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「対話型組織開発」の基礎

今回は「対話型組織開発」について、その基本となる考え方や従来の組織開発との違いを整理しました。組織開発の必要性を感じている経営者や人事の方はぜひご覧ください。

1.はじめに

「組織開発」というテーマを組織・人事の中でよく目にしますが、その内容に踏み出してみるととても奥が深く難しいテーマであり、経営者・人事の方が常に頭を悩ませている内容なのではないでしょうか。

私自身、事業会社での人事やコンサルティングを経験する中で、この組織開発(ないし組織変革)には何度も向き合う機会があり、都度その難しさを痛感しています。
とくに変化の激しい最近では世の流れや会社のフェーズが変わる速度も早く、現状の組織を次の状態に向けてチェンジさせていく施策の重要度とその難しさはますます高まっているのではないでしょうか。

組織開発が難しい理由(壁)は様々あるかと思います。

・企画・運用ができる担当・チームがいない
・一部の強い意見に引っ張られている
・急拡大したため、いろんな人がいすぎてまとまらない
・会社の変化が早く、計画通りに進まない

リソース不足を解消するために、外部を活用する場合もあるかもしれないですが、やはり社外の方中心に組織開発をスムーズに進めることは難しく、上記した壁にぶつかってしまうことがしばしばなように思います。

ただ、実はこういった壁にぶつかってしまう組織開発とは少し思想の異なるアプローチが存在します。それが「対話型組織開発」です。

今回から複数回に渡り「対話型組織開発」についてご紹介します。
単純に「対話型組織開発」とはなんぞやを整理・ご紹介するだけではなく、実際にこのアプローチを現場で導入することを想定した場合の話なども触れていきたいと思います。

なお、本記事は『対話型組織開発』という書籍をベースに内容整理しています。ボリュームのある本ではあるものの、組織開発の歴史・哲学から具体的なアプローチの中身まで幅広く書かれていますので、お時間ある方はぜひ一度読んでみてください。


2.イメージしやすい組織開発の基本ステップ

「対話型組織開発」の話をする前に、まずは組織開発にトライするときによくイメージする組織開発のステップを整理します。
『対話型組織開発』の中では、これらの組織開発を「診断型組織開発」という言葉で定義・説明されています。

<診断型組織開発のステップ>
①組織が目指す姿を考え設計し、現状の組織の状態とのGAPを見定め、課題を設定する
②設定された課題を踏まえ、組織変革のための具体的な施策とスケジュールを決め、組織変革の中長期ロードマップ・今後のアクションを設計する
③一つひとつのアクションの進捗を管理しながら、施策の結果などを踏まえPDCAのサイクルを回し、ロードマップを軌道修正する

「対話型組織開発」の基礎 2

細かな違いはあるかもしれないですが、概ね上記のステップでチームやプロジェクトが進んでいくかと思います。

ただ、前段で述べたようにリソース不足で全体設計もなく、細切れにとりあえず施策だけ動いてしまっていたり、計画とアクションを進めていてもいろんな意見に引っ張られてしまい目指すゴールの組織に全然変わっていく気配がなかったり、はたまた会社の変化が早く目指すゴール自体がすぐゆらいでしまったりと様々な壁があり、計画どおりに組織開発が進まないということが多いです。
(この難しさはおそらく企業のフェーズや規模、業種などに関わらず、共通する部分だと思っています。もちろん個別の事情は違えども)

対話型の組織開発は、この診断型の組織開発とは根っこの部分が大きく異なるアプローチです。一方で、一つひとつのアクションはすでに耳にしたことのあるものや実際にやってみたことがあるというものも多く、一見すると何が違うのかピンとこない部分もありますので、まずは「対話型組織開発」のベースとなるマインドセットからご紹介していきたいと思います。

3.対話型組織開発のベースとなるマインドセット

「対話型組織開発」を考える上で、どういうところに違いがあるのか。
まずは「組織」というものの定義とその定義のもとになる思想に違いがあります。

対話型における組織とは「意味を形成するシステム」とされています。言葉が難解ですが、診断型における組織の定義と比較するとイメージしやすいです。

診断型での組織の定義は「生命体のようなもの」です。つまり組織は常に何か一つの形を持ち、組織全体で一つとする。例えるなら組織が人間一人のイメージで社員はその構成要素となる細胞であり、全体が合理的に結びついた一つの生命体。
一方で対話型の組織は、人がたくさん交わった社会のようなもの。そこには一つの形というものはなく、色々な思想・哲学・理解・常識が常に複数交わっているというイメージです。

「対話型組織開発」の基礎 3

組織開発のアプローチにおける違いは、診断型の場合、細胞一つひとつに同じ命令を出し、細胞の動き方を整え直し、再構築するイメージですが、対話型の場合は今の社会における解釈を理解し、対話することでそこに新たな解釈を創出し、社会の流れを変えるイメージです。

対話型組織開発の根本になる思想の一つには、社会構成主義というものがあります。社会構成主義とは、平たく言えば現実というものは関わる人々(社会)によって構成されるもので、関わる人々の数やその社会の数だけ現実が複数存在しているという考え方です。
社会には当然互いの権力や交渉などによる政治的な要素も含まれることになり、全てが合理的につながっているわけではありません。

社会構成主義に基づく対話型組織開発では推進する側に必要なマインドセットも変わってきます。

<必要なマインドセット>

・組織は「意味を形成するシステム」である
・組織開発のポイントは日常会話の中身である
・統一をはかる前に違いを明らかにすること
・組織は勝手に自己組織化していく
・組織変革は計画的ではなく、創発的
・推進側も組織開発のプロセスの一部となる(客観的・中立的な立場ではない)

※『対話型組織開発』の中では他にも整理されているが、個人的に重要と思う部分はこの6つです。

いくつか補足をします。

「組織開発のポイントは日常会話の中身である」
社会を構成していく土台は、日々大量に交わされるお互いの会話やコミュニケーションです。組織開発においてはよく社員の行動にフォーカスが当たりますが、それだけではなく、この日常会話の中身が組織開発の過程でどのように変化していくのかに注目する必要があります。

「統一をはかる前に違いを明らかにすること」
目指すべきゴールを示し、求める行動を提示するのではなく、互いの違いを理解をしその上で対話を重ねることを大切にします。D&I浸透などではよく意識されるポイントかと思いますが、その他様々な場面でもまずは互いの違いを理解するというプロセスは重要になります。

「組織は勝手に自己組織化していく」
人数が集まると自然と組織化していくという考え方です。一つの会社の中とはいえど、営業部門と間接部門ではそこでの常識が変わる。営業部門においても、部長によってその部の常識が変わる、はたまた年齢が近い人や同期入社など何かしらくくりが生まれそこで語られる常識や互いの認識が勝手につくられていく。それは意図していなくても自然と生まれていくものなので、組織を全体で一つとして捉えるのではなく常に多元的に存在するものと考えます。

「組織変革は計画的ではなく、創発的」
組織は社会的に構成されているので、計画性を持って意図的にコントロールすることは難しく、何かをきっかけに創発的に変化していきます。

「推進側も組織開発のプロセスの一部となる(客観的・中立的な立場ではない)」
組織開発を推進する際、多くの場合、企画側はその組織の外側に陣取り全体をゴールに向かって誘導できるようコントロールしようとしますが、対話型組織開発においては推進側も組織を構成する一部なので、そのプロセスにメンバーと同じように参加をします。


このように対話型の組織開発には、よくイメージされる組織開発とは少し異なったマインドセットで臨まなければなりません。
次に対話型組織開発を検討していく際の、診断型組織開発との違いを整理します。

4.診断型組織開発との明確な違い

まず、診断型組織開発は基本ステップで整理したとおり、組織開発を計画的に設計し、その進捗をどのように管理するのかを検討しなければなりません。つまり、組織開発の目的やゴールが明確に存在し、組織開発は期間が限らているものになります。また、そのゴールは人の行動や行為に着目されていることが多いです。

一方で、対話型の組織開発の場合、変化は創発的に現れるため重要なことは施策を計画管理することではなく、誰をどのようなグループにまとめて対話の場をつくっていくかになります。また、対話は継続的であり循環し続けていくので、期間が限られているものでもないです。そして、着目し続けるのは社員のマインドセットや考え方の変化であり、基本的には推進側で意図的にコントロールできるものではないです。

また推進側が気をつけるべき違いとしては、対話型組織開発は社会構成主義の考えなので、変化を生むためには客観的事実や分析ではなく、集まった人による互いの認識や差異や内省による自身の新たな気づきをもとにします。そして、その探求プロセスには推進側も自らそのグループの中に入り、一人の当事者として参加する必要があります。

5.実際に自社で導入するには

ここまで、対話型の組織開発について基本を整理してきましたが、いざこの「対話型組織開発」を導入するのは相当負荷も高く、意思決定の合意をとることの難易度も高いと思います。とくに、ゴール設計や施策のスケジュール、明確な課題設定を主としない対話型組織開発は、成果を求められる普段の仕事において工数確保するのがなかなか難しいです。
(トップダウンで対話型組織開発の重要性を語られるような組織であれば別ですが)

なので、まずはこれまでの診断型組織開発のステップで施策を検討しつつ、同時に巻き込む人やコンテンツに注意し、対話の場を絶やさないよう中長期的なスケジュールで設計をするなどハイブリッドなかたちで組織開発を進めていくことがよいかと思います。社員が増えていくタイミングや重要意思決定者が変更となるような場面では、対話型組織開発のマインドセットを意識し会話が変わっていく可能性があるので、注意しながら対話の場を設計していくとよいかと思います。

6.最後に

今回は「対話型組織開発」について、その基本を整理していきました。次回は引き続きこの対話型組織開発をもう少し深ぼっていきたいと思います。

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著者:岸井隆一郎(きっしー)

自己紹介
現職メルカリ HRPlanning。事業会社にて採用・育成・人事制度企画・企業文化改革(インターナルブランディング)など、人事領域の業務を広く経験。組織・人事領域のコンサルタントとして、Employee Experience設計、人事制度設計、Change Management、採用戦略策定、育成体系整備、職務評価、役員報酬設計、コーポレートガバナンス整備、退職金制度設計、HRDD・PMI・会社分割における処遇整備など幅広いテーマの課題解決に従事。
Fintech企業HRManager、デジタルマーケ企業人事部長を経て、現職。
People Analytics 関連協会上席研究員、他 社外人事、寄稿など。