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【実名あり】イケてる起業家風の詐欺師を紹介【前編】~たかよしクリエイターだと気づいた日。

「熊本の起業家コミュニティはとにかく小さい。ほぼ全員が顔見知りで、何か悪事をやらかすと一瞬で伝わってしまう

熊本県で会社をやっている友人はそう言った。

「それはとても健全ですね。詐欺師が排除される自浄作用があるってことだから」

僕が思ったままを言うと、彼は「そうだね。息苦しいと感じる人もいるかもしれないけれど、詐欺師が生き続けられないのは良いところだ」と答えた。


「ムラ社会」という言葉には、悪いイメージがつきまとう。閉鎖的で、陰険で、同調圧力に支配されていて……。そんなイメージだ。

だけど、良いところもあるのかもしれない。「人間の評価が共有されている」というのがその1つだ。あそこの次男は問題児だとか、あそこの旦那はアル中だとか、そういう評価に簡単にアクセスできる。

それは、都会ではまず不可能だ。あまりにも多くの人間が、あまりにも高い頻度で現れたり消えたりしていく。現れた人の正確な評価にアクセスするのは難しい。結局、儲け話を持ってきた目の前の男が詐欺師かどうかは、自分の頭と勘で判断するしかない。

その結果、人々は何度でも騙される。同じ詐欺師が同じような手口を繰り返し、彼らは大手を振るって都心を歩き回り続けるのだ。


インターネットは「ムラ社会2.0」を作るか?

「詐欺師が生存できてしまう」という都市の欠陥を解決するのではないかと言われたテクノロジーが存在する。インターネットだ。

特にSNSの力がやたらと喧伝されていた2010年頃、インターネットによって「ムラ社会2.0が生まれる」というような言説が持て囃された。

つまり、ムラ社会と都会のいいとこ取りである。人々はしがらみに囚われることなく自由に生活するが、人の評判だけは可視化されている。そんな理想郷が実現できると、多くの人が夢見ていた。


つまりこういうことだ。一度顔を合わせたことがあるだけの男が突然「ここだけの話なんだけど…」とウマい投資話を持ってくる。「初期費用50万を投資すれば1年後に2倍になって戻ってくる」と。

あなたは降って湧いたウマい話に少し警戒しながら、「もし本当ならぜひ乗っかりたい」と考える。しかし残念ながら材料が少なすぎて、この男が信用できるかどうかさっぱり分からない。

そこであなたは、トイレに行くことにする。個室の便座に腰掛けながら、スマートフォンを取り出し、Googleで彼の名前”山本雄介”を検索する。

検索結果を見ると、気になったものがいくつかある。「投資詐欺を持ちかけてくる山本雄介について【注意喚起】」というブログ記事だ。

中身を読んでみると、まさに今あなたが持ちかけられた話と同じものが書かれていた。そして、約束されたリターンが実行されることはなく、50万円は丸ごと損することになった……という、あなたが辿るであろう顛末までもが詳細に記されている。

あなたはトイレから席に戻り、「せっかくだけど気が進まないので…」とテキトウな口実をつけて投資話を断る。交渉のテーブルから立ち去り、二度と彼と関わることはない。

これこそまさに理想郷の「ムラ社会2.0」である。インターネットによって評判が可視化されているから、詐欺に引っかからなくて済んだ。インターネットがムラ社会の恩恵を代替してくれたのだ。


……たしかに、この理想郷のビジョンは素晴らしい。技術的には文句なしに実現可能だし、実現できれば社会はずっと良いものになる。


引退させられた結婚詐欺師

実際、インターネットが詐欺師を駆逐した例もある。

例えば、である。

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(画像引用元:'Tinder con man' leaves Griffith woman heartbroken and counting the cost )


この男の名はブレット・ジョセフ。オーストラリアの結婚詐欺師だ。

彼の話は、日本では一切ニュースにならなかったのだが、海外ではちょっとした話題になっていた。

彼には結婚詐欺師として致命的に不運な点が1つあった。初期に騙した女性の1人が、とてつもなくタフで執念深かったことだ。

結婚詐欺師に騙された女性は「騙されちゃった…」と落ち込みそうなものだが、彼女はタフである。「こいつを絶対に許さない」と考え、インターネットに彼の写真をばら撒き始めた

その女性は自らのFacebookにこう投稿している。

私の目標は、彼の顔写真と遍歴があらゆるソーシャルメディアに掲載されることです。そして、他の女性が私と同じように騙され、傷つくことがないようにすることです。

'Tinder con man' leaves Griffith woman heartbroken and counting the cost より引用。翻訳は僕。)

すごい執念である。この男についての情報を書く特設Webサイトまで用意したというのだから驚きだ。


そして、彼女の執念は鮮やかに実を結んだ。ブレット・ジョセフはこの後、オーストラリアで結婚詐欺師として活動できなくなった

ブレット・ジョセフは何名かの女性に詐欺を持ちかけたようだが、彼女らは懸命にも彼の名前をインターネットで検索し、「こいつ詐欺師じゃん」と気づいたのだ。結局、彼の詐欺は成就しなかった。

しかたないので、彼は活動場所をアメリカに移したアメリカで偽名を使って活動することにしたのだ。(まともな職に就くという発想は彼にはないらしい。一貫していて好感が持てる)

しかしアメリカでも結局正体がバレてしまう。婚約者はひょんなことから彼の偽名を知ることになり、すぐに真相に辿り着いた。インターネットで検索すれば、遠い海を越えてオーストラリアでの悪事に瞬時にアクセスできるのだ。これは従来のムラ社会では不可能だったこと、まさにムラ社会2.0の恩恵である。


この通り、インターネットのお陰でムラ社会2.0は確かに実現されたのである。ただし、ごく狭い範囲で、だが。


むしろ詐欺の材料になったムラ社会2.0

2010年頃のSNSの盛り上がりは本当にすごかった。「インターネットによってその人の評判は可視化される!」「お金よりも信用が大事になる時代!」「評価経済社会!」などと、多くの人がムラ社会2.0を色々な言葉で言い換えながら語っていた。

彼らの言説を真に受けると、確かにムラ社会2.0の到来が近そうな気がした。我々は「評価」と分かちがたく生活することになるのだ、バラ色の未来がもう目前に来ているのだ……そんな予感があった。


しかし、あれから10年が経ち、2020年になったが、今のところ詐欺師は全然撲滅されそうにない

それどころか、「評価経済社会!」と語っていたまさにその人たちが詐欺師みたいになってしまった。「これからは個人に評価をつけないと生き残れないですよ?個人に評価をつける方法を50万円で教えますよ?」とか言い出すようになってしまった。ミイラ取りがミイラになるとはまさにこのことである。

結局、詐欺師の駆逐に役立つはずだった「ムラ社会2.0」という概念は単なるバズワードに成り下がり、むしろ詐欺師の格好の材料になってしまった。皮肉な話である。


なぜ「ムラ社会2.0」は生まれなかったか?

ムラ社会2.0は、アイディアとしては正しかった。技術的には間違いなく実現可能だった。

問題だったのは、技術的ハードルではなく人間的ハードルである。

人間は基本的に、揉めた相手の情報や顛末を事細かに記録したいなどと考えない。むしろ、もう関わらずに早く忘れたいと考える。

詐欺師にキレて特設Webサイトを用意する人はごく一部の例外に過ぎない。ほとんどの人はそんなことをしない。訴訟リスクとストレス値が増大するだけで自分には一円の得もないのだから。


そういうワケで、「ムラ社会2.0」やら「評価経済社会」やらという言葉は片手落ちになることを運命づけられた。ネットに存在する評価は「○○さんはいつも元気をくれる人です!」という、絡みのない卒業生の色紙に無理やり一言書いた寄せ書きばりの無意味な情報のみで、「○○さんに100万騙し取られました」というクリティカルな情報は表に出ない。

本来は「その人物の評価に誰でもアクセス可能」な社会を志向したはずなのに、「寄せ書きのどうでも良い一言に大量にアクセス可能」な社会が生まれてしまった。「○○さんはとても優しい人でした!高校に行っても頑張ってください!」という寄せ書き情報にアクセスしたい人は存在しないので、これではただのサーバー容量のムダ使いである。

ムラ社会2.0は、ただのサーバームダ使い寄せ書き社会になった

2020年現在もこの状況は改善されていないし、この問題が技術的な問題ではなく人間的な問題である以上、今後も改善しないだろう。我々は自衛のために詐欺師を見抜く眼力を養っていくしかない。


寄せ書きではない情報をあなたに

そういうワケで、インターネットには残念ながら寄せ書き情報ばかりが転がっている。上で見たように、その原因は主に2点である。

①1円にもならないのに、わざわざ不快な話を書きたくない
②訴訟リスクを負いたくない

この2点がある以上、寄せ書きインターネットが誕生してしまうのはしかたのないことだ。

しかし、この2点のくびきから解き放たれている人間がいる。である。

僕は、

①この有料マガジンからそれなりの収入を得ているし、人をバカにするのが好きである
②有料部分で書けば訴訟リスクも(あんまり)ない

という状態だ。

つまり「こいつ詐欺師じゃん」情報をインターネットに書くのに適した数少ない人間である。


ということで、今日は実名写真出しで「現役でブイブイ言わせてる起業家風だけど、実はそいつ詐欺師だよ」みたいな話を書く。

もちろん、既にネットで話題になっているような「詐欺まがいインフルエンサー」を扱うワケではなく、完全に初出の詐欺師を扱う。詐欺師の「新作」である

読者諸賢においては「単なる野次馬として楽しむ」のもよし、「詐欺師を見破る訓練・モデルケースとして活用する」のもよしだ。


以下、当然ながら有料になる。単品購入(300円)もできるが、定期購読(500円/月)を強くオススメしたい。いつ始めても今月の記事4本は全部読めるし、2本読めば元が取れる。

また、今回の内容は「前編」である。前編では「僕と彼の出会い」「イケてる起業家だと思ったけど、会って話してみたら実はそうじゃなかった」「それどころか、最も困った人種だった」あたりについて書いている。そして後編で本格的に「こんなことをやっていた」という悪評の部分に入っていく。

つまり、残念ながら前編だけ読んでも面白さは激減する。アニメ『名探偵コナン』の前編だけを見てもしょうがないだろうといえば伝わるだろうか。

定期購読をしておけば、今週の「前編」に続き、来週の「後編」も読めるので、今回の記事が読みたい方はぜひ定期購読をして欲しい。

また、タイトルの「たかよしクリエイター」という謎の単語の意味も、有料部分を読めば分かるようになっている。(分かったから別にどうということもないのだけれど)


では早速、人物紹介に入ろう。


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