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行政を「頑張る人が燃え尽きない組織」にするために

読者の皆さんの中には、「自分は組織で損をしている」と思ったことはないでしょうか。
「自分だけ周りより多く働いているのに評価は同じ」、「本来自分の仕事じゃないのに他の人がやらない分が回ってきた」等々、どの組織でも聞く話ですね。

このような組織では、職員がモチベーションを保つことは難しくなります。昨今は若手公務員の離職が問題となっていますが、辞職理由は人によって様々だとしても、こうした「やりがい」の観点から辞めることを選ぶ職員が増えていないでしょうか。

もっと皆がやりがいを感じて働ける環境を作るには、どのようなことが必要になるか考えてみたいと思います。

(このnoteにおける掲載内容は私個人の見解であり、会社の立場や意見を代表するものではありません。)


行政は、「頑張っただけ損をする」組織になっていないか

行政は、典型的なメンバーシップ型雇用の組織です。自分の所掌事務は決まっているようで決まっておらず、手が空いていそうな人にはどんどん仕事が振られます。

一方、多くの仕事をこなしたとしても、処遇は大きくは変わりません。
これでは、頑張っただけ損をし、モチベーションの低下につながるのではないかと危惧しています。


メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用

まず、簡単にメンバーシップ型雇用、ジョブ型雇用について説明します。

日本の多くの組織は前者だと思っていただいていいでしょう。
メンバーシップ型雇用においては、自分の担当する業務の範囲はなんとなく決まっているものの、明確に「これだけ」とは決めません。
このため、「ちょっとこの仕事もやってくれない?」といったプラスアルファの仕事を振られる可能性が常にあります。

一方、コロナ禍を機に在宅勤務も増え、個人の生産性や成果をベースに評価せざるを得なくなるなか、ジョブ型雇用に切り替える企業も増えてきています。
この場合、自分のやるべきことはジョブディスクリプションに明記されており、これ以外の業務をやることは通常ありません。
純粋にジョブディスクリプションに書かれている仕事で成果を出せているのかで評価されることになります。

メンバーシップ型雇用の場合、仕事ができる人ほど多くの仕事が降ってくる傾向にあると思います。
というのも、生産性が高い人ほど多くの仕事をこなせますが、一方でそれほど仕事がこなせない人も組織には必ずいます。
マネジメント層から見れば、組織全体で仕事を片付けることがミッションですので、手が空いていそうな人に仕事を頼まざるを得なくなります。

そもそもの、雇用形態の問題を考える必要があります。


行政の実態

企業の場合は、メンバーシップ型雇用であっても、より多くの仕事をさばいている人については、人事評価で適正に評価しているかもしれません。
しかし、行政の場合は、より多くの仕事をさばいたからといって、自分の(特に給与面の)評価には大してつながりません。目に見えることとしては、人事異動で処遇してもらうことくらいでしょうか。

人事評価の導入が導入されて10年以上経ちますが、大幅な給与格差がつくような運用はされていませんし、同期と比べて大幅に出世することもありません。

私は、長年公務員をやるなかで様々な優秀な職員と出会いましたが、彼ら/彼女らは、生産性が極めて高いために、逆に余裕があると勘違いされてさらに仕事を振られることも往々にして起きていました。しかし、この仕事は、本来別の人がやるべき仕事であることも多いのです。

私は、自治体の管理職として時間外業務の削減に取り組んだ際、結果として自分の職場は「楽なところ」認定され、職員定数を減らされた経験があります。

生産性をみんなで頑張って上げても、結局人を減らされるのであれば、ダラダラ仕事をしてそこそこの残業をする方が残業代ももらえるしハッピー、という逆のインセンティブが働いている状況ではないかと感じました。


職員が全力を出せない

損をしていると思いながらもモチベーションを保てる方ばかりではないので、「頑張っただけ損をする」組織において、職員は全力を発揮しにくいように思います。
本当はもっと仕事ができるのに、どこか線を引いてしまう方も多いでしょうし、仕事ができる人ほど、「次は楽な職場に異動したい」と言う傾向にあるように感じました。

本来は全部逆ですよね。

職員は存分にその能力を発揮してもらい、評価は給与面やポストによってしっかり評価する必要があります。優秀な人が頑張りたくなくなる組織では、組織全体でいい仕事ができないのではないでしょうか。
省庁や自治体は国の要です。時代や社会情勢にあったミッションをどんどんこなしていくためには、組織の閉塞感を打破することが急務です。


行政を「頑張った人が評価される」組織にするために

結局のところ、行政においては、悪平等を廃し、頑張っている人が正当に評価される環境を作る以外に改善の方法はないと思います。

まず思いつくのは、人事評価を厳格に運用し、その人の頑張りと処遇をリンクさせることですが、公務員の世界において人事評価の厳格な扱いは限界があるように思います。

一方、これからの時代、行政の外に出てその能力を活かし、いずれはまた公務員として戻るような循環があってもいいのではないかと思っています。


人事評価を厳格に運用する

人事評価は、公務員の世界では厳格な運用ができていないのが現状です。

例えば、国会公務員においては、職員の働きぶりに応じてS~Dの評価をつけることになっています。しかし、「蓋を開けたらほとんどB評価(=普通)以上だった」ようです。

出典:内閣人事局(https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/jinji_d.html)

行政の管理職は、「人を評価する」ことの経験値が浅いように思います。「誰がどのくらい頑張ったか」とか、「どういうスキルを伸ばしているか」に着目して、しっかりマネジメントしないといけないと言われ始めたのは極最近の話なので、職員に差をつけることを嫌い、上記のような結果になっていると思われます。

また、組織内にも「大変な課」と「そうでもない課」があると思いますが、大変な課でB評価だった人と、そうでもない課でB評価だった人では処遇は変わりません。

もちろん、SからDの評価がつく人数の割合を決め、忙しい課に多めに上位の評価を割り振りする方法もありますし、人事評価の結果としての基本給やボーナスアップの割合を増やす必要もあるでしょう。

いずれにせよ、人よりも頑張った人を評価できるように変える必要があります。


出入りを増やす

一方、私は、行政の人事評価の厳格運用には一定の限界があると思っていますので、現状に満足せず辞めてしまう人は今後増えると考えています。

今後官民の人材の流動性は高まりますので、ある程度専門性を持って行政と企業の間を出入りする層が厚くなることが想定されます。

公務員であっても、もっと自分の実力で勝負したい人は外に出てもいいでしょう。デジタル庁では民間人材の積極採用が進み、それなりの待遇でのポストの創設も進んできていますので、将来的に公務員に戻るという選択肢もあります。

企業においては、ジョブ型雇用への移行が進み、終身雇用もなくなりつつあるなか、益々個人の実力がモノを言う世界になっていくでしょう。
自分の頑張りが正当に評価されないことに不満がある場合には、外に出ることも一案だと思います。
その上で、いつかは再度公務員の世界で実力を発揮する機会があれば、組織にとっても本人にとってもプラスの話になるのではないでしょうか。


まとめ

コロナ禍を機に、急にジョブ型雇用の話を聞くようになりましたが、海外ではジョブ型雇用が普通の国はたくさんありますので、日本特有の雇用慣行を見直す時期に来ているだけなのかなと思います。

メンバーシップ型雇用については、他人の仕事であってもできる人が助けて、なんとか組織で結果を出していくという、家族的な会社では親和性があったのだと思います。
一時的に病気になってしまうなど、100%で働けなくなる方もいらっしゃるでしょう。これは誰にでも起こりうることなので、お互い支え合いことは必要です。
ただし、誰かをヘルプしていることが正しく評価されることは大事ではないでしょうか。

ジョブ型雇用に移行したときに「私の仕事はここまでなので」とドライに割り切る人が増えるかもしれませんが、
1か0かではなく、両者のバランスをとって時代にあった雇用形態を考える必要があります。

この記事で書いたことは原因の一部でしかないと思いますが、「頑張る人が燃え尽きない組織」になれば、もっと皆が幸せに、やりがいを持って働けるようになると信じています。

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