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認知科学による「地獄の発生メカニズム」-人はなぜ無のオンラインサロンを始めるのか

与えよ、さらば与えられん(ルカの福音書6章38節)


「返報性の原理」という心理学用語が一般的になって久しい。要するに、「人は親切にされるとお返しをしたくなる」という話なのだけれど、この話は心理学博士であるデニス・リーガンの実験で実証された。

ざっくり言うと「ジュースをプレゼントした後でお願い事をすると、何もなしでお願い事をするよりも圧倒的に引き受けてもらえた」という実験結果が出たのである。

この実験は『影響力の武器~なぜ、人は動かされるのか』というたいへんに売れたマーケティング本で紹介されて、世界中で一躍有名になった。「まずGiveをしましょう」みたいな使い古されたことを教えるしょうもないセミナー講師やインフルエンサーの元ネタ本はこれである。


デニス・リーガン博士の実験に関する論文は1971年に出ているのだが、それがマーケティング本で紹介されて一躍有名になるまでに30年近い時を要した。更に、しょうもないセミナー講師やインフルエンサーは更にそのマーケティング本の中身をドヤ顔で20年喋り続けている。学問上の素晴らしい発見というものはコスり倒される運命にある。

数年前、インターネットにおいても「まずGiveをしよう」がバズワードになった時があった。5年くらい前だったように思う。あの時期のインフルエンサーはしょっちゅう「Give&TakeからGive&Giveへ!」みたいなことを叫んでいた。「見返りとか気にしないでとりあえずGiveするぜ!」がイケている雰囲気だったし、「俺たちは最先端のイデオロギーをやるぜ!」という様子だった。根拠となる論文が40年以上前のものであることを考えると極めて滑稽なのだけれど、それが「最先端」のイデオロギーだとされていた。


ところで、新約聖書にも思いっきり「まずGiveをしよう」という教えが出てくる。冒頭で引用した「与えよ、さらば与えられん」(ルカの福音書6章38節)である。これは紀元1~2世紀頃に書かれたものであるから、1900年くらい前のものだ。

「最先端のイデオロギーをやってるぜ!」とハシャいでいたインフルエンサーは、1900年前から存在していて40年前には検証された教えを時代の最先端として扱っていた。ブームというものは俯瞰して見ると実に滑稽なものである。ルカも「今更こいつら何言ってんの…?1900年前に俺たちが書いた地球で一番有名な本に書いてあることを、なんで今新しく発見したみたいな感じなの…??」と天界で困惑していたことだろう。


そういうことで、今大学生だったり進路に悩んだりしている諸君にはぜひ宗教・哲学・世界史といったリベラルアーツ的な学問を勉強して欲しい。そうすれば軽薄な人たちの軽薄な流行り言葉に振り回されなくなるからだ。

「これからはGiveの世の中だ!好きなことをやって生きている人間にはGiveが集まるから、就職しないで生きていこう!」なんて軽薄な言葉に踊らされるべきではない。踊らされて就職しなかった僕が言うんだから間違いない


悪魔でも聖書を引用できる。

話が逸れてしまった。返報性の原理の話だ。

「人に親切にしてあげると親切が返ってくる」というのが返報性の原理なのだけれど、それをこのマガジン版風に書き換えると「地獄を紹介してると地獄が紹介されてくる」ということになる。

僕は今まで、「この人地獄です!」と、勇気を振り絞って痴漢を告発する女子高生ばりの地獄紹介記事を何度も書いてきた。


インターネットにいる「ほんとうの地獄」を紹介していく(1)

インターネットにいる「ほんとうの地獄」を紹介していく(2)

インターネットにいる「ほんとうの地獄」を紹介していく(3)

インターネットにいる「ほんとうの地獄」を紹介していく(4)-ネット芸人は牧畜業


この事態に対しても返報性の原理が働いているらしく、最近はしばしば「この人も地獄です!よかったらネタにしてください!」と地獄が返ってくるようになった地獄にも返報性があるのだ。

悪魔でも聖書を引用できる」というセリフが『ヴェニスの商人』に登場するが、この場合は「地獄にも聖書の教えが通用する」だろうか。「(地獄を)与えよ、さらば(地獄が)与えられん」である。

そういうワケで、最近の僕は毎日のように新しい地獄をチェックするという、インターネット閻魔的なポジションをいつの間にか獲得してしまった。全然嬉しくない。来世はもっと爽やかな恋愛相談とかが寄せられる人になりたい。生まれ変わったらカツセマサヒコになりたい。


インターネット閻魔の読書法

来世の話はともかく、現世はもうインターネット閻魔をやるしかないと腹をくくっているので、最近は割と「インターネット閻魔業に活かせそうな本を読もう」と考えながら読書している。

以前「ショーペンハウアーがあのインフルエンサーを殴るnote」という記事を書いたことがあるが、ああいうヤツを書くためだ。僕はただ人の悪口を書きたいのではなく、古典や科学的根拠を元にした興味深い悪口を書きたいのであり、そのためには良質なインプットが必要になる。読む本の選定は非常に重要だ。


そんな本の選定に頭を悩ませる日々の中で、「これは使えそうだ!」と思い瞬時に購入した本がこちら。



この本、メチャクチャ面白かったので超オススメである。

主題としては

・「我々はいかに無知か」
・「無知なのになぜ、自分は知っていると思い込むのか」
・「無知である我々が、今やるべきことは何か」

といった感じ。これらのテーマについて、大量の実験結果や科学的根拠を提示されて語られる。


特に圧巻だったのは、このあたりの話。

・我々は自分の知識と他人の知識を区別することが苦手である。
・Google検索によって得た知識なのか元々持っていた知識なのか、時間を置くとすぐに分からなくなる。
・Google検索を繰り返す内に「自分は何でも知っている」と誤認するようになる。

これが統計的に意味のある実験結果として発表されているのだ。

「無知の知」は、ソクラテスの時代ですら、ソクラテス以外の人はほとんど持ちえなかった。誰もが世界のことを知っている気でいた。

現代では、「無知の知」を持つことは更に困難になっている。インターネットという巨大な知識データベースが我々を誤認させるのである。もしかしたら現代においてはソクラテスですら「無知の知」を持てないかもしれない


そんな途方もなく示唆に富んだこの本は、予想通り、地獄を分析するために大いに活きる本だった。


ということで、今回はこの『無知の科学』をフル活用しながら、「人はなぜ無のオンラインサロンを始めてしまうのか」あるいは「地獄の発生原理」について書いていこうと思う。「認知科学×地獄」の記事である。

もちろん、実名を出しての実例も扱っていくので、以下有料になる。

認知科学の知見を使ってインターネット地獄パーソンを詳細に分析するという記事は恐らく世界初なのではないだろうかと思う。世界初だから何なんだという話ではあるのだけれど、興味をお持ちの方はぜひ課金して読んで欲しい。単品購入(300円)もできるが、定期購読(500円/月)がオススメだ。いつ入っても今月分の記事は全部読めるよ。4月は4本更新。


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