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友人が詐欺師になった日【前編】-ヤンキー的起業で搾取される恐ろしさ。

東京は詐欺師が多い街だ。人間がたくさんいるから、悪評が立ちにくい。東京のネガティブキャンペーンをするなら、「詐欺師の楽園」かもしれない。

上京して11年が経つ。この街の歩き方はそれなりに憶えたつもりだ。詐欺師の楽園が、僕はそんなに嫌いじゃない。

この11年、数え切れないほどの詐欺師を目にしてきた。このマガジンにも度々登場している。イケてる起業家風の詐欺師がひどくセコい詐欺をはたらいていた話とか、インタビューした相手が嘘ばっかり喋っていた話とか、意識高い系学生コミュニティに出入りする若者に騙された話とか、詐欺師ネタは腐るほどある。


僕も昔ほんの少しだけ騙されたことはあるけれど、それほど大きなダメージを負ったことはない。せいぜい20万円分の労力を失ったぐらいだから、有料マガジンのネタにすればペイする程度だ。詐欺に引っかかるとしてもそのぐらいがちょうどいい。いいかい学生さん、20万円をな、20万円を失うくらいにしときなよ。

美味しんぼ11巻 より引用


学生時代に一度騙されて20万円くらい損しておいて、上手に詐欺を回避できるようになる。それが人生の王道だと思う。『詐欺しんぼ』があるとしたら、きっとそういう話が描かれると思う。


常に期待値計算をして歩け

正しい東京の歩き方は、実にシンプルだ。「常に期待値計算をして歩け」。ただそれだけ。

詐欺に引っかかること自体は、実は大した問題ではない。詐欺に引っかかるのと投資で損失を出すのは現象としてほぼ同じだ。そもそも、詐欺と投資失敗の間に明確な線引きはない。「絶対上手くいくと思って荒唐無稽なビジネスアイデアを打ち出した人間が資金を集めて大コケした」という状態は、投資だか詐欺だか曖昧なのである。刑法には問われないかもしれないが、投資して損をした側からしたらぶっちゃけほとんど詐欺なのだ。

したがって、詐欺に引っかかることは投資失敗の1ジャンルと捉えるのがいい。巷のベンチャーキャピタルなんて詐欺みたいなアイデアに投資しまくって10個のうち9つは倒産しているワケだし、失敗を恐れるのはナンセンスである。

そういうことで、投資と詐欺は実は1セットで考えた方が良い。するとスマートな行動原理がひとつだけ導かれる。「今こいつに金を渡したらどうなるか?」を期待値ベースで考えるだけである。返ってきそうな金額と確率をなんとなく考えて、プラスになるかどうかを判断するだけだ。投資と詐欺は地続きなのだ。

……と、概論をゴチャゴチャ語っていても面白くないので、ここから実例に行こう。往々にして、価値があるのは抽象論でなくこの上なく具体的な事例なのだから。


つい先日、「東京の歩き方」を語る上で最高にちょうどいい実例が発生したから、今日はその話を書こう。僕の友人が詐欺師になって数千万の金をかき集めてバックレた話だ。

そして、危うく僕自身も被害に合いそうだった。600万ほど彼に取られる可能性があった。幸い、僕は期待値計算をして「持ち逃げされそうだし600万は到底出せないな」と思ったので無傷で済んだが、金を取られた人もいた。

金を取られた人には本当に同情するけれど、それでも僕はこの友人を大嫌いになることはできない。なぜだろうか。それは、心のどこかで覚悟していたからなのかもしれない。僕と彼の付き合い方は常にこの手の離別の可能性を孕んでいた。今となっては、内心いつかこうなると思いながら付き合っていたような気さえする。だから僕は彼と親しくなりすぎないように気をつけていたのかもしれないし、だから騙されずに済んだのかもしれない。もちろん、すべては後知恵バイアスにすぎないのだけれど。


僕と彼との物語を書こう。彼との出会いと、なぜ僕が彼と友人になったのか。友人にもかかわらず信用しなかった理由。それから、その詐欺の手口と、僕が彼を大嫌いになれない理由まで、すべて赤裸々に書いてみようと思う。

まず、本日の【前編】では、彼が置かれていた特殊な状況について述べたい。彼を象徴するふたつのキーワードを述べると、「倫理観が欠如している」と「労働者として搾取されている」であった。彼は経営者だったが、普通の起業ではなく「ヤンキー的起業」をしていたため、経営者として非常に複雑な状態になっていた。これが彼の今回の詐欺事件を引き起こしたと思われる。

したがって、まず本記事では彼の複雑な状況について詳述する。彼との出会いや人物像、それから、彼が実施したヤンキー的起業についてヒアリングした内容を書き、特殊な境遇に置かれていたことを述べる。

続いて、来週の【後編】では、これを踏まえて「彼はどんな詐欺をすることになったのか」を述べる。2本立ての記事になるので、ぜひ合わせてお読みいただきたい。

詐欺に引っかからない「東京の歩き方」を知りたい皆さまにとってはそれなりに有益な記事になるだろうし、野次馬として僕とその周りで巻き起こった詐欺事件を楽しむのにもちょうどいいだろう。それから、内心詐欺師かもしれないと思いながら距離を取って仲良くするという非常に東京的な人間関係の物語としても楽しめると思う。各々の受け取り方で、ぜひお楽しみくださいませ。

極めて具体的な話が出るので、以下有料になる。単品購入(300円)もできるが、定期購読(500円/月)がオススメだ。いつ入っても今月書かれた記事は全部読める。3月は4本更新なので、バラバラに買うより2.4倍オトク。前後編合わせて買うより定期購読の方が安いので、ぜひこの機会に定期購読してくださいませ。


それでは早速見ていこう。今回の詐欺師は、こういう人だ……。


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