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心理的安全性の本質は、ネガティブな経験を「自然なこと」として受け入れること。

みなさんは「心理的安全性の高い」状態をどのようにイメージするでしょうか?

良い人間関係を築けている、言いたいことがはっきりと言える、居場所を感じられる…。こんなことを頭に思い浮かべるのではないでしょうか。

東京大学でポジティブ心理学を研究し、現在は職場のメンタルヘルスの研究・実践をおこなう関屋裕希さんは、心理的安全性の本質は「『人間関係が良い』とか『問題が起こらない』『安全な状態が続く』ということではない」と語ります。

2020年2月12日に開催された「HR Millennial Lounge#7」レポートをお届けします。

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「ネガティブとされている感情のポジティブな面」を研究

みなさん、こんばんは。東京大学大学院医学系研究科精神保健分野というところにおります、関屋と申します。

今日は「心理的安全性」がテーマということなんですけれども、最初に私の研究内容の紹介をさせていただきたいなと思っています。ちょっと長くなってしまいますが、あとで「心理的安全性」とも絡んできますので、お付き合いいいただければと思います。

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関屋 裕希 さん

私は、大学時代に「マインドフルネス」の研究をしていました。

マインドフルネスとは「今ここでの経験に『評価』や『判断』を加えることなく、能動的に注意を向けること」と言われています。

私が大学時代に研究をしていた頃は、まだ「マインドフルネス」が社会に認知される前でした。「歩行瞑想」と呼ばれていた時だったんですね。

なので「あのゼミの卒論に協力するとかなりやばいよ、怪しいよ」なんて言われていました。不遇の時代だったなと思います(笑)。その後、まさかマインドフルネスがこんなに流行るなんて思ってもみませんでした。

大学院時代は、”少し変わった“ ポジティブ心理学のゼミに所属していて、メンバーはこのような研究をしていました。

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私が研究していたのは「ネガティブ感情の適応的側面」についてです。

特に「怒り」にフォーカスして研究していました。「怒り」や「不安」「悲しみ」は、やっぱり避けたいんですけど、本当に悪いものなのか?ということを研究していました。

本当は、私たちを守ってくれる「適応的側面」があるのではないかと。

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つまり、「ネガティブとされている感情のポジティブな面」を研究していました。そういう意味で ”少し変わった” ポジティブ心理学ということです。

「生きる」ことの中心には「感情がある」

大学院時代に私が学んだことは、「生きる」ことの中心には「感情がある」ということです。

今年はオリンピックがありますが、「なぜ観るのか?」と問われたら「スポーツから生まれる感動を体験したいから」だと思います。勝敗に一喜一憂したり、世界新記録に興奮したり、審判のジャッジがアンフェアだとすごく腹が立ったりとか、自分の応援しているチームが勝つとすごく満足感を覚えたりだとか。

もっと身近なことで言うと、映画を観ることもそうです。主役の1人になりきって感情的に入り込んで、時には恐怖を感じたりとか、絶望に打ちひしがれたり、逆に嬉しさでいっぱいになったりする。

私たちがスポーツや映画などのエンターテイメントに惹かれるのは、悲しいこともないけど喜びもないという平凡な毎日ではなく、感情豊かな人生を求めているからなんじゃないかなと思っています。

私たち人間は、たとえ不快な感情だったとしても、それを味わえるし楽しめるものなんだと思っています。

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職場のメンタルヘルスにおける3つの「予防」と、その先。

わたしが今どんなことをやっているかというと、職場のメンタルヘルスという領域で仕事をしています。この領域は幅が広くて、だいたい3種類に対策が分かれています。

「三次予防」では、すでに病気になったり退職された方の再発予防。「二次予防」では、不調のサインが出始めている時に早めに対応することで、病気にならないようにする。「一次予防」では、メンタルヘルス不調そのものを未然に防ぐことをやっています。

さらにここ数年は、その先にある「ポジティブなメンタルヘルス対策」もやっています。

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つまり、生産性のマイナスをゼロに戻すだけでなく、従業員の活力や組織の状態にアプローチして、生産性のプラスの状態をさらに引き上げることを目指しています。

ネガティブな感情を受け止め、味わって活かしていく

このような形で幅広く仕事をしている中で、メンタルヘルス不調になること…例えば病気になって休職することって、「悪いこと」「挫折」という ”だけ” なのかな…?と感じています。

こういう背景から、私が仕事をしていく上では「ネガティブな感情を避けるのではなく、自然なこととして受け止めて、味わって活かしていく」ということを軸としています。

そもそも「ポジティブ」と「ネガティブ」を分ける必要がある?というくらいのところまで考えています(笑)。

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「心理的安全性」が注目された理由

ここからやっと「心理的安全性」の話に入っていきます。

まず「心理的安全性」について、どのようなイメージをお持ちですか?

もしかしたら「安全」というキーワードから、「対人関係がいい」とか「問題がない」とか、安全な状態がキープされている…というイメージを抱かれるかもしれないのですが、

それはちょっと違うのかなと思っています。

まず「心理的安全性」についての研究を振り返っていきたいと思います。

一番最初に「心理的安全性」という概念が出てきたのはけっこう昔で、1965年なんですよね。

「人々が安心して組織の変化に応じて、自らの行動を変えるためには、心理的安全性が重要。心理的安全性によって、個人は批判されることへの防衛心や不安から解放され、集団の目標や問題解決に注目することができる。」

と研究で取り上げられました。

このように、「心理的安全性」は組織の変化に対応するためという文脈で注目された概念でした。

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心理的安全性が「チーム」の次元まで引き上げられた研究

そして、おそらく皆さんがご存知の有名な研究がこちらです。1999年のエイミー・エドモンドソンの論文ですね。

ここでは、

「職場で対人関係のリスクを選択することに対して安全であるという、チームに共有された結果についての知覚」

と取り上げられました。

エドモンドソンの研究を境に変わったのは、心理的安全性が「チーム」という次元に引き上げられたということです。ここが一番大事なポイントなんじゃないかなと思います。

この論文の中で「チームに心理的安全性があるとはどういうことか」について7つの項目が挙げられているので紹介していきたいなと思います。

「自分のチームだとどうかな?」と考えながら聞いてもらえればなと思います。文章の中にアスタリスク(*)がついているのは、心理的に安全ではない状態を指しています。

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心理的安全性と「学習」「パフォーマンス」との関係

もう少し、心理的安全性研究を見ていきたいなと思うんですけれども、

組織心理学の研究では「個人レベル」「チームレベル」「組織レベル」の3つの水準で検討されることが多いのですが、この3つのレベル全てで共通して明らかになっていることが2つあります。

1つは、心理的安全性が「学習」と関連していること。

もう1つは、従属変数に「パフォーマンス」が置かれていることです。従属変数とは、心理的安全性が上がったり下がったりするのに合わせて変化する変数のことを指します。

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具体的にどういうことなのか考えてみると、

「個人」レベルでミスや問題が起きることを受け入れられると、個人の学びにつながります。そのことが「チーム」に報告・共有されて改善提案されると、チーム全体の学びにつながります。それがさらに「組織」に展開されていくと、施策や制度に反映されていき、組織全体の学びにつながっていくことになるということです。

こうして、「個人」「チーム」「組織」それぞれのレベルでのパフォーマンス向上につながっていくのかなと思っています。

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人は前向きな提案はしやすいが、ネガティブな指摘や提案はしづらい

もう少し研究を深掘りしていきたいんですけれども、「心理的安全性はどんな概念と一緒に検討されてきたのか」という観点ですね。

それが主に「問題指摘行動」「提言行動」です。

この2つの行動は具体的にどんなことかというと、

「個人→チーム」「チーム→組織」というような上方向へのコミュニケーションです。改革案を提言したり、組織にとって利益につながるようなことを提案するとか。他には、今のやり方に疑問を呈する、ミスを指摘することも当てはまります。

その中でも特に「組織に害をもたらす行動を抑制するための提言」と「心理的安全性」が強く関連していることが、研究からわかっています。

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これはどういうことかというと、人は前向きな提案はしやすいが、ネガティブな指摘や提案はしづらいという意味です。そのため、ネガティブな指摘や提案が必要な組織や場面でこそ、特に「心理的安全性」は重要な概念になります。

例えば、すごく不確実性が高いビジネスをしている組織や、イノベーティブなアイデアが必要な場面や、新規ベンチャーで様々なことを模索して日々うまくいかないながらも前に進んでいかなくてはならない組織だったりとか。

他にも、いろいろな文化やバックグラウンドを持った人々が一緒に働いていて、ぶつかり合うことが多く起こる組織にも当てはまります。

ネガティブな提言がしづらくなる4つの「不安」

そもそも、こういったネガティブな提言がしづらい理由は何でしょうか?

みなさんもご存知のことかもしれませんが、「不安」に理由があると言われていて、主にこの4つの「不安」が存在します。

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この4つの「不安」がチームの中に存在していると、このような悪循環が生まれてしまいます。

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しかし「このチームなら対人的なリスクを取っても大丈夫!」ということがチーム全体で共有されていると、どんな風に変わるか。

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心理的安全性を高めるための「出発点」は?

このようなことから、心理的安全性の高い組織になるための「出発点」はどこにあるかを考えていくと、このようなところにあると思います。

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つまり、「一見、ネガティブなことが無いこと・起こらないことが前提ではなく、自然なことだと受け止めて、チームで扱っていける」ということが心理的安全性なのだと思います。

なので、「人間関係が良い」とか「問題が起こらない」「安全な状態が続く」ということでは、全然ないんですね。

なので、わたしの軸ともすごく近い話なのですが、「チームも人生も波風たたないのがいいの?それって本当?」という問いかけをして、私からのお話を終わらせていただこうと思います。

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どうもありがとうございました。

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