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引越しバイト②

3月は引越しシーズンで
引越し屋さんは
とんでもなく忙しいらしい

実は自分は引越し屋さんの
会社に入ったわけではなく
運送会社にバイトとして入った

仕事の内容としては
トラックで現地まで行って
そこで作業する引越し屋さんの
サポートと積みきれない荷物を載せる
という仕事でした

3月の引越し屋さんには
トラックと人手が足りず
仕事を運送会社へ頼むことが多いらしい

✳︎

いよいよ初出勤日
貴重な休日を潰しての
労働だったので少し足が重かった

朝7:00。

約束の時間に会社へ行くと
「休みが出たので、今日は1人で行ってほしい」
「現場に引越し屋さんがいるから大丈夫」
と言われた

何もわからない素人が
初日から1人でトラックを運転して
初めての引越し作業をしなければならない

そんな無茶苦茶な展開に戸惑った
でも、なぜだかワクワクしている自分もいた

そもそも、こういう未知なる体験をして
心に刺激を与えるために
このバイトを選んだようなものだったから
この無茶な展開には心が弾んでいた

「行けばわかる!」と
アントニオ猪木のような
名言の感じで言われたので
覚悟を決めて「行きます」と返事をした

✳︎

初めての現場は
神奈川県の川崎市だった
Googleマップに住所を入力

トラックの運転には直ぐに慣れた
土曜日の早朝は車が空いていて
快適なドライブ気分で運転ができた

3月という事もあり
ラジオからは桜ソングが
たくさん流れてきた

普段まったく聴かない
J-popが心地良く感じてしまった
そんな自分に驚き、新たな発見を感じた

✳︎

約束の時間に引越しの現場に着くと
もうすでに引越し屋さんは作業をしていた

半袖姿で作業する引越し屋さんに声をかけると
自分がバイト初日だという事が伝わっており
「今日は何もせず見ててくれていいですから」
と優しく言われた

手伝う必要がなかった理由は
そこは小さなマンションの
2人暮らしの夫婦で
物量がとても少なかったからだった

3人の引越し屋さんは
小走りでテキパキ作業をこなしていた
無駄のない華麗な連携は
まさにプロフェッショナルな姿だった

自分はただ、それを立って見ていた
すると年配の女性に声を掛けられた
引越しをする夫婦の夫の母親だった

話を聞くと
ずっと息子さんは婚活をしていて
やっと素敵なパートナーに出会えたらしい
そして結婚をして一軒家を買ったらしい

また、パートナーのお腹の中には
新しい命が宿ったと
満面の笑みで幸せそうに話してくれた

・息子さんの結婚
・新築の一軒家を買ったこと
・初めての孫ができること

これらの出来事が
嬉しくて嬉しくて堪らないみたいだった
そんな幸福な話を聞いていて
自分も幸せな気分になれた

✳︎

そして荷物をトラックへ乗せ
新築の新居へと向かった
高台にある真っ白な一軒家は
希望に溢れる幸福な建物だった

新居には、お腹を膨らませた
奥さんが立って待っていた
「ご苦労様です」と言って
みんなに飲み物の差し入れてくれた

そして新居へと荷物を運ぶ作業が始まった
再び自分は見ているだけでいいと言われた

そこへ、さっき川崎で会話をしていた
お婆ちゃんが車でやってきた
お腹を膨らませた奥さんと
3人で会話をする事になった

自分が独身だと伝えると
「結婚の良さ」
というテーマになり
2人とも力説してくれ
それが凄い盛り上がった

結婚の良さがテーマだったはずが
徐々に夫への不平不満がこぼれ
最終的には「男は子供だ」
という話なり3人で笑い合った

幸せな人と幸せな人に
囲まれ幸せな会話をして
とても幸せな気分になれた

✳︎

チームワークの良い引越し屋さんだったので
荷物を下ろし搬入する作業は
40分程で終わってしまった

爽やかな汗をかいた引越し屋さんは
「お疲れさまでした」と言って
次の現場へと向かった

今回の自分の仕事は
この一件の約束だったので
綺麗なままの作業着で
仕事を終え会社へと帰った

ただ立って幸せな会話をしてるだけの
何もしない幸せなバイトの初日だった

✳︎

その帰り道
土曜日という事もあり
道路は大渋滞していた

相変わらずラジオからは
桜ソングが流れている

今日1日を振り返りながら
「結婚と子供」
について考えてしまった

自分の人生には無関係なものだと思ってたけど
今日、出会った2人の女性の
とても嬉しそうな表情を思い浮かべていたら
「こういう幸せもあるんだ」と考えてしまった

ふと周りを見渡すと
道を歩く子供連れの家族や
ゆっくり散歩する老夫婦などに
目がいくようになってる自分がいた

とても幸せそうに見えた
自分が味わったことのない
すべてを心得ている気がした

好奇心や欲望を満たすことに
重きを置いていた個人主義の
そんな自分の人生にとって
とても意外な感覚だった

これからの自分の未来には
街歩く家族や老夫婦のような
素敵なパートナーに出会えるのだろうか

そんな未来が待っているのだろうかと
そんな絵空事を思い浮かべながら
渋滞を抜け会社へと帰った

そんな幸せなバイト初日でした
また次回へと続きます


それではまたCiao!

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