土岐友浩 TOKI Tomohiro

短歌をよみます/歌集『Bootleg』 http://www.kankanbou.co…

土岐友浩 TOKI Tomohiro

短歌をよみます/歌集『Bootleg』 http://www.kankanbou.com/books/tanka/shinei/0185Bootleg

最近の記事

移動のお知らせ

日記をはてなブログに移動しました。カテゴリー管理がうまくできなかったので、すみません…。 https://kemurino.hatenablog.com/ そしてとうとう歌集も出来上がりました! 通販もやっていきますのでお気軽にお問い合わせください。よろしくお願いします!

    • 歌人が答える31問31答!

      なんの脈絡もなく始めた企画でしたが、Twitterで告知して2日で31問の質問が集まりました! みなさまご協力本当にありがとうございました。さっそくお答えしていきたいと思います! Q1-1/関西で食べられる美味しいラーメンベスト3を、食レポ付きでお教えください!(質問者:@rita_hassy47 さん)紫蔵…いわゆる家系ラーメンの名店。以前はお店が左京区にあって学生時代は自転車で通い詰めました。スープ、チャーシュー、ご飯、すべてが言うことなしです。行列注意。 京都元町北山

      • 千種創一歌集『千夜曳獏』

         手にとると、信じられないほど軽い。軽すぎて、読者の心がそのままどこか別の世界へ連れて行かれそうになる。  思わず秤に乗せたら、182グラムだった。おととし出た宇都宮敦の歌集『ピクニック』は712グラムだったから、四分の一ほどの重量しかない。それほど軽く、儚い造本の第二歌集である。せんやえいばく、と読む。 でもそれが始まりだった。檸檬水、コップは水の鱗をまとい  以前に僕は第一歌集『砂丘律』の作品を、中東の「砂の文明」が生み出した「砂の韻律」だと書いた。  歌集を開くと、

        • 吉田恭大歌集『光と私語』

           学生短歌会七不思議のひとつに、早稲田大学短歌会に演劇人が多いのはなぜか、というものがある。特に吉田は短歌と演劇両方に打ち込んでいたイメージで、会うとたいてい忙しく、何かの稽古に励んでいた。 六畳の白い部屋。その床面にあなたは水平に横たわる。 「ト」という連作の第一首。恋人が眠っているところのようだけれど、こう書かれると、プライヴェートな空間がそのまま舞台の一場面に生まれ変わる。ト書きの文体が醸し出す、不思議な緊張感。 枚数を数えて拭いてゆく窓も尽きて明るい屋上にいる

          奥村晃作歌集『ビビッと動く』

           あとがきによれば、満八十歳を機に上梓されたという作者の第十五歌集である。二〇一四年から二〇一六年にかけて詠まれた三二〇首が収められている。 鳥取の松葉蟹の子生きながら箱詰めに五尾送られて来ぬ  巻頭の連作「若松葉蟹」の第一首。二句目と四句目の最後に助詞の「が」が省略され、一首がぴったり定型に収まっている。こうして助詞を抜くことで韻律が緊密になり、箱にぎっしりと詰まった活け蟹の姿がおのずと浮かび上がってくる。  そして、その次の歌。 まだ動く若松葉蟹まな板にのせてゴシゴ

          奥村晃作歌集『ビビッと動く』

          藪内亮輔歌集『海蛇と珊瑚』

           二〇一二年に「花と雨」五十首で角川短歌賞を受賞した作者の第一歌集である。 傘をさす一瞬ひとはうつむいて雪にあかるき街へいでゆく  非常に抽象的な歌だ。そしてそこに、藪内の資質がよく現れている。「ひと」とは誰なのか。親密な人物か他人か、男性か女性か。僕たちはつい歌に具体を求めてしまうけれど、ここに書かれているのは言わばシルエットのような「ひと」の動きであり、藪内はその抽象性に美を見出す。  歌集には「数式」や「方程式」の語も登場する。藪内は数字を代数に置き換えるようにして

          藪内亮輔歌集『海蛇と珊瑚』

          山下洋歌集『屋根にのぼる』

          あしたから生まれ変わるという少女 そんな焦らんかてええねんで  生徒に「焦らんかてええ」と声をかけられる先生は、いま、どれくらいいるのだろう。生徒指導の目的が反省の言葉を引き出すことだけならば、「生まれ変わります」と言われたとき、多くの先生は「そうか。よし、がんばれよ」とでも答えてしまうのではないか。  しかし山下さんは殊勝な言葉の裏に「焦り」を見出し、いたわりの声をかける。「そんな焦らんかてええねんで」と。 〈スピード〉を〈偏差値〉に読み換えてみよ事故は他業種のことには

          山下洋歌集『屋根にのぼる』

          萩原慎一郎歌集『滑走路』

          プロ野球選手になれず月の夜に歌人になりたいと思う窓辺に 選歌され、撃ち落とされてしまいたる歌という鳥 それでも放つ  萩原さんは一九八四年生まれで、ちょうど本誌前月号(「現代短歌」2018年4月号)で取り上げた『ナイトフライト』の伊波真人と同い年にあたる。 『滑走路』と『ナイトフライト』。  よく似た名前をもつ二冊の歌集が、昨年(2017年)のほぼ同時期に刊行された偶然を思う。  萩原さんが短歌を始めたのは、十七歳の秋。受験勉強もよそに公募の短歌大会や新聞歌

          萩原慎一郎歌集『滑走路』

          伊波真人歌集『ナイトフライト』

           無機質で静謐な印象を与える無人のガソリンスタンド。とても小さな月。画面の右端には、わずかに夜の森が息づいている。  永井博の描き下ろしだという本歌集の装画は、伊波の叙情の質をこれ以上ないほど的確に表現しているように思う。 夜の底映したような静けさをたたえて冬のプールは眠る この星がショーケースなら電柱は街を留めおく標本の針 君からの留守番電話きくときに受話器は地軸のかたむきをもつ  第五十九回角川短歌賞を受賞した「冬の星図」の一連から。  一首目は歌集の巻頭歌で、作者を

          伊波真人歌集『ナイトフライト』

          足立香子歌集『蝸牛』

           ああ、これは間違いなく平井弘から受け継いだ息づかいだ、と感じる。 捩じ曲がるピーマンの内にいるものを見ずには食べるわけにもいかぬ 真昼間にあまたの星のつぶつぶが見えたとしても慣れるまでです 纏めようとするものだから翔つものはほら竜巻になってしまった   どこか不吉なモチーフ。ものが見えるようで見えてこない描写。初句から結句までひと息に詠い下ろす文体。これらすべてが、なにか肝腎なことが隠されていそうな不安を掻き立てる。歌のなかに、平井弘が息づいている。  作者の足立香

          足立香子歌集『蝸牛』