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狂人の本質-嘘つきに取材して聞いたしょうもない作り話と、その精神医学的分析【前編】

最近はあまりやってないが、一時期の僕は「変わった体験を持っている人」に積極的に話を聞きに行っていた。

単に話を聞くだけではない。面白い話が聞ける確率が高い場合には最初から「取材」という形を取り、記事にすることもあった。新しい悪徳商法の被害に遭いかけた友人を取材して悪徳商法の手口を丸裸にし、訴訟を起こされかけるという騒ぎになったこともある。

たまに訴訟を起こされそうになるという些細な問題点を除けば、この体験は楽しいものだ。変わった体験を、リアルな声を通して聞けるのは本当に面白い。興味深い詐欺スキームを、感情が籠もった被害者の肉声を通して聞けた時などは心が震える。


だけど当然、空振りもある。「面白い話が聞けそうだ」と期待して聞きに行ったけれど、「あ、これ全然ダメだ。無駄足だった」みたいになることもある。


その最も顕著な例が、2年ほど前に取材を行った一人の青年だ。

彼とはとあるイベントで知り合った。初対面の挨拶を終えたあとに10分ほどの会話を交わした際、彼は自分の珍しいライフスタイルと経験について語ってくれた。これは割と面白く、興味をひかれる話だったので、僕は「こいつ面白いじゃん」と思わずにはいられなかった。

しかも、折りよく彼は「インターネットで有名になりたい」みたいなことを言っていた。これは取材チャンスである。「君のその面白いライフスタイルを公開していけば十分に注目を集められると思う」と伝えた上で、「何なら僕が取材して記事にしようか?」と提案してみた。彼は「ぜひお願いします」と快諾してくれた。すぐに取材の日程や段取りを決めて、その日の会話は終わった。


当日、ワクワクしながら取材を始めた僕は、彼の話を聞きながらものすごくがっかりした。彼はず~~~っっっと嘘を喋っていたからだ。

しかも、かなり早い段階でなんとなく嘘だと分かったのである。取材時間は2時間確保していたのだが、開始5分で「あ、こいつの喋ってること多分嘘ばっかりだ」と分かってしまった。

開始5分にして、残りの1時間55分を「こいつ嘘ついてるんだろうな~」と思いながら虚しく過ごすことが確定してしまった。


どうせ嘘をつくならもっと上手い嘘をついて欲しい。バレるにしても、せめて1時間くらい語った後でバレて欲しい。それなら、バレる前の1時間は楽しく話を聞けるのに。

僕は「もっと上手な嘘で騙してよ。浮気するならバレないようにやってよ」という、J-POPでよく描かれる心情になった。


浮気しても言わないでよね。知らなければ悲しくはならないでしょ

(back number『花束』)


back numberも歌っている通り、知らなければ悲しくはならないのだけれど、僕は彼の嘘を開始5分で知ってしまったので、ものすごく悲しい気持ちで取材を進めるハメになった。開始5分ってお前……、バレるの速すぎるだろ……。back numberの作詞者・清水依与吏が確実にブチ切れるぞ。


清水依与吏、絶対キレたら怖いぞ。

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(画像引用: https://entertainment-topics.jp/16664 )

キレたら怖い人の顔してるもん。普段は甘い歌声で恋愛ソングを歌うけど、キレたら容赦ないぞ。めっちゃ自然にナイフを持ち出してくるぞ。しかも歯止めが聞かなくなって何回も刺すぞ。「僕は何回だって何十回だって」という独特の言い回しで何回も刺すぞ。


……などと、しょうもない嘘つきを清水依与吏が刺しに来てくれることを祈っていても仕方ない。僕は「なるべく角が立たない感じで早めに切り上げよう」と考えながらインタビューを続けた。しょうもない人が語るしょうもない妄想をインタビューしないといけない苦行である。修行僧になった気分だった。


だが、しばらくやっている内に「それにしてもこいつの嘘はホントにひどいな」と感心し始め、途中から「なんでこんな嘘をつくんだろう?」という当初の予定とは全く違う興味が湧いてきた。いわば、嘘つきの分析が楽しくなってきたのだ。

人間の知的好奇心はすごい。どんなしょうもない話も一生懸命聴いていれば、(当初の予定とは違ったとしても)何かしら興味が湧いてくるものだ。僕は気づけば、彼の嘘を前のめりで聴くようになっていた。これが世にいう、嘘聴かーズハイである。


この楽しさは、ゲーム「人狼」の中で発生する楽しさに似ている。

「この人は嘘をついているのか?」を考えるのは楽しいし、「嘘をついているようだが、なぜ嘘をついているのか?狂人なのか?それとも人狼なのか?」を考えるのも楽しい。嘘を見抜くというのは知的ゲームにおける最も基本的な喜びの一つだ。

さらに言えば、僕は「もうバレているんだけど頑張って言い訳する人狼」を見るのが好きである。

「こいつ、矛盾だらけのむちゃくちゃな理屈で必死に反論しているなぁ」という気持ちになるのがたまらない。人が必死でバレバレの嘘をつくのを見るのは面白いのだ。

今回の嘘つき青年もこれに近かった。一生懸命バレバレの嘘をつき、細かいところをツッコまれると「いや、でもとにかく○○なんです!!」と力技で乗り切ろうとする。バレてるのに頑張る人狼にそっくりだ。


だが、今回は人狼をやっているワケではない。彼には何ら役割が与えられていない。彼は人狼でもないし狂人でもないのだ。にも関わらず、なぜか2時間ずっと必死で嘘をつきつづけている。いわば、彼は天然の狂人なのである。役割を与えられていないのに、ずっと狂人をやり続けている。

「天然の狂人」は観察対象として実に興味をそそられる。僕が段々楽しくなって彼の嘘を前のめりに聞き始めたのも無理のないことだと思わないだろうか?


この記事の構造について

ということで、今日の内容はこの「清水依与吏怒らせ嘘つき」であり「天然の狂人」である青年のインタビュー記事である。

しかし、前述の通り、彼の発言は嘘ばっかりであり、聞くに堪えないものである。普通のインタビュー記事にしてしまうと、とてもじゃないが読んでいられない。

だから、僕はこのインタビュー取材の内容をどう料理すればいいのか分からなかった。どのようにコンテンツに昇華すればいいのか分からなかったのだ。


そんな風に途方に暮れていた僕を救ったのが、『失敗の本質』という名著である。この本の構成に習えば、嘘つきのインタビューも良いコンテンツに昇華できるに違いない。

本書は、「ミッドウェー作戦」や「ガダルカナル作戦」といった日本軍の敗戦の経緯を一つずつ丁寧に見ていき、各章ごとにアナリシス(分析)を付している。この作戦は何が問題だったのか、どうすれば作戦が成功したのか。

そして、6つの作戦を見た後に、それら全てを綜合して分析し、「失敗の本質」をえぐり出すという構成になっている。

旧日本軍の失敗を扱った本だが、その内容は実に普遍的で、現代の日本人も犯しがちな失敗が克明に描かれている。『失敗の本質』というタイトルは看板に偽りなしだ。ビジネスシーンでも活かせる内容で、初版から30年以上経った今も多くのビジネスマンに読まれている。


今回、僕はこの『失敗の本質』と同じ構成で、「狂人の本質」をえぐり出すことにした。


まず、ちゃんとしたインタビュー記事にして、1章ずつ彼の語った内容を丁寧に見ていく。

その際、インタビュー記事の中には大量の注釈を入れることにする。明らかに嘘と分かる部分や、ツッコミどころ満載の部分に対して「※1」のように注釈を入れていく。

そして1章が終わるごとに「アナリシス(分析)」を入れ、全ての注釈に対して解説と分析を入れる。彼の言動のどこがおかしいのか、なぜこんな変な言動をしてしまっているのか、ツッコミを入れながら簡単に見ていく。

更に、全てのインタビューが終わった後に、全体を綜合して本格的な分析を行い、彼の根底にあるものは何なのかを考察する。彼の全ての嘘から導ける「狂人の本質」にたどり着くことを目標とする、という構成である。


今週の記事(前編)では、主にインタビュー内容とそれぞれのアナリシスを扱う。

そして、来週の記事(後編)では、前編の内容を踏まえて、「狂人の本質」に迫る。


後編では主に精神医学・進化心理学などの知見から「狂人の本質」に迫ろうと思う。この分析部分を書くために「嘘つき」に関する本を色々読んだ。大変だった

だが、色々読んだ収穫はあった。やはり彼のインタビュー内容は絶好のケーススタディであり、

・なぜ、彼の発言は嘘だとバレてしまうのか?
・嘘をつく人の普遍的な特徴とは?
・彼はなぜ一文の得もない嘘をついてしまうのか?

といったことが、今回のインタビューを通してよく分かる。


ということで、以下有料である。本人の写真をガッツリ出しながら、リアルなインタビュー記録をお届けする。気になる方はぜひ課金して読んで欲しい。「こいつは嘘つき」ということが認識できるので、彼に騙されることもなくなる。嘘つきの顔を一人でも多く憶えておきたい方には特にオススメだ。

また、前述の通り、今回の記事は大作になったので、前後編に分割して公開する。前編も後編も単品購入(300円)できるが、両方買うと600円になる。それよりも、「炎上ノート2020年6月分詰め合わせ(750円)」を購入するのをオススメしたい。6月分の記事5本が全部読めるので、詰め合わせを買う方が明らかにお得だ。読みたい方はぜひこちらをご検討ください。


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