【読書メモ】人を助けるとはどういうことか
社会心理学者E・H・シャイン博士の本です。CS Blogで紹介していますが本当に素晴らしい。若干タイトルとのギャップがあるので、「支援力学の構造と組織について」というタイトルの方がしっくりきます。
支援の成否を分ける力学(≒権威勾配モデル)を社会文化的観点から示し、成果を上げるチームの特徴から組織文化の成り立ちまで一気に解説してくれる脱帽の一冊でした。
同著書の「謙虚なコンサルティング」と併読するのもオススメです。
――まえがき、およびこの本で論じること――
支援とは、人間関係の基本である。幼児に食事を与える母親、患者を助ける医者、チームメイトに手を貸すメンバー等、世の中のいたるところで支援関係はあふれている。
一方で「助けたつもりが、相手に感謝されないどころか不満を言われた」というケースは多く存在する。なぜそのような事態が発生してしまうのか。
その理由は支援関係の特殊な原則を逸脱してしまうからである。では支援関係にはどのような原則が存在するのか、その罠に陥らないためには我々は何に気を付けるべきなのか。それを解説していく。
また議論を進めていくとチームが支援関係によって成り立つことが理解できる。最終的にチームを支援するには何が必要かについて解説する。
――支援は生活のあらゆるところに存在している。一方で支援には役立つものと役立たないものがある。それをひも解くヒントは人間関係にある――
多くの人が最善と思って行った支援が何故か失敗に終わった経験をしたことがある。助言が役立たなかった上、クライアントが提案を実行しないという場面に出会った人は多いのではないか。
この原因を見定めるには人間関係に内在する文化的ルールに着目する必要がある。なぜなら支援とは2人以上の人間が関わる相互関係であるからだ。
――人間関係を成立させるには「役割を演じる」という文化的ルールに従う必要がある――
あまりにも本能的であるため意識すらしない場合が多いが、我々は与えられた状況に調和しつつ、自分の役割をきちんと演じなければならない。2人の人間が話し合う場合、どちらが話す役か、どちらが聞く役かを決めなければならない。
例えば、より高いステータスの人が現れると敬意を払うことが求められる。部下たちと一緒にいる上司は、自分の地位にふさわしい態度を取ることを要求される。コンビニ店員であれば店員としての役割を全うする事が求められる。図書館に来店する客は静かにしていることが求められる。
日常生活はこのような役割の定義の連続だ。それによってどのような役割を演じるべきか、他人に対して何を望むべきかがわかる。
こうした価値観は「面目」と呼ばれる。自分の役割を演じ、相手の面目がつぶれないように、相手の面目を保つように振舞わなければならない。
文化的ルールを検証するための実験
そのルールを検証するための実験を紹介しよう。誰かに話しかけられた時、無反応のままでいよう。そうすると「どうしたの?」とか「大丈夫?」と問われ、あなたの行動は受け入れがたいものだとほのめかされるに違いない。あなたは期待される役割を演じなかった為に相手の面目を潰した、すなわち社会のルールに違反したのだ。
あなたは「すみません、他のことを考えていました」と何らかの説明をして関係修復を図る必要がある。
――支援関係とは本質的に不釣り合いな状態である。「支援を求める人=ワンダウン状態」「支援を与える人=ワンアップ状態」である――
支援を求めた場合、人は「一段低い状態(ワンダウン)」となる。これはやるべきことが分からないとか、地位や自信を失った状態である。
例えば道で転んだ人に手を差し伸べると、返答は決まって「大丈夫です」という反応だ。人は誰かに依存する状態にワンダウンしてしまったことを認めたがらないものだ。
反対に支援者の役割を演じるとたちまち地位と権力を得る。
要するにどんな支援関係も対等な状態にはない。クライアントはワンダウン状態であるため力が弱く、支援者はワンアップ状態にいるため強力である。 支援のプロセスで物事がうまくいかなくなる原因の大半は、初期段階で存在する不均衡な状態に対処しないこと にある。
クライアントが陥りやすい5つの罠
1.支援者に不信感を抱く
支援者は助けてくれる人なのか、その能力があるのかを見極める。そして期待に見合わず失望してしまう。
例えば「パパ数学の問題を手伝ってくれない?」と相談する息子は、本当のところは悩みを打ち明けたいのかもしれない。しかし父親(支援者)が「この問題の答えはXXだ」と時期尚早に答えてしまえば不信感を抱かれる。
2.安堵し支援者に依存してしまう
ようやく助けになってくれる支援者と出会い、安堵する。そしてクライアント自身が問題に取り組まなければならないにも関わらず、支援者に頼りっきりの依存状態に陥ってしまう。
例えば「この悩みを打ち明けられてうれしいよ。で私はどうしたらいい?」
3.支援ではなく賞賛や安心感を求めてしまう
自分の取り組みを評価してもらいたい、自分の考えている解決策が正しいことであると安心させてほしい。このように、実は問題を解決してほしいわけではない場合がある。
4.憤慨したり防衛的になったりしてしまう
支援者が時期尚早のアドバイスをすることによって、クライアントが憤慨してしまう。支援者の面目を失わせるように振舞い、自分が支援者と対等であると主張し、立場のバランスを是正しようとする。
例:「あなたの考えは実行不可能ですよ」「そんな事ならとっくに考えました、上手くいくはずないですよ」
5.固定概念を抱き、非現実的な期待をいだいてしまう
クライアントは過去に受けた支援や経験によって、支援者を判断してしまう。嫌な教師に似ているだとか、もっと悩みを真摯に聞いてくれるはずだとか。非現実的な方向に期待値が高まってしまう。
支援者が陥りやすい6つの罠
1.時期尚早に知恵を与えてしまう
思い込みで判断し、本当に求められているものが何かを理解しないまま、あまりにも早く助言を与えてしまうこと。この行動はクライアントの立場をさらに下に下げる行為である。
例:「結構。分かりましたよ。あなたの取るべき行動はこれです」
2.防衛的な態度に圧力をかけて対応してしまう
「私の提案を理解していないようですね。もう一度説明させて下さい」など。経営コンサルが提案したことをクライアントが実行しない事に対して圧力をかけてしまうこと。
支援者は理解する能力のないクライアントだとか、本当は支援を求めていないのだとか決めつけて、自分の面目を守ろうとし、問題解決にはクライアントに積極的に協力してもらう必要がある。にもかかわらず支援者は強い立場を利用して支配権を握ってしまう。クライアントの協力を得ながら問題を発見し、クライアントと共に課題解決にあたることができなくなってしまう。相手の立場を下に下げてしまう。
3.クライアントの依存を受け入れ、強く依存させるように助長させてしまう
例:「あなたを助けられるでしょう、次のことをやってください」
問題解決にはクライアントに積極的に協力してもらう必要がある。にもかかわらず支援者は強い立場を利用して支配権を握ってしまう。クライアントの協力を得ながら問題を発見し、クライアントと共に課題解決にあたることができなくなってしまう。
4.安心感を与えて地位の低さを助長してしまう
「大変でしたね。同情します。どんなときも私はあなたの見方ですよ」
専門医のような権力のある役割になってしまい、クライアントの地位の低さを助長してしまう。
5.距離を置いて支援者の役割を果たしたがらない
「どんなふうに手助けすればいいか分からないです。○○さんに相談したらどうですか?」
クライアントの問題に真摯に耳を傾けてしまうと、自分の見解を変える羽目になってしまう。その覚悟を背負わなければならないため、あえてワンアップ状態に身を置こうと振舞ってしまう。
6.固定概念を抱き、過去の経験に基づきクライアントを扱ってしまう
以前に関わった誰かと似ているクライアントであれば、支援者は無意識のうちに過去のクライアントと同じように扱ってしまう。
――支援関係の罠を避け関係を修復させること、無知を取り除く事が大切である。――
どんな支援関係もはじめのうちはバランスが悪い。そのためクライアントも支援者も不均衡から生じる罠に陥りやすい。したがって支援関係を築くには、その罠を認識して避けること、関係を修復する事が必要である。それも支援者自身が介入してクライアントの立場を確立させる必要がある。そして関係を修復するためには、無知を取り除く作業が必要である。関係が始まったばかりの時、われわれが知らないことはとても多い。
支援者が知らない5つのこと
・1.クライアントは助言や質問を理解できるだろうか。お年寄りにフリックしてくださいと伝えて通じるだろうか。
・2.クライアントは提案に従えるだけの知識やスキルを備えているだろうか
・3.クライアントの本当のモチベーションは何か、本当に望んでいる事は何か
・4.クライアントの置かれた状況はどのようなものか。組織の帰属関係や文化的な制約は何か。
・5.クライアントは過去の経験からどんな固定概念を抱いているのか、どんな期待を抱いているのか。
クライアントが知らない5つのこと
・1.支援者には支援をできるだけのスキルがあるのか、意欲があるのか
・2.この支援者に助けを求めればどんな結果が得られるのか、自分の問題解決の役に立ってくれるのか
・3.この支援者は信用できるだろうか。状況を利用して何かを不当に売りつけたり強制したりする人ではないだろうか。経営コンサルタントが実のところ何かを売りつけようとしている可能性はないだろうか
・4.クライアントとして私は提案されたことを実行できるだろうか
・5.支援を受けることで金銭面、感情面、社会的な面でどのような対価を払う必要があるのだろうか
――問いかけをして、無知を取り除き、クライアントの立場を上げ、両者が適切な役割を選び出し、お互いを受け入れること。それによりよき支援関係が出来上がる――
クライアントと支援者の地位の差をうまく釣り合わせるためには、クライアントに何か重要なことを知っているという役割(価値)を与え、クライアントの立場を確立させることが重要である。またその状況への関心や思い入れを伝え人間関係を築く意欲を高める事、そして重要な情報を引き出すことが必要である。
4つの問いかけ
・1.「純粋な問いかけ」クライアントの話だけに集中するもの。ex.その時何が起こったのですか?
・2.「診断的問いかけ」感情や反応に注目する、原因や動機を分析する、過去の行動に注目するもの。ex.そのときどう感じました?なぜそんなことをしたのですか?それに対してあなたは何をしましたか?
・3.「対決的な問いかけ」支援者自身の提案や意見を述べる問いかけ。ex.次のようなことはできませんか?そんな事をしてしまったのは彼が不安だったからと考えることはできませんか?
・4.「プロセス志向の問いかけ」クライアントと支援者の関係に焦点をあてるもの。ex.私の質問はあなたの助けになっていますか?これまでの私たちの会話の流れをどう思いますか?
――チームとは支援の相互作用の組織である――
成果を上げるチームとは、チームミッションを達成するために各メンバーが自分の役割を適切に果たし、他のメンバーを助けているチームである。チームワークの本質とはすべてのメンバーにおける相互支援の発展と持続である。
チームワークを作るには、メンバーが4つの精神的問題をクリアしている事が必要となる
・1.私はどのような人間になればいいのか、役割が何なのか
・2.このチームで私はどの程度の影響を及ぼすことができるのか、不満や不安はないか
・3.このチームで働く事で私は自分の目標を達成できるだろうか、欲求を満たすことはできるだろうか
・4.このグループで人々はどれだけ親しくなることができるだろうか。個人的な関係になれるか目標や情報を分かち合うことができるか
重要で複雑なミッションの場合、メンバー全員が全身全霊で打ち込めるくらいの安心感を得られる必要がある。
プロセスの依存度を高め、お互いが欠かせない状態になること
自分の役割を適切に演じ、それに応じた報酬が得られ、その状況を快く思う状態をつくることがチームワークに必要不可欠である。それはすなわちチームメンバーが相互に支援しあっている状態に他ならない。貢献度の大小はあれど、誰もがクライアントであり、誰もが支援者であるという状態になることが必要だ。
例:成果を上げる外科医チーム。成果が出ないチーム。
成果を上げる外科医チームは、各メンバーが自分の役割を最後まで果たしお互いをサポートしあっているチームであった。他のメンバーの提案に基づいて手術方法が変わる可能性があることを外科医自身が受け入れている。
反対に成果を上げない外科医チームは、外科医がチームメンバーを「単に仕事をする補助スタッフ」として扱った。外科医は常に高い地位を保ち続けた。
仕事内容によって相互支援の重要性は異なる
引っ越しで冷蔵庫を運ぶ場合、2人が助け合わなければミッションを達成できない。PTA委員会などはメンバーの半分くらいが役立たなくても上手くやっていける。小口顧客のセールスマンの場合、助け合わなくても成果は出せる。一方で大口顧客の場合、複数のセールスメンバーが協力する必要が出てくる。相互支援の必要性は仕事によって異なる。
チームの成長にはフィードバックが大切
チームの目的を達成するためには、目的に対する進捗を確認し、フィードバックを得て的外れの行動を修正する必要がある。
それを実現させるためには、チームメンバーがお互いの顔を潰したり相手を辱めることなく、批評する方法を学ぶべきである。部下は自分のマイナスになるかもしれないことを上司に言う方法を学ぶべきだし、上司は不都合な真実を告げられても部下を不当に扱うことにはならない方法を学ぶべきだ。
しかし難しいのは「フィードバックとは相手に求められない場合は有益ではない」という点だ。
プロセスレビューと具体的指摘
チームメンバーでフィードバックをするためにはプロセスレビューを行うことが最適である。プロセスレビューとはチームメンバーが階級や地位をほとんど気にせず率直に話し、建設的なフィードバックを得る作業である。
また抽象的なフィードバックはよくない。例えば外科医が「看護師にはもっと自発的な行動をとってほしい」と主張しても伝わらない。「私が○○に苦労していると気づいたら、XXを渡してもらえると助かる」と具体的なフィードバックを与えたほうが有益だ。
――謙虚なリーダーシップは組織を機能させる――
理想のリーダーは部下に必要な目標と役割を与える。その部下が目標を達成できるように手を貸す準備ができている事を示さねばならない。すなわちリーダーは対象とする相手をクライアントとして扱う方法を学ばなければならない。
組織の文化はメンバーの相互作用によって独特の文化が形成されていく事によって生まれる。重要なのは新たにリーダーになった者はチームの規範や文化を理解するまでどんな変化も起こせないという事である。実態を把握するためリーダーは質問をして従業員との間に相互の信頼関係を築かねばならない。
――組織のリーダーを支援する――
クライアントとは誰なのであろうか。目の前にいるリーダー(クライアント)だけでなく、その下の組織メンバーを支援する事がコンサルタントには求められる。なぜなら組織が動かなければ提案は実行されないからである。
そしてまずはコンサルタントはリーダーと信頼関係を築く必要がある。相手に役割を与え立場の差をなくすことだ。反対にリーダーは支援を受け入れる用意をする必要がある。この準備が整わなければ何も始まらない。
そしてリーダーは組織の文化を理解し、組織メンバーとの関わりによって自分の提案が影響を受けてしまうことを理解しなければならない。そして組織メンバーに重要な役割を与え相互に支援しあう関係性を築く必要がある。