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イタリアのお母さんの味 パルミジャーナ・ディ・メランザーネ(茄子のパルマ風重ね焼き)

2015年、仕事でイタリア製の商品を販売することになり、わたしは貿易仲介の日本の会社の担当者とやり取りしていたのだけど、どうも現地へ行かないとらちが明かないということになり、わたしも仲介の担当者とイタリアへ飛んだ。

仲介担当者のワタナベ氏(仮名)は気のいい男で、仲介業者を決めるときの入札プレゼンテーションで来社した時も、カバンからバサァと大量の紙を出し「ホッチキス貸してください」と、プレゼンの時間になってから資料をカッシャンカッシャンと留め始めた時点で、大物営業マンの風格を醸し出していた。

ワタナベ氏の口癖が「問題意識はありません」というもので、これは社内でも「いや問題意識持ってくださいよ!」と突っ込みつつ「いい言い方だよね。問題はありませんだと嘘になっちゃうかもしれないけど、問題意識がないっていうのは本当だろうからね」「それじゃ困るんですよ」とか言って大ウケし、その年のプロジェクトチーム内流行語大賞に輝いた。(困る)

そんな彼とのイタリア旅は、さまざまなサプライズに満ち溢れており大変にエキサイティングだったのだが(婉曲的な表現)、今になってみれば一番忘れられないのは、購入元のナポリの工場へ向かう途中ののどかな風景と、工場の昼休憩で出してもらった、社長のお母さん謹製の茄子とチーズの重ね焼き、パルミジャーナ・ディ・メランザーネだったりする。

出張なので、観光の時間など一切ない。ルフトハンザで羽田からフランクフルト、フランクフルトからナポリ・カポディキーノ空港。空港に着いたら即、待ち構えていたタクシーで連行され工場&事務所へ。その日の打ち合わせが終わったらそのままナポリ中央駅へ直行し、フレッチャロッサ号(イタリアの新幹線みたいな、長距離高速鉄道)で北上。ローマ、ペルージャ、ボローニャ、パルマ、ミラノと、取引先と取引先候補の工場を巡らなければならなかった。ナポリの街は、飛行機から撮った数枚の写真と、タクシーから見たヴェスヴィオ山ですべて終了です。

なお、ナポリはイタリア人でも警戒するほど治安が悪いと聞かされていて、特に駅は気をつけろと注意を受けていたので緊張していたら、全然大丈夫だった。ナポリ駅は明るくピカピカで新しく、スーツケースを床に置いたまま駅員に何か聞きに行っている人もいた。

ちなみに、イタリア=時間にルーズのイメージもあるかもしれませんが、わたしたちの利用したフレッチャロッサ号は少なくともオンタイムでした。決めつけはよくない。

なおわたしがイタリアにいる間、他の担当案件を日本にいる誰かが肩代わりしてくれるなんてことはないので、夜ホテルに戻ったらPCを開いて、壮絶な量のメールを読んでそっちも夜なべして進めないといけないのに、わたしがイタリアに行くと聞いて、各地のおすすめ観光地やレストランのリンクを次々と送ってくるイタリア通の人がいて、大変憎らしかったです。

イタリア人はランチを社交の場としてとても大切にするので、午後も仕事があるのにワインが出てきたりして、12時前から2時間ほどかけて、たっぷりと食事を楽しむスタイル。会議室に突如現れた、みんなの想像の中の「イタリアのお母さん」が仕事を中断させ、社長が「私のマンマだよ」と彼女を誇らしげに紹介してくれる。別室へ移動すると、トマトソースとチーズがたっぷりのキャセロールが湯気を立てている。

 わたしはあと数時間以内に、限られた予算で会社が多額の費用をかけてわたしを送り込んだことの成果を上げなければならないのにとヤキモキしつつ、こんなに余裕のない日本の会社で働いている自分を恨む。そして、日本の会社で働く同士として同行のワタナベ氏をチラリと見ると…、社長のお母さんから「パウロ」なんてイタリア名を付けてもらってご満悦。ワインを何杯も空けてすっかりできあがっている。余裕~~~!!!大丈夫かおい?!羨ましいぜ!!!

この日の過密スケジュールでカリカリしていたわたしの心を奪った料理の名前は「パルミジャーナ」。正式には「パルミジャーナ・ディ・メランザーネ」(茄子のパルマ風)という。パルマ風と言いつつ、ナポリ料理だそうです。(が、あとで調べたらシチリア料理とか、やはりパルマだとか出てきた。「元祖」が各地にあるとみた) でも、茄子とトマトとチーズというのは、ギリシャ料理のムサカのようだから、イタリア南部発祥というのは、なかなか説得力があると思う。

甘くて肉厚の茄子、うまみたっぷりのトマトソース、そしてフレッシュなモッツァレラチーズと、コクのあるパルメザンチーズが夢のように折り重なって、そしてそれだけじゃない、懐かしく香ばしい「食べ応え」を感じる。なんだこれは。ラザニアのようだけど、パスタじゃなくて茄子だから、おなかにも軽そうです。仕事中だからレシピを聞けなかったのだけど、帰国後も忘れられなくて、思い出しながらいろいろなレシピを見ながら自分でも何回か作ってみた。一回目は、帰国後すぐさま、スライスしただけの生の茄子を耐熱皿に並べて、トマト缶をそのまま開けて。そしたら、中間層の茄子に火が通っていなくてエグいわ、トマト缶の水分でシャバシャバだわで、失敗。↓

二回目は反省してちゃんと調べて、一般的なレシピに従って。スライスした茄子を一旦フライパンで焼いてから、横着せずちゃんと煮込んだトマトソースと合わせて。これはこれでおいしかったけど、何かが足りない。「懐かしく香ばしい食べ応え」が足りない。そしてある日、冷やし中華の薄焼き卵を作っている時に鼻孔を突いた匂いで気がついた。そうだ、ナポリで食べたやつは、間違いなく卵が使われていた。あの「懐かしく香ばしい食べ応え」の正体は、卵に違いない!

調べてみたら、茄子の下ごしらえの時に、小麦粉をつけたり、溶き卵をまとわせるレシピもあるらしい。なので三回目は、ピカタのように茄子を卵にくぐらせて、多めの油で揚げ焼きに。すると、あの時の正解の匂いがしてきた。けれど、卵は茄子よりもずいぶん早く火が通ってしまって、茄子までうまく火が通らない。茄子に合わせると、今度は卵が焦げてしまう。たぶん、茄子をごく薄くスライスするか、卵をつける前にやっぱり茄子だけを別に一度加熱する必要がある。

それは面倒臭いので、ちゃんとしたレシピではないかもしれないけど、以下はまさに冷やし中華の薄焼き卵から思いついた、わたし流の卵の重ね方。卵を別に薄焼きにしておいて、茄子と一緒に耐熱皿に敷いてしまえばよいのだ。社長のお母さんにはダメ出しされるかもしれないけど、最終的に全部が層になればよいのだ!

<パルミジャーナ・ディ・メランザーネの材料>
茄子…耐熱皿のサイズに合わせて、4層くらい重ねられる本数
モッツァレラチーズ...2玉ほど
パルメザンチーズ…好きな量
トマト缶(ダイス)…1缶
ニンニク…1~2片
卵...1~2個
バジル、パセリ、オレガノ、ローリエなどのハーブ類…オプション
バルサミコ酢...オプション

①茄子の下処理をする
1) 茄子を1cm弱くらいの薄さにスライスする。お持ちの耐熱皿に敷きやすいように、輪切りでもいいし、三枚おろしのように長い面に合わせて切ってもよい。
2) 塩を振って、20分ほど放置。水分を出させる。この間に、行程②③を進められるだけやっておく。
3) キッチンペーパーで水分を拭き取ったら、フライパン(③で使うのと同じでいいし、洗わなくていい)に油を敷いて、火を通す。茄子は容赦なくにわかには信じ難い量の油を吸わせるととてもおいしくなりますが、それを目視確認するのはつらいという場合、油はごく少量にして、水少々を加えて蓋をして、蒸し焼きにしてもよいと思います。*今ふと思ったけど、この①の行程は、茄子をラップにくるんでレンジでチンしてしまってはどうでしょうか。チンしてからスライスするということ。トロトロになりすぎるかな?誰かやってみて教えてください。

②トマトソースを作る
1)鍋にオリーブオイルとにんにくのみじん切りを入れて弱火on。ニンニクは糖分が多く、したがって焦げやすいので、必ず木べらを動かし続けながら弱火でシャワシャワと炒める。
2)油から香りが立ち、あぶくが出てきたら、鍋にトマト缶を開ける。トマト缶の中に水を入れて振って洗いつつその水も入れるともったいなくない。油はねが怖い場合はトマト缶を開ける前に一旦火を止めてしまってもよい。
3) 乾燥オレガノ投入。これが入ると、イタリアのピザソースやパスタソースの「あの味」になります。ローリエとか、好きなハーブも使っていいです。
4) これは完全にオプションで、無くてもいいんですけど、わたしはバルサミコ酢を少しだけ加えるのが好き。バルサミコ酢は甘いし、酸味は煮込むうちに飛んでしまうので、甘味とコクが残ると思います。みりん的な仕事をしてくれる気がする。
3) 煮込み時間、だいたい30分程度でしょうか。かさが減って、トロトロした質感になってくるので、ここで塩胡椒して味を整えます。チーズとかの塩分もあるので、若干薄めでOK。

③薄焼き卵を作る(あとでオーブンで加熱するので、他の行程の間に冷めてしまってもOK)
1) 卵を溶いて、軽く塩胡椒する
2) フライパンに油を敷いて、卵を少量。全体に回してクレープのように薄く焼く。すぐ火が通るので、一度だけひっくり返して、数秒したらもう火からあげてよい
3) これを繰り返して、耐熱皿の中に作りたい層の数×2倍の枚数(4層なら8枚)焼く。

④アッセンブリ&オーブン焼き
1) オーブンを200度で予熱にかけておく
2) 耐熱皿に、トマトソース→卵→茄子→卵→モッツァレラチーズ→トマトソース→卵→茄子→卵→モッツァレラチーズの順番で重ね、一番上にパルメザンチーズを散らす。卵は一枚の形を保たなくても、皿の形や大きさに合わせてちぎってしまってよいです。
3) 200度のオーブンで20分ほど焼く。茄子にもう火が通っているので、チーズが溶けて焦げ目がつくのが目安になります。
4) 焼きあがったら、お好みでバジルの葉などを乗せる。→完成!

ワインがすすむくん

卵はなくてもいいんでしょうけど、わたしは最初に出会った、ナポリの社長のママが作ってくれたパルミジャーナ・ディ・メランザーネを親だと思って付いていく習性があるので、やっぱり欠かせません。どんなに忙しくても食事の時間はしっかり確保して、その間は心配ごとは忘れて食べることを楽しむというイタリアの皆さん(とワタナベ氏)の姿勢からは学ぶところ大きかったので、生かしていきたいですね。会社のデスクでごはんを食べている時は、シュっとコクーン型の防音シェルターに包まれて、きっかり一時間休ませてほしいところです。よろしくどうぞ。




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