見出し画像

【読書メモ】謙虚なコンサルティング

社会心理学者E・H・シャイン博士の「謙虚なコンサルティング」この本はCS Blogでも紹介していますが、素晴らしい。クライアントワークにおけるバイブルになっています。3年前の読書メモが社内ドキュメントに残っていたのでnoteにして供養することにしました。

なお、ここで定義されている「プロセス支援」を深く知りたい方には、同著書の「プロセス・コンサルテーション―援助関係を築くこと」もオススメです。


――謙虚なコンサルティングの重要性は高まっている――

今日の問題は複雑化しており、その解決には謙虚なコンサルティングが必要である

・各分野が高度に専門化している
・職業的にも国民性敵にも多様性が増し複雑化している
・時間が足らない。ものごとの移り変わりはあまりに早い
・問題は一定していない。刻々と変わる環境の中で問題自体が変化していってしまう
・「クライアント」は個人ではなく組織である。問題解決のためには組織全体への配慮が必要不可欠

――クライアントと支援者の間に信頼関係を築く事――

支援に必要不可欠なこと

クライアントの課題解決のためには課題を正確に突き止めることが重要であり、そのためにはクライアントと支援者が信頼しあうことが必要。
信頼しあうには、ほどほどの距離感を保つレベル1の関係ではなく、個人的な話ができるレベル2の関係。すなわちコンサルタントとクライアントが進んで情報を提供し合い、全力を傾け、約束を守るというレベルに到達する必要がある。

レベル2の関係を築くためには、クライアントと初めて会ったときに支援したい姿勢を示し、個人的なことに踏み込んだ質問をしたり、個人的な考えや感情を打ち明け、謙虚に問いかける事が必要。

個人的な関係を築くには

積極的な気持ちが大切である。あなたの力になりたいという気持ち。そして「このひとはどんな人なのか」「どんな問題が起こっているのか」という好奇心。そして可能な限り早く個人的な話をして真摯に耳を傾けるという思いやり。

聞き方

・「今クライアントが話している内容は自分の持ちうる知識やスキルでどのように解決できるだろうか」と考えながら聞く方法はやりがちだが、クライアントが本当に言いたい事に耳を傾けられていない聞き方である。
・「自分がもし同じ状況に置かれたらどうするか」と想像しながら聞くやり方は、集中力が想像に向かってしまい、クライアントに向いていない聞き方である。
・クライアントの声やちょっとしたところににじむ緊迫感、不安、怒り、いら立ち。それらのサインを捉えるような聞き方こそ、クライアント自身に関心を寄せる聞き方である。

診断的な問いかけ

・概念に関する質問:なぜ?と問う。原因についての考えを巡らせる
・感情に関する質問:「それについてどのように感じたのか?」を質問する
・行動に関する質問:クライアントの話にあった分岐点について「どんな行動をとったか」を質問する

事例:チームメンバーが個人的な打ち解けた関係になったことによる成功事例

とあるクライアントで、理事会のMTGが開始される直前に、「なぜあなたがこの組織に入ったのかを素直に率直に説明してもらう」というチェックインを行った。すると理事会の一人一人がこの組織が環境保全に果たす役割の重要性、自分の人生においてこの組織で働く事がいかに重要か、また組織の成長のために自分がどんな情熱を燃やしているのかを熱く語った。その結果理事会メンバーの関係性は個人的な打ち解けた関係のレベル2に上がった。

また同様のチェックインを理事会メンバーにスタッフも加わり行った。そこで初めてスタッフは理事会メンバーがどうしてその組織に入ったのか、その情熱、スタッフへの貢献の意思を聞いたのだった。

これまでその組織は仕事の役割を明確に分けられ、レベル1の関係にとどまっていたのだった。もっと個人的な感情や動機や価値観が共有される集まりを一度も開いたことがなかったのだった。

それ以降その組織では「なぜその組織に入ったのかを」と尋ねることは他のスタッフミーティングでも推進された。その結果2年がかりで組織の一大プロジェクトを成功させることができた。

なぜ支援関係を個人的な打ち解けた関係であるレベル2にする必要があるのか

レベル1の関係でもうまくいくのは問題が明確で支援者にはっきりと伝えられ、解決に必要なスキルを支援者が持っている時だけ。(例:医者)
今日の組織に関する問題は極めて複雑。組織も複雑化している。そのためクライアントが本当の考えを表に出すのは相当ハードルが高くなっている。

――謙虚なコンサルティングはプロセスに集中する――

なぜなら組織は、その組織の文化と調和することでしか実行できない。

外部の人間が指摘することの多くをクライアントは既に知っている。クライアントの現状を調べて既に知っているようなことを提案しても動かない。仮にクライアントが知らないことを提案したとしても、それが組織文化上受け入れられないものであれば実行されない。

事例:GEのエンジニア離職率防止

GEは優秀なエンジニアの離職率の高さに悩んでいた。そこでシャイン博士は離職してほしくないと思う典型的なタイプのエンジニアを厳選し、タスクフォースを組織し、彼ら自身に問題発見と解決を行ってもらった。その結果離職率を大幅に下げることができた。

驚くほど多くのケースとしてコンサルタントは問題を自分のものとして捉えてしまい、放そうとしない。謙虚なコンサルティングに徹し、社内の組織メンバーをコーチした方が最も効率的で効果が高まるにもかかわらず、である。またタスクフォースのメンバーの方が、コンサルタントであるシャイン博士自身よりもGEの文化を知り尽くしていた。どのように行動すれば上層部を説得できるのか、GE文化に対してどのように調和をとれば課題解決の実行に落とし込むことができるかを熟知していた。

課題解決はクライアントとコンサルタントが共同で行わなければならない

大半のコンサルティング・モデルでは、介入は診断によってなされるべきだと考えられ、分析や分類によるグラフを作ったりするものである。
ただ組織に関する問題が益々複雑化し、刻々と変わる場合、この手法は最適ではない。その場合はプロセスとして支援をし、共同で問題解決にあたる必要がある。

なぜならコンサルタントが何らかの提案をできるほど十分にクライアントの個人的な状況や組織文化を知ることは決してないからである。

応用編

以上、謙虚なコンサルティングの要約メモでした。

ところでこのコンサルティング手法が有効なのは何故でしょうか?

実はこの社会にとある文化的な力学が存在しているため、この手法が有効になっているのです。

その力学構造を解き明かす本を同著者が出版されており、オススメです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?