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「自信がない」「自信がないから動けない」は「〇〇が必要」という思い込み

プロコーチを目指し、なかなか思い通りにビジネス展開が叶っていない方々のお話を聴くなかで、よく「自信がない」という言葉を耳にします。

「経験のない分野のコーチングは自信がない」
「経営者へのエグゼクティブコーチングは自信がない」
「法人コーチングは自信がない」
「コーチングに自信がないからセッションフィーを安く設定してしまう」

などなど。
「自信がないから動き出せない」ということですが、「自信がない」というのは一体どういうことなのでしょうか。


経験のない分野のコーチングを依頼されること

あなたがこれからコーチングを続けていく中で、経験のない分野のコーチングを依頼されることは、多くあるでしょう。

例えば、まったく営業経験のないコーチのあなたが、とある会社の社長から「我が社の営業マンたちに、売り上げ数字をあげるためのコーチングをして欲しい」と、依頼されたとしましょう。

彼らは営業のプロフェッショナルです。毎日営業のことを考え、行動し、結果にコミットし、自信とプライドを持っている方も多くいらっしゃいます。

そんな営業のプロフェッショナルたちを相手に、「営業売り上げを上げるコーチング、営業スキルを上げるコーチングができるだろうか」と、多くのコーチが「営業したことがない自分にセールスコーチングができるだろうか…」と不安を覚えるのではないでしょうか。

次に例えば、プロコーチを始めたばかりの30代のあなたが、とある会社の60代の社長から「私のコーチングをして欲しい」と、依頼されたとしましょう。

理念やビジョン、経営課題、業績、従業員への待遇や社長の家族に関わる話などなど、「自分に受け止められるだろうか」「何十年も経営をされてきた社長に対して、私に何ができるのだろうか」などと、「経営などまったく経験したことのない自分に、エグゼクティブコーチングができるのか…」と不安を覚えるのも同じことです。


答えはクライアントのなかにある

私は数多くのセールスコーチングをお受けしています。私は営業の経験があるため、「経験があるから、売り上げや営業スキルを上げるセールスコーチングができる」と思われることも多いのですが、実際、クライアントである営業マンが、今月の目標額に対して見込みとなる案件がないときに、「こうすれば目標達成ができる」といったアドバイスは一切しません。

することは、その多くが「問いかけ」です。

その営業マンの中に“必ずある”、売り上げにつながる複数の見込み案件、またはそれらをただちに顕在化する「手法」「アイデア」「リソース」を引き出すための、問いかけをするだけです。

問いかけだけで、早いクライアントで10分、15分でそれまで頭になかったアプローチできる見込み案件やアプローチ方法を複数思いつかれます。

ときに女性のクライアントから恋愛や子育てをテーマにしたセッションを依頼されることもあります。

私は女性の立場で恋愛を経験したことがなければ、子供もいません。その悩みに対しての経験談もアドバイスできるものも持ち合わせていません。私は恋愛コンサルタントでも子育てコンサルタントでもありませんので教える立場にありません。

この場合も、前述の営業マンに対して同様、その彼女の中に“必ずある”ものを、引き出すための問いかけをするだけです。


料金設定に悩むコーチにつきまとう「自信がない」

コーチングのセッションフィーを決める、つまり値決めに悩んでいるコーチが多くいます。そんなみなさんの話を聴くと、ほとんどの方がご自身が望む本当の金額と、実際に設定しようと思っている金額に大きな差があります。設定しようとする金額の方が低いのです。

少し掘り下げて聴くと必ず「〇万円…。いただきたいですけど、それだけの期待に応える自信が…。」

つまり、そのコーチの思う自分のスキルが、その金額に見合わないと思っている。その金額が低くなればクライアントの期待値も低くなり、不安が緩和され、気持ちが楽になるというものです。

そんなコーチに、「ではセッションフィーが500円だったらエネルギーはどれくらい上がりますか?」と尋ねると、ほとんどの人がエネルギーは下がったままです。この500円を徐々に上げて聴いていくと、そのコーチのエネルギーは段々と上がっていくのですが、さらにその額を上げ続けると、ある金額をピークにそのエネルギーは再び下がり出すのです。

つまり、安いのは嬉しくないけど、高すぎると自信がないので同じく嬉しくない訳です。このエネルギーが上がり下がりする額、そしてピークのその額には個人差があり、1万円でプレッシャーを感じるコーチがいれば、3万円、5万円でプレッシャーを感じ出すコーチもいます。つまりこれは、そのコーチの属人的な価値観によるものです。

こういった価値観から、「コーチが〇万円分の何かを提供しなければいけない」「私に〇万円分の価値を提供できるのだろうか…」といったようなプレッシャーを感じるのも同じことです。


「自信がない」の発想は「〇〇が必要」という思い込み

「経営の経験がない」「セールスの経験がない」「恋愛の経験が少ない」「コーチが〇万円分の何かを提供しなければいけない」など、自分が『クライアントよりも多くの経験値がないとコーチングができない』と考えてしまうこと、または『クライアントに何かを与えなければ』と思ってしまっていることは、コーチングにおいて不要な思い込みであると気づくことが大切です。

クライアントがそのセッションで扱うテーマについて、“当事者意識”と“責任感”を持ち、心から達成したい、心からなりたい姿と強く思っているのであれば、必ずクライアントから多くの気づきやアイデア、選択肢がでてきます。それらはあなたが提供するものではなく、「ヒントを与えよう、与えたい」と考える必要もないのです。

プロコーチであるあなたに必要なのは、クライアントにセッションテーマに対して“当事者意識”と“責任感”を持ってもらうこと、そしてクライアントの中にあるものを引き出すための、問いかけだけです。

あらためて、コーチングとは、
「答えはクライアントのなかにある。コーチはそれを引き出すだけ。」
そして
「コーチとクライアントは対等」
です。

決して、高い場所から情報や知識を与えるものではありません。

「コーチの赤本」からひとつの則を記します。

第104則
クライアントは、勇気がないことを『自信がない。』と表現する。
自信がないクライアントは勇気づけよ。
クライアントに寄り添い、クライアントの心をストロークで満たせ。

では、「自信がないから動けない」と思っているあなたに問いかけます。

「具体的に何の自信が必要なのでしょうか?」
「具体的に何がどの程度満たされればその自信がつくのでしょうか?」

専門知識?経験?年齢?
この問いかけに明確な答えをもらうことはありません。

「自信がない」コーチに足りないのは、自信でも経験でもありません。きっと、『他のもの』が足りないのです。

コーチが“自信のない自分”に出会ったとき、もしあなたが“自信のなさから恐れを感じて動けなくなったとき”は、是非ご自身を目一杯励ましてあげてください。是非目一杯勇気づけてあげてください。

「それでも自信がない」「勇気がでない」コーチの方は、一度ご相談ください。今のその体験は、今後コーチングを続けていく中で大きなリソースとなる重要な経験です。


自分が経験のある分野でコーチングをする場合

最後に。
自分が経験のある分野でコーチングをする場合、前のコラム「プロコーチが、コーチ業で生計を立てるための必要な最低限必要な3つのスキルと必要不可欠な1つのマインド」の“受容力”でお伝えしたように、経験者であるからこその弊害もとても多いことを知っていただければと思います。

それを知った上で、コーチにその分野の経験がある場合、その情報をセッションの中で有効に利用することは良いと思います。例えば、クライアントの経験が浅く引き出す選択肢が少ない場合に、自らの経験・知識から情報を提示する場合など。

ただしこの場合、コーチはクライアントの“当事者意識”と“責任感”を阻害する伝え方をしてはいけません

コーチは「アドバイス」をするのではなく、許可を得た上でセッションのその場にアイデアを提示し、クライアントの挙げた選択肢に加える価値や有効性があるかをクライアントに自分で判断してもらう「伝え方」をする必要があります。この「伝え方」を間違えると、コーチングはうまく機能しなくなります。

この「伝え方」については、別の機会に説明させていただきます。

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