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アイドルに学ぶ”良い組織”

就職活動をしていたとき、とある企業の面接で「山田さんは“良い組織”をつくりたいと言っていますが、“良い組織”って何ですか?」と問われた。

当時の私は、確か3つほど良い組織の要件を挙げた記憶がある。記憶を辿ると、①個々人が自立的であること、②その個々人が有機的に繋がっていることの2つを挙げたことまでは覚えているが、3つ目に何を言ったのかはもう思い出せないし、その面接官の方も覚えていないだろう。

その後、「そういうことを実現している組織はありますか?」と尋ねられた。これも記憶が定かではないが、それを実現できていたら理想的ではあるが、現実にそんな組織は存在するのかという趣旨の質問だったと思う。

私は「サッカーチームのバイエルン・ミュンヘンがそうだと思います」と回答した。優れたプレイヤーが在籍し、個人プレーに走ることなく、それぞれの役割が連動しながらチームとして素晴らしい成果を上げていたことから、大して専門的なことは分かっていないにわか知識でそう答えた。

結局、面接の終わりに「山田さんのやりたいことがよく分からなかった」と一蹴され、私の方も内心で「これだけ話して分からなかったならこっちから願い下げだ」と思って帰路についた。

それから、「良い組織とは何か?」という問いに対してずっと緩やか向き合い続けてきた。


乃木坂46のようなチームをつくりたい

新卒で入ったデロイトトーマツコンサルティングで、当時の上司に「乃木坂46みたいなチームづくりがしたいんですよね」と会議室で真面目に話した。AKB48とは何が違うのかを図示した資料まで作成し、「こういう組織って良いですよね」と真剣に伝えた。

それが伝わったのかどうかはさておき、私が目指したいと思った乃木坂46というチームは、大きく以下3つの要素で構成されている。

①どのメンバーもカワイイ/キレイ
②メンバー間の関係性が円満で雰囲気が良い
③ルールではなく文化でチームが動いている

この①②は、私が就職活動のときに話した良い組織の要件の①②に対応する。すなわち、①はどちらも個人のことを指し、②はその個人間の関係性に触れている。

それぞれについてもう少し掘り下げたい。

乃木坂46に学ぶチームづくり①どのメンバーもカワイイ/キレイ

敢えて別の言い方をすれば、高いパフォーマンスを発揮するためのスタンスやスキルが備わっているかどうかを指す。乃木坂46の場合だと、「AKB48の公式ライバル」を掲げ、当時勢いの凄まじかったAKB48に対抗するだけの覚悟と意志があるか、アイドルとして求められるルックスを備えているかが大事だと思う。バイエルン・ミュンヘン(プロスポーツチーム)に置き換えるなら、世界トップレベルのチームで戦うだけのスキルを備えているか、常に世界最高を目指して努力し続けられるスタンスを持っているかが大事だと思う。

元も子もないが、優れたルックスを持ったメンバーが集まったからこそ乃木坂46が成功したという側面は誰もが否定できないはずである。ただし、これは「優れたルックスを持つメンバー=優れたスキルを持つメンバーを集めさえすれば成功する」ことを意味しない。私が乃木坂46のようなチームづくりをしたいと言っているのは、②③の要素の方が強い。

乃木坂46に学ぶチームづくり②メンバー間の関係性が円満で雰囲気が良い

乃木坂46のメンバーたちは本当に仲が良い。画面越しにしか知らないから本当の内部事情までは分からないが、少なくともファンが知り得る範囲では仲の良さが垣間見える場面が多い。ギスギスしたグループを応援したいか、仲の良さが伝わってくるグループを応援したいかと問われれば、当然に後者が選ばれる。

ただし、大事なのは、単に仲が良いということではない。
・“仕事の中”で築かれた関係性である
・全てのメンバー同士が親密な関係にあるわけではない
という2点が大事だと考えている。

乃木坂46のメンバーは、“仕事仲間”として出会い、それぞれのことを互いに尊敬し合い、信頼し合っているように見える。“学校の友達”として出会い、一緒にいて楽しい・心地よいという関係性から出発したのではなく、乃木坂46というグループの一員として、「AKB48の公式ライバル」を目指すアイドルグループの一員として出会っている。

そういう意味では、当初は仲良くできないと思っていたメンバーもいるだろう。競争相手としてどうやって勝とうかと考えたメンバーもいるだろう。仲の良さなんて必要ないと思っていたメンバーもいるだろう。

でも、活動を続ける中で、お互いの良いところも悪いところも分かり、乃木坂46というグループでやりたいこと・成し遂げたいことがあることを知り、関係性が築かれたのだと思う。画面上では友達のようにわちゃわちゃと楽しむ姿を見ることもあるし、一緒にXXへ出かけたことをブログ等で知ることもある。そういう仲の良さも大事である一方、もっと深いところで繋がっているという関係性が今の乃木坂46の強さではないかと思う。「あのときのあれ辛かったよね」「あのときは本当にしんどかった」「あのときは辞めようかと思った」といったことがおそらく深いところで共有されていて、そういうことも知った上で関わり合えているという関係性の強さがある。

また、この仲の良さは全メンバー間にあるわけではない。30~40人規模のグループ(よく勘違いされるが、メンバーが46人いるわけではない)で全員と親密な関係性を築くのは無理があるし、正直合わないと思うメンバーもいるだろう。それでも、そのことがギスギスした感じにはならず、それぞれを尊敬し合っているように見えるし、それぞれの個性を尊重し合っているようにも感じる。

全く以て意味合いが違うかもしれないが、Netflix社の経営で大事にしている要素の一つに「疎結合であること(部分と部分が密接に絡み合っている密結合でないこと)」が挙げられている(『NO RULES(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX』(日本経済新聞出版)参照)。私の勝手な解釈では、密であり過ぎると意思決定にスピード感がなくなり、誰もが誰かにお伺いを立てたり、共有や報告をしたりしないと物事が進まなくなることになるのではないかと思っている。“疎”であることは、チームや個人の自立性を重んじ、それぞれが「自由と責任」を果たすために大事なことではないかと考えている。

乃木坂46のことに話を戻せば、密に仲の良い関係性を築いているメンバーもいれば、そこまで深い関係性ではないメンバーもいるという状態が、相互依存的になり過ぎず、心地よい関係性を維持しながら、それぞれのやりたいことがやれる環境なのではないかと思う。

乃木坂46に学ぶチームづくり③ルールではなく文化でチームが動いている

乃木坂46が成功した理由の一つに、グループの文化をメンバー自らが考えてつくり上げていったプロセスが大きく関係しているのではないかと思っている。

乃木坂46は、2011年8月に「AKB48の公式ライバル」として発足したが、外的な動機付けは常に機能するわけではなく、2015年頃に「乃木坂らしさ」を考える機会が多くあった。ライブ中にそれぞれが思う「乃木坂らしさ」を話したり、色々な場面で「乃木坂らしさ」という言葉に触れる機会が多かった。そのことについては以下の記事が分かりやすい。

多分、メンバー間で公式にも非公式にも話す機会が多くあったと思うし、運営会社から「こういうふうにしよう」と言われたこともあったのではないかと推察する。それらを受け止めながら、「こういうグループにしていきたい」と考え、つくり上げてきた文化が今に連綿と続いているように思う。

企業で言えば、ミッション・ビジョン・バリューを策定するプロセスに近しいのだと思うが、お題目になりがちなそれらよりもっと深い思索と行動が伴っていると思う。また、「乃木坂らしさ」は何か一つのことに収束していない。多義的であり、それぞれのメンバーがそれぞれに解釈している部分があると思っている(メンバーだけでなくファンの間でも多様な解釈がある)。それでも、おそらく大事にしたいと思っていることには共通性があり、そういう共通性と多義性をひっくるめて「乃木坂らしさ」が成り立っているのではないかと思う。

こうして築き上げてきて、次の世代に少しずつ形を変えながら継承されているからこそ、乃木坂46は「世代交代に成功した稀有なアイドル」と言われているのではないかと思う。ゆっくりと築き上げて、ゆっくりと浸透していったからこそ、すぐには衰退しづらい強い組織になっていると思う。

おわりに

これだけ書いてもまだ乃木坂46というグループについて書き切れていない。最近は櫻坂46についても掘り下げたい気持ちが強い。アイドルグループ、スポーツチーム等、様々な組織から学び、「良い組織とは何か?」という問いに対してこれからも緩やか向き合い続けていきたい。

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