水没した墓標
泳ぐ背のまわりの丸い波紋たち そうだ おまえが王で相違ない
水泳部停止になった 音質プールの暗がりのペースクロック
カタセから聞いた「暴力」という語の本来そうあるべき下がる「ぼう」
半袖は肌寒いはつなつの夕おまえはすでに別のいきもの
大丈夫だと肩を叩いたサエキの手それが他人を殴っていること
街灯の下だけ明るい穴あきの道をおまえは帰っていけるのか?
しかし俺たちは光の下でしか弱さの吐露が許されていない
暴力が上手ければ良かった みんなに何度サエキを褒めればいい
カタセを「ちょっと違うよね」って言う奴はあれがちょっとなほどデカくないだろ
河川敷暇そうな奴しかいない走ることさえ無期限無意味
走る頭上過ぎていく重たい羽音 未来は何かを奪いもできる
顧みず駆け抜ける角を無事に過ぎそれが必然ではないなんて
ド田舎で飛べない俺が水中で見る山ほどの照明の白
水面に飛び出すカタセの手のひらは飛行機の羽の先端のよう
悪人と同じ制服着て俺らそうかもしれないことを詫び生きる
もう次がいつの大会か考えるおまえが殴るべきだったんだろ
先輩とケンカをするがカタセを毒づいた俺には謝る おまえは
背景のような夏で集まっても元の形にはもう戻れない
春嵐ふいに牙立てる水は雨 テレビをつければカタセの姿
俺は一生光を恐れて生きていく あの日のプールフロアの陰で
あれからもずっと淡白な位置につくルーティン おまえは名誉で勝った
水面の下には紺の十字模様 善に力は含まないでくれ
ゴールする俺たちが見た十字架はそれぞれの水没した墓標
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