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「対話型組織開発」を進める上で大事な考え方3つ

今回は対話型の組織開発を進める上で知っておくべき大切な考え方を3つ紹介します。
前回「対話型組織開発」の基本について整理しましたが、今回は実際に対話の場を設計し、進行する際に知っておくべき考え方について整理します。

なお、今回も『対話型組織開発』をベースに内容整理しています。
対話型組織開発に興味が湧いてきた方はぜひ一度読んでみてください。

対話型組織開発――その理論的系譜と実践

前回の記事「「対話型組織開発」の基礎」はこちらからどうぞ。

1.対話型組織開発の基礎(前回復習)

前回の記事では「対話型組織開発」と従来の組織開発の違いはどんなところにあるのかというのを簡単に整理しました。

対話型組織開発における大切なマインドセットは

・組織は「意味を形成するシステム」である
・組織開発のポイントは日常会話の中身である
・統一をはかる前に違いを明らかにすること
・組織は勝手に自己組織化していく
・組織変革は計画的ではなく、創発的
・推進側も組織開発のプロセスの一部となる
 (客観的・中立的な立場ではない)

です。

従来の組織開発にあるような客観的な分析による課題解決のアプローチではなく、社会構成主義のもと、集まった人の互いの認識の差異、内省による自身の新たな気づきから解釈を創発していくのが対話型組織開発です。


2.大事な考え方①「ディスコース」

上記をベースとし、対話型組織開発を推進していく上で、重要な考え方の1つ目が「ディスコース」です。

ディスコースとは何かを設計し、浸透、活用するといった場面で、その中身を表現するあらゆる手段のことを指します。ややこしく感じるかもしれませんが、何かの資料や人の会話、シンボル、ジェスチャーなど、人がそこから何かを感じたり、認識したりするような全ての「テキスト」の集まりというイメージです。

また、ディスコースの中では以下のものは意味を分けて考えられています。

「対話型組織開発」を進める上で大事な考え方3つ 1

全ての組織にはそれぞれ別のディスコースが存在しているので、自組織の中でどのようなディスコースが存在しているのかに着目することが重要です。


例えば、「残業」についてのディスコースは組織によって様々です。
過去、残業増加による労務の問題が発生した企業では、残業削減のナラティブが存在する可能性がありますが、IPO審査中の会社では「今日中にこの質問表は絶対対応しよう」といった会話がなされることもある。また、極端かもしれませんが、顧客満足に関する格言などを壁に飾っている会社では、自然と終わるまで帰れないといった文脈が存在している可能性もあります(あくまで例となりますが)。

こういった組織を支配しているディスコースは、組織内での力関係なども密接に関わっていますので、どのようなディスコースが存在しているのかを把握しなければ組織開発はうまくいきません。

引き続き残業の例をあげると、マネージャー層の中で残業を削減していくというディスコースの変化を起こそうとしても、部長以上が残業に関してより強いディスコースを持っている場合はうまく進まないということがあります。

自社が持つ様々なディスコースを理解した上で、対話の場を設計していく必要があります。


3.大事な考え方②「生成的メタファー」

続いては「生成的メタファー」です。あるテーマをもとに対話の場を設定すると、そこへ参加する人はそのテーマと対話の場に何かしらのイメージやメタファーを持って臨みます。

ここでいう生成的メタファーとは設定されたテーマについて対話する際に頭の中でどのようなイメージをもとに話しているかを指します。

前段の残業をテーマに対話する場合、「なんとなくみんなの意見を踏まえて残業の考え方を揃えたほうがいいのではないかと思っている人」と「明確に残業への捉え方を改めて、良くないものだという認識に揃えるべきだと思っている人」と「いろんなケースがあるのだからうちはうちの基準を設けたほうがいいと思っている人」で対話の中身が変わってきます。
この生成的メタファーも人によって異なっているのとそれは無意識に潜んでいることが多いというのを知っておく必要があります。

また、対話に参加される人が自分自身こういったメタファーをもとに対話に臨んでしまうことを理解し、異なるメタファーの存在も理解することで対話がより深いものへと変わっていきます。

『対話型組織開発』において、メタファーは以下の4つにまとめられています。
「対話型組織開発」を進める上で大事な考え方3つ 2

それぞれ似ているようでイメージが異なるので、自分の発言や思考がどのメタファーに基づいているのかを考えて対話に参加すると、その違いを体感できると思います。

4.大事な考え方③「複雑系と自己組織化」

最後は「複雑系と自己組織化」についてです。複雑系とは一言で言うならば世の中は複雑だということ。つまり、ある組織や集団を1つのくくりや定義でまとめることはできず、常に未知な変数が絡み合っていて、その結果として組織・集団のように浮かび上がってくるということです。また、自己組織化というのは、人の集まりはその時の状況に応じて自然と集団となり、組織のようになるということです。

これらの考えをもとに組織開発の対話に目を向けると、その対話は複雑系によるカオスと自己組織化を絶えず繰り返していることに気づきます。そして、このカオスと自己組織化をいかに設計するかによって、その対話の場で参加者が得られる気付きが変わっていきます。

カオスと自己組織化のプロセスを設計する際は、以下のステップが必要です。

①対話のための場をつくり、カオスのうむ※
②カオスの中で生まれた表現や解釈を自分と結びつける
③カオスや自分と結びつけたつながりの中から新たな意見を見出し、集団で内省をする
※できれば多様性に富んだ人々で構成し、肯定的なコミュニケーションを中心にお互いの価値観や理解の違いを認識する

こういったステップを経ることで、対話の場の中で新たな解釈を持つ人の集まりができ、結果として組織のディスコースを変えていくきっかけを生むことができるかもしれません。

5.最後に

今回は対話型組織開発を実際に進める上で、大事な考え方3つを紹介しました。
この3つの視点を全て使いこなして組織開発を設計していくというのはかなり難易度が高いと思いますし、実際に大量な経験と引き出しのもとにその精度が磨かれていくものだと感じます。
ただ、現在組織開発を進めていてなかなかうまくいかない時、またはこれから施策検討していくという時に、上記3つの観点をおさらいしてみると自社の組織開発において、どこが難しいポイントなのか、また観点として抜けていたのかなどが見えてくると思いますので、ぜひ活用してみてください。


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寄稿者:岸井隆一郎(きっしー)

自己紹介
メルカリ HR Evaluation & Compensation。事業会社にて採用・育成・人事制度企画・企業文化改革(インターナルブランディング)など、人事領域の業務を広く経験。組織・人事領域のコンサルタントとして、Employee Experience設計、人事制度設計、Change Management、採用戦略策定、育成体系整備、職務評価、役員報酬設計、コーポレートガバナンス整備、退職金制度設計、HRDD・PMI・会社分割における処遇整備など幅広いテーマの課題解決に従事。

Fintech企業HRManager、デジタルマーケ企業人事部長を経て、現職。
People Analytics 関連協会上席研究員、他 社外人事、寄稿など。