌野清志郎BESTと書いてあった

B面は空白だった

僕は初めて忌野清志郎の名前を知る
カセットデッキにテープを入れ再生した

忌野清志郎の高い歌声と心に突き刺さる歌詞
初めて聞く歌声、メロディーに涙があふれ出た

清志郎の歌詞に
短い彼の人生を重ねるように聞いていた

歌というのは人間の記憶を鮮明に戻す時がある
あの時、あの場所、あの匂いを思い出す

忌野清志郎は2009年に58歳で他界した
日本の音楽界のキングオブロック

激しい歌詞や音楽を歌いながらも
ラブソングは切なくて
本人はチャーミングで愛嬌があり憎めない
生き方そのものがカッコいい

彼とは2年間で部活を通じ
ほぼ毎日一緒だった濃い時間を過ごしてきた
そして卒業してからも関係は続くと
思っていたけど

まるでB面が録音されてない
カセットテープのようにA面だけで
終わった関係

その憤りのない心の穴を
清志郎の歌声が埋めてくれていた
それから清志郎を聞くようになった

亡くなった日曜日の夕方
彼女の家にバイクで行き別れる事になった
その帰り道、バイク事故で命を落とした

テープには彼女に聞かせたかったであろう
想いの歌が録音されてて
清志郎が歌ってる

もう終わった恋かもしれないけど
知れば、彼女は自分を責め傷つくかもしれない
カセットテープの存在を
彼女に伝える事ができなかった

高校3年の最後の引退試合
僕は彼の母から亡くなった後に
ゆずり受けたバレーシューズを履いて
彼と一緒にコートに立ち試合に臨んだ

僕は普段より高い打点でアタックを決め
公式試合の中で一番調子がよく
スタミナ切れもなく不思議とずっと全力で
コートの中を走ってられた

最後、アタックされ
はじかれた白いボールを
皆で追いかけていた時
スローモーションのように
2年半が駆け巡り、拾えないと分かりながらも
みんなで1つのボール見つめ
コートの他の5人の顔が順番に見え
もう僕たちも十分戦ってきたと
天国の彼に声をかけたように思えた

ボールは地面に落ち
青春の終わりを告げるホイッスルの音が
高く鳴った

彼と約束した夢はかなわなかったけど
2年半の部活生活を完全燃焼した

忌野清志郎の音楽は
激しさの中で時に悲しく聞こえ
独特な歌声は青春時代を共にした彼が
僕に残した古いカセットテープを
今でも思い出させてくれる

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