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Sur les doigts de la main 歌詞和訳

今日は、Joyce Jonathan の貴重な(?)コラボ曲を紹介したいと思います。

Madame Monsieur(マダム・ムッシュー)というアーティストとのコラボです。歌詞を読んでもらえればわかるのですが、サムネイルのシュールな雰囲気とは裏腹に、めっっちゃくちゃにかわいい曲です。かわいくて、けなげで、強くて、繊細で……。歌詞の雰囲気だけじゃなくて、言葉の仕掛けもあったりして、5本の指に入るくらい好きな曲です。5本の指に。


歌詞&和訳

J'sais pas si ma vie sera longue
長生きできるか分からない
Je sais pas quand j'aurai des enfants
子どもを持つかも分からない
Si on jouera sur les ondes
ラジオに出ているか
Si je serai toujours dans tes plans
ずっとあなたの思い通りでいるか
Le temps passe
時は流れ
Les années laissées, les premières fois
置き去りにされた年月と、いろんな「初めて」
Tout a glissé, j'y ai même pas pensé
何もかも滑り過ぎちゃった、そんなこと考えたこともなかった
Ça fait cinq, quatre, trois, deux, un
5、4、3、2、1
Ce qu'il nous faut, c'est trois fois rien
私たちに必要なのは、ほんのささいなこと
Entre le début et la fin
始まりと終わりの間に
Y a des milliers de matins
幾千の朝と
Quelques amours, dix mille humains
いくつかの恋と、いくつもの出会いと
Trop de temps dans la salle de bain
いくらか長すぎるお風呂タイムが
Entre le début et la fin
始まりと終わりの間に
Mais tout ce qu'on en retient
でも私たちの記憶の中には、ほら
Tient sur les doigts de la main
手をつないで
Tient sur les doigts de la main
手をつないで
J'sais pas si j'resterai blonde
ブロンドでいられるか分からない
Je sais pas si je serai la même
いまと同じでいられるか分からない
Déménager de monde
ここから引っ越して
Et trouver le moyen de rester zen 
のんびりした暮らしを見つけているかも
Le temps passe 
時は流れ
Les assiettes cassées, les cœurs brisés
割れたお皿も、砕け散った心も
Tout a glissé mais j'ai rien manqué
何もかも滑り過ぎちゃったけど、さみしくはないわ
Ça fait cinq, quatre, trois, deux, un
5、4、3、2、1
Ce qu'il nous faut, c'est trois fois rien
私たちに必要なのは、ほんのささいなこと
Entre le début et la fin
始まりと終わりの間に
Y a des milliers de refrains 
幾千のルフランと
Quelques amours, dix mille humains
いくつかの恋と、いくつもの出会いと
Trop de temps dans la salle de bain
いくらか長すぎるお風呂タイムが
Entre le début et la fin
始まりと終わりの間に
Mais tout ce qu'on en retient
でも私たちの記憶の中には、ほら
Tient sur les doigts de la main
手をつないで
Entre le début et la fin
始まりと終わりの間に
Y a des milliers de matins
幾千の朝と
Quelques amours, dix mille humains
いくつかの恋と、いくつもの出会いと
Trop de temps dans la salle de bain
いくらか長すぎるお風呂タイムが
Entre le début et la fin
始まりと終わりの間に
Mais tout ce qu'on en retient
でも私たちの記憶の中には、ほら
Tient sur les doigts de la main
手をつないで
Tient sur les doigts de la main 
手をつないで
Tient sur les doigts de la main
手をつないで


補注&感想

« Je sais pas 〜 » という一節で始まるこの曲。人生の見通せなさ、予測不可能性みたいなものが連打されます。 また、« 〜 quand j’aurai des enfants » という部分から、主人公は女性なのだということがわかります。「ラジオに出てい」たり、「ずっとあなたの思い通りでいるか」分からないと言ってみたり、自立した女性のイメージが浮かびますが、これはもう一つのコラボ曲 « Mon héroïne » にも共通するところです。

« les première fois » というのが面白い表現。「初めて」はふつう1回しかないけれど、ここでは、いろんな種類の経験それぞれについての「初めて」が念頭に置かれているのかな。初めて自転車に乗れたとき。初めてテストで100点を取ったとき。初めて誰かを好きになったとき。すべての「初めて」を覚えているわけじゃなくって、忘れてしまったこと、「滑り過ぎちゃった」こともありますよね。そしてそれらは、何の合図もなく記憶から風化していって、ふと何かのきっかけで気づくまで、「考えたこともな」い。

「5、4、3、2、1」と数をかぞえることも、かぞえることで何かをたしかめているような、そんな風に聴こえてきます。また、カウントダウンのときに指を折りながらかぞえることがよくあると思いますが、ここで自然と手元にフォーカスされるのも、好きなところです。(ちなみに « trois fois rien » はイディオムで、英語でいうと "next to nothing" のような、「ほとんどない」という意味です。)

« Entre le début et la fin » で区切られる時間。それは、1人の人間に与えられた時間です。  « des milliers de matins » を過ごし、 « dix mille humains » と出会い。急に桁数が変わってかぞえきれなくなった数字は、文字通り手元を離れていきます。長いようで短い人生。けれど、そんなつかみどころのない生きるということを、もう一度引き寄せるように、思い出すのです。「手をつない」だことを。そして、あなたに語りかける。「手をつないで」と。

2番の「割れたお皿と、砕け散った心」。1番の「いろんな『初めて』」のセンチメンタルな感じとは対照的です。「初めて」は良くも悪くも美しく心に残るけれど、当然そんな綺麗な思い出ばかりではなくて。ふいに手を滑らせて割ってしまった「お皿」や、ささいなきっかけで「砕け散った」恋もあるはずです。そんな記憶ですら、「滑り過ぎ」てしまったいまとなっては、「さみしくはない」。どうしてそう思えるのか。その答えは、「ほんのささいなこと」なのです。

「始まりと終わりの間に」あるのは、  « des milliers de refrains »。「朝」が「ルフラン」になっているのがなんとも可愛いところ。ルフランというのは、日本語でいう歌のサビに当たるもの。人生の中で何度も何度も繰り返される「朝」のように、歌の中で何度も何度も繰り返される「ルフラン」。そして、どの「朝」も一つとして同じではないように、この歌の「ルフラン」も1番と2番で少し変化しています。もしかしたら「朝」にこの「ルフラン」を口ずさんでいるのが、「長すぎるお風呂タイム」なのかもしれません。

そして最後にまた「手をつないで」。この « tiens » は文構造上も、直前の « retiens » と並列であるともとれるし、あるいは文が切れていて命令文になっているのだともとれるし、意味が重なっているようにも読めます。「手をつない」だという事実を語っているようにも見えるし、「手をつないで」と呼びかけているようにも聴こえる。過去へのまなざしと未来への視線が混ざり合う、絶妙な言葉のあやだと思います。


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