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[無料]架空遭難 八ヶ岳で4人パーティー、クライミング中に落ちて1名骨折

架空遭難とは?

遭難した、または遭難しそうという状況設定から、自分ならどうする?当事者ならどうする?を想像する試みです。ツイートに反応することで参加できます。

今回の条件

  • 9月中旬の晴れ

  • 70代のリーダーA、40代のBとC、50代のDの4人

  • 大同心雲稜ルートの3ピッチ目を登攀中、ホールドが剥がれてトップのBが落ちた

  • Bは右足首を骨折、出血なし

  • 携帯は通じる

  • 2名ずつでロープを結んでおり、50mのダブルロープを2本ずつ使っていて4本あります

  • 装備は登攀道具一式、ファーストエイドキット、行動食、雨具、防寒具、ツエルト、水、スマホ、ヘッデンなど

地形図のリンクはコチラ。

ツイートはコチラ。

クライミングの事故はよくあります。事故ったとき、適切に対処できますか?

解答例

注:私はどっちかというとフリー寄りで、アルパインクライミングはそんなにしていないので解像度が低く、的外れの可能性があります。「違うぞ」と思いましたらコメントに書き込んでください。


とりあえず登攀はこれで終了、全員でBさんのレスキューに当たります。Bさんの上に登っている組がいるか、Bさんが先頭だったかでも対応が変わると思います。引き上げるか下ろすか?下ろすのが安牌でしょうか。3ピッチ目なので下ろすのもなかなか大変だとは思います。コミュニケーションはトランシーバーがあると便利ですが、慣れていないと意思疎通に支障が出るので普段から使う様にしましょう。

大同心稜の登り。ここは単なるアプローチ道。

下ろすにしても、単にロワーダウンさせればいいという訳ではなく、安定した場所に下ろす必要があるため、ロープレスキューについて理解していないと詰みます。ルートが斜めに進んでいる場合、そのまま下ろせば後続やビレイヤーから離れてしまいますし、下部が切れていてロープが足らなければ宙吊りになってしまいます。事故脱出、登り返し、支点構築、カウンターラッペル、救急法など様々な知識が残されたメンバーに必要です。

Youtubeでいくつかロープレスキューの動画がありますが、こればっかりは動画では学びきれません。プロから直接習うことをおすすめします。

私はずいぶん前ですが、日本アルパインガイド協会でロープレスキューを習いました。中級までは合格していますが、もうかなりの部分を忘れてしまったし、道具を多く使う方法だったので、ぶっつけで上手く出来るかは正直自信がありません😅。練習しなきゃなぁ…。

とりあえず、上手く降ろせて大同心の基部に辿り着けたとしましょう。ストックや、ファーストエイドキットにサムスプリントが入っていたらそれらで骨折部位を固定して、携帯電話が通じるのなら救助要請をします。

ツエルト、雨具、防寒着はあるので救助が来るまでそれらでBさんを保温します。以降は警察の指示に従ってください。

世代や山岳会によっては救助要請は恥、弁当も怪我も自分持ちという考え方もあるかも知れませんが、骨折は出来るだけ早く病院で治療するのが大事です。自分たちで搬送しようとすればどう固定しても骨折部位が動きますし、予後が悪くなり後遺症が残るかも知れません。未来のために救助要請をした方がよいでしょう。

要救助者がヘリで運ばれたら、残された者たちで道具を片付けて下山でしょうか。壁から下ろすためにある程度の装備を残置してしまったかも知れませんが、更に遭難してはいけません。諦めて下山したほうがいいと思います。

誰しも遭難の対応をしたあとは精神的に不安定になるものです。大同心稜も一般登山道ではありませんから、慎重に下山してください。

落ちてはいけない、怪我をしてはいけない遊び

私は「フリークライミングのつもりでアルパインクライミングをやると死ぬぞ」と習いました。フリークライミングは、岩場の難しい部分にトライして落ちても怪我をしないのが前提となっています。アルパインクライミングは、岩場の簡単な部分(弱点)を探して絶対に落ちてはいけないのが前提です。前提が違う遊びです。一緒くたにしてはいけません。

ゲレンデとして整備されているとはいえ、八ヶ岳でのクライミングはアルパインクライミングです。沢登りも岩登りもアイスクライミングも、自然の山中で行う登攀は「ロープを結んで中間支点を入れていれば落ちても死なないかも知れないけど、落ちればほぼ間違いなく怪我はする」類の遊びです。不安定で間隔が広い中間支点しかないため、落ちれば、よほど運が良くなければ怪我を免れません。

トップ(リード)は当然、セカンド(フォロー)も落ちてはいけません。その代わりに登攀グレードはそれほど高くありませんが、アルパインクライミングでは、どんな手を使っても落ちてはいけません。「テンション!」と言ったところで、声がビレイヤーに届かないかも知れないし、都合の良い場所に中間支点があるとは限りません。絶対に落ちずに登りきらなければいけません。その覚悟や力が無ければアルパインクライミングなんてやらない方がいいし、トップで登ってはいけません。

今回の事例ではBさんが持ったホールド(岩)が外れたことで落ちて怪我をしました。よく登られているルートでも岩が取れてしまうことはあります。だから登りながら岩が割れないか、外れないかをよく確認する必要があります。岩のホールドだけでなく木や草、中間支点に使った岩角や立木も同様で、崩壊の可能性があるというのを忘れてはいけません。アルパインクライミングで確実な物などありません。(フリークライミングでもボルトが抜けたりナチュラルプロテクションが外れる事はありますが)

登攀中以外でも、ピッチの間にある歩き部分で油断して滑落したり、落石や雪崩のリスクもあります。気を抜かず行動しましょう。

怪我をして行動不能になれば、3人いても1人の人間を安全に登山口まで運ぶのは困難です。歩けなくなった人間は重いですよ…。時間も体力も膨大に消費します。状況が悪ければ全員の命が危険に晒されます。例えば天候が急変したらどうなるか?

自力下山が難しいなら救助要請となりますが、公的な救助を前提としてハイリスクな遊びをするというのは倫理的にどうなのか?という気もします。少なくとも、ハイリスクな遊びをする者は特に、事故を起こさない準備と努力が最大限必要です。最大限の努力をしていますか?

今回は運が良かった想定で解答例を書きました

A、C、Dさんたちにレスキューの技術があり、救助要請の判断を出来て、天気も良く救助隊のリソースも空いていたのでヘリが飛びました。早く治療できたためBさんの足は早めに治るでしょう。

しかし、レスキューの技術がなく長時間宙吊りになったら?あなたとパートナーにはレスキュー技術がありますか?山屋の意地を通して無理に自力下山を目指したら?天気が悪くてヘリが来なかったら?とりあえず赤岳鉱泉までは自力で下ろす?下ろせる?ソロだったら?2人だったら?など、悪い条件設定と暗い未来予想はいくらでも出来ます。

そういう状況にならないように備えていますか?事故の想定をしたことがありますか?自分たちがやっている遊びの怖さを、もう一度考えてみてください。いやー、怖い遊び、してますねぇ。

これらの写真は、2018年12月に大同心と小同心でクライミングをしたときに撮ったものです。冬季登攀のつもりで来たのに雪も氷も無く岩しか無かったという😅。大同心南陵(たしか)と小同心クラックを登ったあと、大同心稜に戻ってきて下降しました。


わぁい、サポート、あかりサポートだい好きー。