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ツムギ、受験したいってよ。

小6の娘は、ウチのマンションの目の前を走る幹線道路に架かる歩道橋を渡った斜向かいの学校に通っています。

私と住むようになった2年余り前から。


もう、このマンションに住んでから20年以上が経つのだけれど、公立の小中高が並ぶこの立地を、ずっと独身だった私は長い間活かせずにいました。

もっと言うなら。


20年ちょっと前まで住んでいた実家は、今と同じ沿線を30分ほど西に下った郊外にありました。

私は高校も短大も、その家からおよそ1時間かけて通ったのですけれど、高校は北へ7分、短大も南へ25分、今のマンションからはどちらも自転車で通える距離で、あの頃ここに住んでいたら(このマンションはまだありませんでしたけれど)どんなにか楽だっただろうと思わざるを得ないのでした。


私は母校が大好きで、娘ができたときには、せっかくならこの学校に通ってくれたらいいのにと、すぐに頭を掠めましたが、いつからか中高一貫校になってしまった学校を、いきなり、受験してみる?と、小4になったばかりの娘には聞けませんでした。

何より、父には負担をかけたと申し訳なさを感じているほどの学費を、今から準備して出してあげようと言う覚悟をすぐには持てなかったのです。


自主学習もしない、宿題もしない、生活態度もだらしない娘を知れば知るほど、この子には向かいの公立中学で充分でしょうと、疑いもせずに思うようになっていました。


仲良くしている同級生の子が、私の母校を第一志望にしていると娘から聞いたのはいつだったでしょうか。

それでも娘は、まったくの他人事として話してくれていましたので、本人も公立中学に通うことを信じて疑っていなかったのでしょう。


年齢的にそんな時期になったのか、昨年から、しばらくご無沙汰していた高校の同級生としばしば会って話をするようになっていました。

私にとっては、一番会いたかったクラスメイトたち。

会うごとに、ひとりふたりと増え、35年ぶりの交流を楽しんでいるのですが、そんなこともあってか、母校に思いを馳せる機会が増えていました。


ツムギ、この学校で6年間学べたらいいのに。

そう考えるようになったのは、娘の発達障害の特性を憂うようになったからかも知れません。


比較的都心に近い女子校でありながら、生徒は素朴な雰囲気の子が多く、私が過ごしたクラスは、お互いの個性を尊重し合える友達ばかりでした。

今思えば、ツムギによく似た、ちょっとコミュニケーションが苦手なタイプの子も何人かいたけれど、誰かがいじめのターゲットになるようなこともなく、楽しい学生生活を送っていました。

(決して、彼女たちが発達障害だったのでは?と言うつもりではなく、いろんな個性を持った子たちの中には、ツムギに似たような雰囲気の子がいたという意味です。

そして、今これを書きながら、果たして本当にそうだったのだろうか?明るく振る舞わせていたり、本音を言えないでいるかも知れないという可能性を、当時の未熟だった私は見落としていたのではないか?とも思いましたけれど)


そんなような、いろいろなことを考えて学校のホームページを何気なく眺めていたら、夏休みに受験生を対象にしたサマースクールがあることを知りました。

母校に入れる!

メインの校舎も数年前に建て替えられてしまっていましたし、そもそも2年間しか通っていない学舎の様子は記憶も朧げだったので、果たして懐かしいと感じるかどうかは疑問でしたが、とにかく、校内に入ってみたかった私は、ツムギに受験生のフリをしてね!と頼み込み、半日のサマースクールに参加することを決めたのです。


わぁ!

予想通り、母校に帰ってきたという実感はあまり持てませんでしたが、反して、綺麗な校舎や充実した設備、興味深い授業内容、そして、学校案内を担ってくれた生徒会の子たちの誠実さ、いい学校に通わせてもらっていたんだなぁと、改めて感じる機会になったのでした。

「行きたくなっちゃったじゃんかー」

帰宅後、娘が夫にこう言ったそうです。

そりゃあそうでしょう。
私ももう一度通いたいと思ったくらいですから。


夫には、ツムギに話したのと同じように、娘をダシに母校に潜入するんだ!としか言っていなかったので、娘がそんなことを言い出しても、「中学から私立に通わせるお金なんてないよ!」と言って退けるのかと思っていました。

思いの外、真剣に、今から準備できるのだろうか?という話にも向き合ってきたので、彼は彼なりに、娘の将来について心配していたんだと、少し安心しました。


最初は娘自身も、「行きたいっちゃ行きたいけど、勉強がんばれる気もしないし」と、揺れ動いているようでしたが、本気で目指すなら応援するけれど、生半可な気持ちでは絶対に受からないと繰り返し諭す内に、がんばってみたいという気持ちが湧いてきたようでした。

すぐに受験対策塾へ問い合わせの電話を入れ、説明を聞きに行きました。

無謀な挑戦ではあるけれど、無駄な経験にはならないのではないかと、私たちも覚悟ができてきました。

「よく考えて自分で決めなさい」

小6の娘に、そんな決断ができないことは百も承知ですが、それでも、何度もこのことを確認しないと、進めない挑戦だと思いました。


サマースクールからたったの3日しか経っていないのですけれど、娘の目が変わったように見えました。

考えることが嫌いな娘が、自分なりに一生懸命考え、葛藤しながら答えを出そうとしているのだと思います。


まずは、一歩を踏み出してみようと思います。

1%でも可能性があるなら。

自分の進む道を考え、そこに向かって努力してみる!と娘が言うなら、私たちはもう、応援するしかないと思うのです。

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