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日本の組織に合った「心理的安全性」とは?そしてリーダーシップとしての「心理的柔軟性」とは?

組織・チームにおける「心理的安全性」の重要性が叫ばれて久しい。日本においても「心理的安全性」を高めようとする取り組みが増えています。

しかし、そもそも「心理的安全性」の定義が曖昧であったり、ただ「話しやすい環境を作ればいい」と1on1の場を設けるだけにとどまるケースも耳にします。

今回登壇したのは、日本の組織に合った「心理的安全性」の研究・研修のリーディング・カンパニーである株式会社ZENTech取締役の石井遼介さん。

ビジネスサイドで活動する傍ら、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科で学術研究も行っている「心理的安全性」のスペシャリストです。

日本の組織において「心理的安全性が高い」とはどんな状態なのか?

そして「心理的安全性」を高めるために重要な「心理的柔軟性」とは何か?

研究者としての精緻な概念定義から、実践者としての具体策まで、幅広くお話頂きました。

2020年2月12日に開催された「HR Millennial Lounge#7」の内容を、約6000字のフルレポートでお届けします。ぜひ最後までお付き合いください。

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「心理的安全性」と「心理的柔軟性」の研究者

みなさんこんばんは。石井でございます。よろしくお願い致します。

今日は「チームに心理的安全性をもたらす4つの因子」というテーマです。関屋先生からのアカデミックなバトンを受けて、もう少しビジネスサイドに向けたお話ができればと思っています。(関屋先生のレポートはこちら

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株式会社ZENTech 取締役 石井遼介さん

最初に私の自己紹介ですけれども、心理的安全性の研究者であるとご理解いただけたらと思います。現在は慶應義塾大学のシステムデザイン・マネジメント研究科(SDM)で、行動科学の研究者として「心理的安全性」や、まだみなさん耳慣れないかもしれませんが「心理的柔軟性」の研究を行っています。

一方、ビジネスパーソンとして株式会社ZENTechの取締役を務めています。こちらでは「心理的安全性」の研修や組織診断サーベイのご提供をさせて頂いています。

「心理的安全性」とは?

さて、最近話題の「心理的安全性」とは?というところなんですけれども、

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「チームの心理的安全性」研究の第一人者であるハーバード大学のエドモンドソン先生は、「チームの心理的安全性とは、チームの中でリスクを取っても大丈夫だ、というチームメンバーに共有される信念」だと言っています。

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でも、ちょっとこれ難しくないですか?

ここで語られているチームの中の「リスク」とは、いったい何なのでしょうか?

チームの学習を阻害する4つの「リスク」

その答えは今からお話しする4つのリスクです。このリスクがある時に、チームは「心理的に安全ではない」と言えます。

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「無知」だと思われたくない。だから必要な相談、質問をしない。

「無能」と思われたくない。だからミスを隠したり、良い部分だけ報告し、自分の意見を言わない。

「邪魔」だと思われたくないので、必要でも助けやフィードバックを求めない。

「否定的」と思われたくないから、是々非々で議論しない。この4つのリスクです。

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4つのリスクから生まれる不安から自由になり、成果に繋がる行動し集中し、その実践から学ぶことで、「学習ができるチーム」になることができます。

つまり、心理的に安全なチームは「学習ができるチーム」なのです。

その結果、「学習ができるチーム」はそうでないチームと比べて、中長期にパフォーマンスが高くなるというのがエドモンドソン先生の研究結果です。

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心理的に安全なチームを作っても、明日すぐに成果は出ない。

ここで大事な点は、「学習が先で、パフォーマンスが出るのは後」ということです。

「今日安全なチームを作ったから、明日から成果が出るだろう」ということではなくて、「学べるチーム」になると、チーム内の思考回数が増え、話す回数が増えるので「中長期的に見ると」成果に差が出るということです。

イメージしやすいように、イラストをつくってきました。まずは「学習」という芽が出て、その後に「成果」という実になるということです。

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日本の組織ならではの「心理的安全性の条件」とは

ここまでアメリカの研究をご紹介したのですが、日本の組織でも当てはまるのでしょうか?

我々は「日本の組織ならではの心理的安全性の条件とは何か」について研究していて、心理的安全性の新しい尺度とサーベイを開発しています。

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近年、サーベイ開発の新しい潮流が来ています。

「Updated COSMIN」というものなんですが、2018年に医療分野でサーベイのスタンダードが大幅に改定されたこと、またエドモンドソン先生がサーベイを開発したのは1999年だったので、そろそろ改定する時期なのではないかということで、開発を進めています。

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我々はこのUpdatedCOSMINを参照しながら、アンケート項目の開発を行っておりまして、

「日本の組織における心理的安全性」には4つの要素があるのではないかという結論になりました。

その4つとは、「話しやすさ」「助け合い」「挑戦」「新奇歓迎」です。

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この4つがある時、日本の組織は「心理的安全性」を感じるんですね。ひとつずつ見ていきたいと思います。

1つ目、「話しやすさ」ですね。

これは「誰かが問題やリスクに気づいた時に、声を上げられるチームか」「みんなが『これだ』と思っている時でも、反対意見を言えるチームか」ということです。

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2つ目「助け合い」です。

チームを作ったとしても会話が全くなかったら「チーム」とは言えませんよね。お互いに相互作用があって初めて「チーム」になったと言えます。

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3つ目は「挑戦」なんですけれども、

まずはチャレンジをして、それが成功しても失敗しても受け入れましょうと。

日本の大きい組織だと、チャレンジの結果、減点がついちゃうことがありますよね。そうではなくて、チャレンジをすることは、たとえ失敗したとしても得なことだと思えたらいいですよね。

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最後、「新奇歓迎」です。

やっぱり我々は人間なので、つい「慣れたやり方」や「慣れた人」と仕事をしたくなる生き物です。

しかしそうではなく、

「新しい視点を取り入れることを歓迎できるか?」
「役割に応じて、強みや個性を発揮することが歓迎されているとチームの人が感じているか?」

これらが「新奇歓迎」の因子になります。

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「4つの目盛り」を持ってチームを測る

この「4つの目盛り」を持ってチームを測ると、とても面白いです。

事例として、我々が現在サーベイを取らせていただいている会社さんを紹介したいと思います。

「水色」になっているのが、その会社さんの結果です。全国平均と比べると比較的高めに出ているのですが、本当にこの会社が心理的に安全なのか、もう少し詳しく見ていきましょう。

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「灰色」がいわゆる一般社員の方々で、「青色」がミドルマネージャーの方々なのですが、ミドルマネージャーの方々のほうが心理的安全性が低いですよね。

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一般的には、一般社員の方々のほうが心理的安全性は低い傾向にあります。リーダーの方が自分で色々と決められるので心理的安全性が高い傾向にあるのです。

しかしこの会社ではこの傾向が逆転していて、特に「③挑戦因子」が低いことが読み取れると思います。

このことから「ミドルマネージャーの方々が疲弊しているのではないか」と、この会社の社長さんにお話した際に、「確かにうちの会社ではミドルマネージャーにかなり多くを要求している」という風にお話をされていました。

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さらに、職種別に「全社」「ビジネス」「デザイナー」「エンジニア」と見たパターンです。この場合、緑色になっているエンジニアの心理的安全性が少し低いことが読み取れるかと思います。

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エンジニアの方々は、基本的に裁量が下がっていけばいくほど心理的安全性が低いという傾向があります。

裁量が少ない分「話しやすさ」や「挑戦」が減ってしまうことは、構造上ある程度仕方がない部分があるのですが、「助け合い」まで減っているところはケアできるかなと思います。

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このように「4つの目盛り」を持って組織を見てみることで、より精密に組織を分析し、アプローチできるようになります。

「余裕がある=心理的安全性が高い」わけではない

ここまで「心理的安全性の因子」についてをお話してきました。ここからは「心理的安全性をどう醸成していけばいいのか」について、お話していきたいと思います。

とその前に、お話しておきたいことがあります。

よく、心理的安全性は「ぬるい」組織の話だよね…という誤解があります。

ですがそうではなくて、世界の頂点を目指すオリンピック選手のようなチームでも、心理的安全性は大事です。

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僕は2017年から日本体操協会から委嘱され、医・科学スタッフとして関わっておりまして、心理的安全性の計測や研修を行っています。お手伝いしている新体操のチームでは2019年に史上初めて世界選手権でメダルを獲得しました。

2分30秒に命を削って全てを出し尽くす競技をしているアスリートにも、心理的安全性は重要なんですね。

この事例から、余裕があるチームだから心理的安全性が高いんですよね…ということではない、ということを押さえていただければなと思います。

過去の積み重ねが、チームの心理的安全性の状態を生む

それでは「心理的安全性をどのように醸成していくか」という話に戻りますけれども、

まず前提として大事なのは「チームの心理的安全性は、チームの歴史を背負っている」ということです。

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どういうことかというと、

例えば過去にある事件が起きた時にリーダーがどう対処したか、あるいはリーダーが逃げてしまった…とか、そのような経験がある種のチームの「トラウマ」のような形でチームに残ってしまうわけですよね。その積み重ねが、今のチームの心理的の状態となっているのです。

なので、心理的安全性の「Tips」や「表面上のノウハウ」を学んできても、すぐにそのチームの文脈では、役立たないことも多いです。

そのため、1つひとつの組織・チームに柔軟に対応できるような心のしなやかさ、専門用語では「心理的柔軟性」と言うのですが、これが大事になっていきます。

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リーダーシップとしての「心理的柔軟性」とは何か?

心理的柔軟性は、平たく言うと「正論や正しいことを言う」のではなく「役に立つことをしましょう」ということです。

これが「心理的柔軟性」の最も重要なコンセプトです。

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プライベートで嫌なことがあって、それがパフォーマンスに悪影響を及ぼしているメンバーがいた場合を考えてみましょう。

正論だと「いやいや、ちゃんと同じ給料が出てるんだからちゃんと働けよ」と言えてしまうのですが、正論を言われたからといってその人がパフォーマンスが出せるか…と言われたら、決してそうではありません。

正しいことを言っているけど役に立たない。よくあるパターンです。

そうではなく、「この状況で役に立つことは何か」を考えることが、心理的柔軟性の中で大事なことだと思っています。

心理的柔軟性は、本当は背景となる深い科学があるのですが、今日は時間も限られていますので、心理的に柔軟なアクションの例を、いくつか紹介したいと思います。

心理的に柔軟なアクションとは?

先ほど心理的安全性4つの因子を紹介しました。それぞれの因子に対して、明日から皆さんの組織にある文脈を考えた上で、実践していただきたいと思います。

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まずは「話しやすさ」です。

話しやすい状態をつくるためには「話せる」「聞ける」状態が増えていなければいけないですよね。

どうやって「話せる」ことを増やせるかと言うと、このやり方が役に立ちます。

考えを紙に書いて、ただ読み上げる。意外と、今まで意見が出てなかった方からも意見を引き出すことができたりします。

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2つ目いきましょう。何かトラブルが起きたときに「助け合う」アクションです。これは僕が好きなやつです。

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何かトラブルが起きた時に「問題が起きてちょうどよかったね」と、はじめはお一人、あなた自身の頭の中で。そして、うまくこのやり方をチームに広められたなら、チームみんなで、唱えることがおすすめです。

たとえ本当はちょうどよくなかったとしても、犯人探しではなくて現実的に対処ができるようになります。既に起きてしまったことに、囚われずにすむようになります。

みなさんも人生を振り返ると、トラブルって起こしたくなくても起きるじゃないですか。だからトラブルを楽しもうと考えるのが、心理的に柔軟な態度なんだと思います。

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3つ目いきます。「挑戦」することです。

みなさんご自身の過去を振り返っていただきますと、「あの先輩・上司から、こんな機会をもらったな」という経験があるのではないでしょうか?

その経験と同じことを、現在の部下・後輩に返すことができると、皆さんが「機会を与える側」になることができます。

与えた機会を部下・後輩の方々が掴んでいただけたら、チームの中で「挑戦」を増やすことに繋がります。なので、自分に対して「誰がどんな機会を与えてくれたのか」を振り返るのはすごくいいことだと思います。

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最後の4つ目です。「新奇歓迎」です。

ノウハウと言うのがはばかられるくらい素朴なことなんですが、メンバー1人ひとりの良いところを見つけて、ただただ「すごいね」と伝えるだけでも、相手は「ここにいてもいいんだ」「やってみてもいいんだ」という感覚が生まれます。

素直に、すごいな、と思ったことを伝えてみてください。「ただやってみて」と言われたら誰でもできることだと思うので、ぜひ試してみてください。

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最後にお伝えしたいのは、

心の中で「難しそうだな」「できなそうだな」と思ってしまうことも多々あるとは思います。それでも、ただ行動することは、実はできることです。みなさんも、月曜日に「出社したくないな」と思っても時間通りに会社に行っているじゃないですか。

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なので、「①話しやすさ ②助け合い ③挑戦 ④新奇歓迎」の、4つの因子について、それが役に立つだろうなと感じるときに、ただ、やってみてください。

それこそが、組織に心理的安全性をもたらす、心理的に柔軟なリーダーシップです。

ありがとうございました。


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