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「税務調査」の証明責任は誰にある?どこまで協力しなきゃいけないの?

税務調査と聞くと、多くの人が「怖い」「不安」といった感情を抱くのではないでしょうか。実際に、税務署からの調査通知を受け取ると、経費の申告や領収書の保管に問題がないか心配になるものです。

では、
税務調査で実際に経費かどうかの判断は誰がどのようにしているのでしょうか?
税務署の調査官がどのように資料を確認し、納税者がどこまで協力しなければならないのでしょうか?
そのプロセスは具体的にどのように進むのでしょうか?

本記事では、これらの疑問にお答えし、税務調査の実際のケースや事例を交えながら、税務調査の証明責任について詳しく解説していきます。税務調査で不安を感じる方も、このガイドを読んで、具体的な対策や心構えを持つことで安心して対処できるようになるはずです。


結論

  • 税務調査は任意調査というなの事実上の強制調査

  • 経費かどうかなどの立証責任は原則「税務署」が負う

  • しかし、完璧な立証責任ではなく「一般人の感覚」を基準とする

  • 2023年の改正で大きな影響あり!迷ったら経費に入れておくが吉

  • 不安な場合はTaxnapが提供する最新のAI判定機能も使ってみよう!

そもそもほとんどの税務調査は「任意調査」

そもそも一般的な税務調査は「任意調査」とよばれ、税務署が納税者の協力を得ずして強制的に行うことはできません。
この点いわゆる「マルサ(国税局査察部)」が行う「強制調査」と区別されます(マルサは裁判所の令状をもって行う犯罪捜査です)。
つまり一般的な個人事業主やフリーランス、法人が受ける可能性が高い税務調査は「任意」の調査なんです。
では任意調査ならば全く協力しなくていいのでしょうか?
実際はそんなことはありません。

帳簿の提出には協力しなければならない

国税通則法128条には下記のような場合に、「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」になると定められています。

「(税務職員の)質問に対して答弁せず、若しくは偽りの答弁をし、又はこれらの規定による検査、採取、移動の禁止若しくは封かんの実施を拒み、妨げ、若しくは忌避した者」
「(税務職員の)物件の提示若しくは提出又は報告の要求に対し、正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類その他の物件(その写しを含む。)を提示し、若しくは提出し、若しくは偽りの報告をした者」

難しく書かれていますが、ようは

  • 正当な理由がなく質問に答えない、嘘の答弁をする

  • 正当な理由がなく検査を拒んだり忌避する

  • 正当な理由がなく帳簿を開示しない、偽の帳簿を出す

と懲役または罰金に科されるというわけです。
これどう見ても任意といいつつ事実上の強制じゃん

一応国税局の見解としては…

一応国税局のFAQにも「事実上強制調査ではないか?」という質問について回答があり

問3 正当な理由がないのに帳簿書類等の提示・提出の求めに応じなければ罰則が科されるということですが、そうなると事実上は強制的に提示・提出が求められることにならないでしょうか。

帳簿書類等の提示・提出をお願いしたことに対し、正当な理由がないのに提示・提出を拒んだり、虚偽の記載をした帳簿書類等を提示・提出した場合には、罰則(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)が科されることがありますが、税務当局としては、罰則があることをもって強権的に権限を行使することは考えておらず、帳簿書類等の提示・提出をお願いする際には、提示・提出が必要とされる趣旨を説明し、納税者の方の理解と協力の下、その承諾を得て行うこととしています。

税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)|国税庁 (nta.go.jp)

となっております。
回りくどいですが、国税局としては「実際に懲役や罰金があることを理由に強制する気はない」というニュアンスになっています。
まぁとはいっても実際に懲役や罰金が科せるんだから事実上強制じゃん。最初から素直に強制ってかけばいいのに…。

ちなみに、拒否ができる「正当な理由」についても記載されており、

問6 帳簿書類等の提示・提出の求めに対して、正当な理由なく応じない場合には罰則が科されるとのことですが、どのような場合に正当な理由があるとされるのですか。

どのような場合が正当な理由に該当するかについては、個々の事案に即して具体的に判断する必要がありますし、最終的には裁判所が判断することとなりますから、確定的なことはお答えできませんが、例えば、提示・提出を求めた帳簿書類等が、災害等により滅失・毀損するなどして、直ちに提示・提出することが物理的に困難であるような場合などがこれに該当するものと考えられます。

税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)|国税庁 (nta.go.jp)

と、個別具体的には裁判所が判断するが、例として災害による滅失・毀損を挙げています(やっぱり事実上拒否できないじゃん…)

売上や経費の「立証責任」は原則税務署が負う

では例えば税務調査で「この接待交際費になっている食事代は本当に取引先との食事ですか?家族との食事ではないですか?」と聞かれたとします。
あなたはもちろん「これは間違いなく取引先との食事です」と答えても税務署が納得しなかった場合、これが経費なのか経費じゃないのかの証明はどちらがするのでしょうか?

判例によれば、立証責任は当然税務署が負うとされています。

「所得の存在及びその金額について決定庁が立証責任を負うことはいうまでもないところである。」

最高裁判所昭和38年3月3日第三小法廷判決(月報9巻5号668頁)

「提出された証拠によっては、国の主張する事実を認めることはできず、他にこれを認めることができる的確な証拠はない」

アルゼ事件(東京高裁平成15年1月29日判決)

つまり、あなたが「これは経費である」という証明する必要はなく「これは経費ではない!」ということを税務署が証明しなければならないということです。

税務署はどの程度立証する必要があるのか

ただ、実際に税務署が経費でないことを100%立証するのは難しいので、ある程度の立証があれば事実上の推定が働き、十分とされています。

「必要経費又は損金については,納税者にとって有利な事柄であって,しかも納税者の支配領域内の出来事であり,納税者がこれを認識し,証拠資料を整えておくことは困難ではないから,その主張・立証は,通常の場合,納税者の方が課税庁側に比べはるかに容易なはずであり,これを納税者が積極的に主張・立証しないということは,事情によっては,当該経費の不存在について事実上の推定が働くとされている

泉徳治ほか・租税訴訟の審理について(改訂新版)171及び172ページ参照

ではどの程度の立証が必要か、これについても判例で示されています。

「訴訟上の因果関係の立証は、1点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつそれで足りる」

「ルンバール事件判決」最高裁昭和50年10月24日判決

長々と書いてありますが、つまり
「完璧な証明ではなく、通常人が見て、これはもう、この事実はあると確信を持つ程度」であればいいということです(これでもわかりにくいですが…)

つまり大切なのはあなたの主観でも税務署の主観でもなく、「普通の人がみたらどう感じるか」ということになります。

「後だし経費」に関する大改正

実は2023年の税制改正で新たに「証拠書類のない簿外経費の必要経費不算入・損金不算入措置」というものが開始されました
これは、税務調査の際に、それまで帳簿に記載されていなかった経費(=後だし経費)を提出したとしても原則認めないというものです。

この制度の成立背景には一つ大きな税務署のトラウマ事例があります。
ある翻訳家に対して税務調査が入り、調査の中で数億円単位の経費の否認を税務署が指摘しました。
それに対して、翻訳家は新たに外注費の領収書を約千枚、合計数億円を提出し、外注費として計上することを税務署に伝えました
これまでの法律だと、この「外注費」が本当に外注費かどうかを国税が証明する必要があるのですが、その外注先の大半は海外居住でありその調査には国税調査官5人が1年かかりきりでその調査にあたることになりました(結果として領収書の偽造は認定されました)

この件に関しては国税の執念が感じられますが、このようなケースを防ぐために、後だし経費については原則経費と認めない、認めてほしいのであれば納税者側が証明をする必要があることになりました。

無申告は本当にやばい。迷ったら経費にして申告しよう!

この翻訳家の例であれば否定されても仕方ないと思いますが、今回の改正で最もまずいのが「無申告」の税務調査です。
今回の改正は「無申告」に対する税務調査の場合、すべての経費の立証責任が「納税者側」になることになります。
この場合は圧倒的に不利に立たされることは間違いないでしょう。

そしてしっかり申告している方も、迷ったらまずは経費として計上しておいて、「あとから否認されたら仕方ない」くらいの感覚で計上したほうがいいかもしれません。

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