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【はいよろこんで】Hitの理由分析レポート〜TikTok今週の1曲 [No.2 - 24.08-2]

こんにちは!山本慶太朗と申します。
普段アニメとかの音楽を作曲したり、アーティストさんのSNS運用代行などをする会社を経営してます。

毎週1曲、その時SNSで流行っている曲をSNS面、マーケティング面、音楽面の全てから徹底的に分析する"スーパー楽曲分析シリーズ"

第2回は「ギリギリダンス」で大人気の【はいよろこんで / こっちのけんと】
を解説します!

同曲の素晴らしいポイントは、こっちのけんとさんが2022年デビューの新人アーティストでリリース前はYouTubeの登録者も10万人以下。
更にノンタイアップであるのにも関わらずSNS総再生回数は60億回を超えており、地上波のテレビでも取り上げられる人気ぶりなところです。

筆者としては特にリリースから3ヶ月程度でYouTubeのMVの再生数が
6,000万回を超えている点は現在の日本の音楽シーンを牽引するアーティストーー例えばyoasobiさんなどーーと並ぶレベル
であり、
このクラスのバズをマイクロインフルエンサーレベルのCHから出た!という点だけで是非分析して秘訣を学ばせて頂きたいと思いました。


しかしこの曲を紐解けば紐解くほど、偶然のヒットではなく必然のヒットとも言える、現代SNSでウケる理由がふんだんに詰まった作品でした。
「はいよろこんで」の前に「死ぬな!」でもバズを起こしている彼はかなり再現性高くHitを残すための戦略家でもあるのではないか、と推察しております。

本楽曲のヒットの理由のほとんどをこのnoteでは言語化していきますので、
現代楽曲のバズの流れに置き去りにされたくない方は、ぜひ最後までご覧になってください!

※このシリーズは、
「プロ向けに日本トップレベルのSNS分析を無料で届ける」
をコンセプトとして執筆しています。

一般の方向けではございませんので音楽面・マーケティング面両方から
専門的な話をバンバン遠慮なくしていきます。
あらかじめご了承ください。


「はいよろこんで」が伸びた理由

前回の「シカ色デイズ」の分析noteでも解説しましたが、
所謂「TikTokでバズった曲」には大きく3つのパターンがあり、
このどれに当てはまるのかを分析するのが大事になります。

その3つとは、

①TikTok内で公式動画が多く再生された曲(例:Overdose/なとり 香水/瑛人 など)
②TikTok内で使用数が多かった曲(例:シカ色デイズ/シカ部 など)
③TikTok外でHitしていたものがTikTokに持ち込まれ更にブレイクした曲(例:美少女無罪♡パイレーツ/宝鐘マリン ヴァンパイア/DECO*27 など)

ですが本楽曲がどれに該当するのか一緒に整理して考えてみましょう。


まず本楽曲のMVリリースは【2024/5/27】で、
TikTokに公式でMVの切り抜きが上がったのが【2024/5/28】
本人投稿の実写ダンス動画のTikTok投稿日は【2024/5/30】です。

そして執筆時現在のTikTok内UGC数(User Generated Contentの略)は18万を超えます。

※本レポートでは公式音源のTikTok内動画使用数のことをUGC数と表記します
※ここでいうUGCはTikTok内でその音楽を使った他のクリエイターが作った動画のことを指します。

また後ほど詳しく解説しますが、YouTubeMVの再生数の流れをYouTube分析ツール【VidIQ】で確認したところ、

執筆現在までの再生数の伸び方がこのような流れとなっており、後ほど詳しくお話ししますがTikTokでUGCが増えるのに対してYouTubeが追随するように伸びたことが伺えます。

これらの情報を整理すると、

TikTokUGCで火がついた
↓↓
YouTubeMVに人が流れた
↓↓
IGやX等他SNSにも人が流れた
↓↓
あらゆるSNSで再生数が伸び、テレビ等のマスメディアの目に入るようにもなった

という経路でHitした楽曲と言えます。

つまりTikTokHitのパターンで言うと、
②TikTok内で使用数が多かった曲
ということになります。

というわけで改めて「この楽曲がバズった理由」
を以下の流れでお伝えしていきます。

1、バズの拡大経路 
2、楽曲の音楽的特徴
3、楽曲構成の整理
4、時代背景における本楽曲の立ち位置
5、バズった結果得られたものまとめ
6、再現性のある要素


1、バズの拡大経路

まずはTikTok内での0→1がどのような流れで作られたかを分析します。

UGCが増えた理由を知るためには、どのような順序でバズが拡大していったのかを知っておく必要があります。

今回はその拡大経路の順を【イノベータ理論】を用いて、以下3つに区分して説明します。イノベーター理論とはサービス等の市場での普及率を示すマーケティング理論の一つです。
詳しくはこちらのサイトの解説が分かりやすかったので拝見ください。

(1)イノベーター

本楽曲のイノベーターはこっちのけんとさんの所属事務所「blowout label」さんの公式TikTokでアップされている公式MVの切り抜きです。
所属事務所のリリース告知動画は、執筆時現在驚異の910万回再生。

@blowout_label

「死ぬな!」で大バズりしたこっちのけんとが描く「死ぬな!」のその先✋#こっちのけんと #双極性障害 #はいよろこんで #INFP

♬ はいよろこんで - こっちのけんと

また公式動画の他にも、英語圏で転載のリアクション動画が【5/31】に投稿され執筆時現在760万回再生されています。

これらのことからリリース直後からMVと音楽自体がショート動画市場では国内外問わず人気があった作品と言えます。

こちらの動画がヒットした理由に関して主に以下の2つが考えられます。

①TikTok視聴者が求める動画要素を満たしていた

楽曲内容についての話なので後ほどの章で詳しく解説しますが、端的に言えば「相反する要素の融合により複雑な現代を生きる我々に刺さった」のです。

②繰り返されるフレーズが同一視聴者の複数視聴数を上げた

前回分析した「シカ色デイズ」もそうですが、
2024年のTikTok市場では「脳死で見れて動きが面白いもの」がHitしやすい傾向にあります。

これは2023年のショート動画市場で全体的に動画のクオリティが上がった反動や長尺のYouTubeなどとの棲み分けがより進んだことなどの様々な要因が絡んでいるのですが、
2024年のショート動画市場全体が【感情でぼーっと見れるもの】を求めている傾向にあるからとなります。

この時代性にハマる映像が勝機だったのです。


【補足】イノベーターに本人投稿が最強である理由

またイノベーターの補足的要因として【ご本人によるダンス】があったことも無視できません。
1週間後、再度ご本人のダンス動画が投稿されこちらも大ヒット。これがイノベーターとしての地位を確固たるものとしました。

またこっちのけんとさんはイノベーター以降も多数のほかインフルエンサーの動画に出演しておりコラボに積極的です。

バズった後のコラボは、コラボ先の動画は伸び、こっちのけんとさんは自分のアカウントではリーチできない層の新規ファン開拓にも結びつき、さらなる二次創作の流れを生むWIN-WINな施策です。
今回もこれがとてもとても素晴らしく機能していたと思います。

@ssshinako

奇跡のコラボ、、?!? ありがとうございました😭🩵🩷🩵🩷🩷🩷 #はいよろこんで #しなこワールド #原宿mind @こっちのけんと🧑🏻‍🎤

♬ はいよろこんで - こっちのけんと

私は様々な楽曲のTikTokPRを担当してきましたが、TikTokでUGCを拡大させたい時、イノベーターとして本人アカウントでゴリ押しができるのはなんだかんだ一番強いです。
Hit曲の多くはイノベーターが自分達であるも本人垢の強さが要因です。

本人垢を使わないイノベーターを強引に作る方法として、

  • 強いインフルエンサーに案件委託する

  • Spark Ads(TikTok広告)で回す

などのパターンもあるのですが、正直ハマる曲は少ないです。

まず案件委託に関してはリスクに対して費用が合わない案件が多いです。
TikTokerに案件動画を委託しイノベーターとして正しく機能させたい場合は小さくても数十万、一般的に再現性の高い施策を打つには300~800万程度の予算は必要になります。
その割にUGCの再生数が出るかどうかは委託するクリエイターのやる気次第になってしまうことが多く最低限の再生数も大抵の場合保証されません。
音楽プロモーションの予算が縮小傾向にある昨今、この金額を確保できてかつここにベットできる曲は少ないように感じます。

中でも予算を抑えつつ効果的なやり方として、そのTikTok界隈のボス的な人案件を委託したり、イノベーターとして絶大な影響力を持つ振り付け系TikTokerへ案件を委託する所謂【トップインフルエンサー一本釣り】の施策はハマることも多いです。
ただし一発勝負となるリスクと、人選を間違えるミスもあります(オーガニック投稿である以上トップインフルエンサーといえどポシャる時はポシャりますので)

無料で何十万、何百万再生と出すことができて、いろんなパターンの動画をトライできる本人垢の育成はイノベーターを生み出す際に効いてきます。


またSpark Adsに関しては、そもそもオーガニックで動画が回らない=音源にも問題があることが多く、広告で強引にインプレッションを取っても結局アーリーアダプターに繋がらないというケースをよく見ます。

私はSpark Adsをきっかけ作りとして最初から使うのは基本しない派です。
使う時はHitの兆しが見えてからのブースト用ですね。
(Spark AdsではなくYouTube広告ですが、同じような使い方を確かyoasobiさんの「夜に駆ける」でやってHitしたんですよね)


(2)アーリーアダプター

その後、アーリーアダプターとして二次創作系の推し動画に広がります。

『推し動画』とは、自分の好きな人、文化、作品などをアピールするための動画であり、一般人が趣味的に投稿するものから、インフルエンサーが自分の内面や技術を訴求するために投稿したりもします。
動画の形式は様々ありますが、二次創作の定番として老若男女問わず広い界隈で定着しています。

↓わかりやすい推し動画の参考例↓

まず推し動画文化にUGCが広まった理由として考えられるのは2つ。

・レトロな作風が創作意欲を掻き立てた
→レトロ感が推しや好きを訴求するためのファッション的に面白いと考えられた

・動きが可愛かった

それではいくつかの推し動画とそのヒット理由を一緒に見ていきましょう。


①「リミックス系」推し動画

フォンクとして様々なリミックスがされている。
一例が↓こちら↓
ノリの良いEDM調で、さらにアップテンポに編集され、400万回の再生数を誇っている。

これは元の曲調とあまりにも違いすぎるギャップが伸びている理由です。

②ゲーム「どうぶつの森」の推し動画

MVに登場する、昭和アニメを感じさせるキャラクターに対し、どうぶつの森のアバターがギリギリダンスを披露する動画。
昭和アニメの演出をした本家MVに対し、若者に馴染みのある現代的なアバターが相反しており、その新旧の融合が興味深い動画になっています。

③アニメ「妖怪ウォッチ」の推し動画

2014年〜2015年頃大流行したアニメ妖怪ウォッチのオープニング曲「ゲラゲラポー」に対し、本家楽曲のサビ部分「ギリギリダンス」の発音が酷似していることが面白く、妖怪ウォッチキャラクター達がギリギリダンスを踊る動画が注目を集めました。

小技ですが、TikTokのユーザーは音楽を聴いた感想として「〜〜〜〜ににている」という感想をあげることが多く、これらに迎合した動画はどんな場合でも伸びやすい傾向があります。


【重要な補足】何故ダンス動画のUGCが増えなかったのか?

ここで考えなければならないのは「イノベーター」にダンス動画があったのにアーリーアダプターで極端に減ったことです。

ダンス動画は全くなかったわけではなく、たとえばMINAMIさんのこれや、

ネタ系の変化球ですがこれなど、

@ginjiro_koyama

ギリギリダンス間に合った男#市ケ尾高校ダンス部 #はいよろこんで #こっちのけんと #ダンスク 背中男@ichigao_dance @ダンスク!【公式】 @こっちのけんと🧑🏻‍🎤 天才的なアイディアはダンス部のみんな🤝✨

♬ はいよろこんで - こっちのけんと

幾つか発生しましたが、推し動画ほど拡大はしませんでした。

イノベーター理論に結びつけて考える最大のメリットは、フェーズが変わった時になくなったタイプの動画の理由を考察できることです。
これがまさにそれに該当します。
私個人的にはこの理由を【フィルターとしての有用性の低さ】と分析しています。


TikTokUGC PRを仕掛ける方へ向けて、非常に重要な話をします。

TikTokUGC拡大を目指す時、
ステレオタイプにダンスに当てはめようとすると絶対に成功しません。

センターピンは、
インフルエンサーの使いたい欲から逆算した音楽を作ることです。


たとえば前回のレポート「シカ色デイズ」では、
韓流トップアイドルたちがダンスを作った理由を、

本楽曲はそれら2つーーーーつまり、他の曲ではアピールできない著名人たちの魅力を引き出す力と、著名人が採用する理由として十分なイノベーターたちとそれらによって熱狂するファンたちの期待という文脈の準備ができている曲でした。

「シカ色デイズレポート 1-(3)-①」より引用

このように表現しています。
要するに「自分可愛いでしょ?」っていうことができるツールとしてInstagramのフィルター的な機能を果たしていたのです。

「ギリギリダンス」のそれは弱かったといえます。
正確に言うと、おそらく2022年ならこのかっこよさとお手軽さがヒットしていました。2024年はこういうかっこいいダンスをかっこよく踊るのは大きくは流行らないんです。
ルーズソックスが最近は流行らない、みたいなのと一緒です。


しかしこれらは本人投稿のダンスが伸びた理由とはまた違います。
ここがややこしいポイントなのですが、本人のダンス動画が伸びる理由と、ダンスを使ってもらえるかどうかは全く異なる議題です。

本人のダンスは色や表情や動きが面白く、動画として面白いので伸びています。また「本家」という期待感もあります。
これはフィルターとしての有用性の話とは全く関係ないのです。

これが本家ダンス動画が伸びたのにダンスUGCが増えなかった理由です。

PRを仕掛ける時はTikTok=ダンスみたいな表面上の話ではなく、
もっと楽曲の持つ魅力と結びついた本質的な仕掛けを設計しなくちゃいけないのです。


(3)アーリーマジョリティー

ここまで広がった後は、TikTokerやYouTuberにも楽曲が浸透していき「歌ってみた」「踊ってみた」などの幅広いジャンルでのUGCに繋がっていきます。

歌がテクニカルで面白いので(爆発的に広がることはないでしょうが)今後もある程度は歌い手界隈へ浸透することが想像されます。

これら幅広いUGCが作られることになった理由に、
主に2つあると分析しています。

①切り出し箇所の楽曲構成が素晴らしかった

後ほど構成分析の箇所で詳しく解説しますが、本楽曲の切り出し箇所はモールス信号からダンスへ移行するという流れが時代にはまった視聴者を飽きさせない工夫として機能していました。
なのでこれに則ればどんな動画でも伸びやすかった背景があります。

@taicoco_ch

見た目と歌声のギャップがエグい妻の はいよろこんで/こっちのけんと【ver.ココル原人】 #はいよろこんで #こっちのけんと #歌ってみた #踊ってみた #cover #ココル原人 #タイココちゃんねる #歌うま 歌唱力@こっちのけんと🧑🏻‍🎤

♬ オリジナル楽曲 - タイココちゃんねる - タイココちゃんねる

②ギャップを演出できた

楽曲の認知が浸透した後は、逆にシュールさが普段とのギャップを作る、というフィルター機能が有効になり始めた側面もあります。

@kotaroide

新曲が好きすぎて踊ってみた、速すぎてNG出しまくった📺🏮#はいよろこんで #こっちのけんと #ギリギリダンス #animedance #アニメダンス #KOTAROIDE @こっちのけんと🧑🏻‍🎤

♬ はいよろこんで - こっちのけんと


このように、

  • 音楽自体の魅力

  • 映像の魅力

が伝わる形のUGCが浸透した為、YouTube上の歌ってみたなどまで拡散され、それが本家YouTube歌ってみたへ返る形で本家のMVが伸びたのだと推察しています。
これはSpotify等サブスクに返り易い曲の特徴ともいえます。


2、楽曲の音楽的特徴

ここまで楽曲がバズった理由に対する外的要因を解説してきましたが、やはりそれだけではバズは生まれません。
TikTokでUGCがバズるということは、楽曲そのものが何度も聞きたくなる魅力的な音楽要素を持っているとういうのが非常に重要です。

この項では、楽曲自体の魅力、バズが生まれた内的要因を解説します。
そしてそれを構成する具体的な要素は3つ

(1)声質とUGCの相性が完璧
(2)コード進行と編曲、メロディの不安定さ

それぞれを解説します。


(1)声質とUGCの相性が完璧

本楽曲ヒットの『0→1』はやはり【TikTokでUGCが伸びたこと】なのですが、こっちのけんとさんの声色とUGCーーーーもっというとインフルエンサーにとってのフィルターとしての有用性の相性が良すぎた事はまず触れたい項目です。

こっちのけんとさんの声色は柔らかく、midの暖かさが心地よい優しい声をしています。
この声をコンプをかけてアタック感を出しつつテンポもそこそこ速いこの曲に載せているのが、TikTokのBGMとして完璧だったと推察しています。

TikTokのUGCとして使われる楽曲で減点要素となり易いのが、動画に載った時"誰かが嫌だと思うような特徴的な声をしている"場合です。
本楽曲のように18万もUGCが回っていれば、TikTok内でも数億〜数十億再生されている計算になり、つまり2024年7月にTikTokを30分以上起動した人で曲を聞いたことがない人はいないレベルで幅広い層に拡散されていた計算になります。
こうなると「誰かは好きだけど、それ以外の人は好きではない声」が不利になり易いことは想像に容易いと思います。

それはもちろんこっちのけんとさんもそれは同様で彼の声が嫌いな人はいるとは思うのですが、優しく聞き心地の良い声は主役となる映像の背景音楽に徹した時に嫌さ加減が少ない傾向がある声であるからして、このような人を減らすことに成功していたと推察しています。

これがUGCの再生数全体を減らすことに貢献していたと考えています。
声質が元々Tikと相性良いのもそうですが、音楽制作面でもその良さを殺していなかった点はとても評価ができます。


(2)コード進行と編曲、メロディの不安定さ

本楽曲のサビのコード進行はいわゆる「丸サ進行」と呼ばれる、アンニュイで都会的な印象のコードです。

その上に「もっと鳴らせ!」などのカラッとしたフレーズも載っているのが特徴で、これらが組み合わさりキャッチーさとアンニュイさが同居する良い意味での"心地悪さ"を感じるのが面白い作品に仕上がっています。

また編曲面を見てみると、ギターの代わりにコード物としてピアノとプラック系のシンセが左右で入っているがこれらはスピード感がある一方、ベースがアナログ系の柔らかい音色のものでまとまっています。

このように楽曲を構成する要素に良い意味でばらつきがあり、
これらが組み合わさった結果【元気があるのかないのか分からない不安定さ】が一聴するだけでわかるようなサウンドになっています。

SNSで伸び易い音楽とは【感情が即湧く音楽】であり、これがいいねや視聴維持率などの良いシグナルを掴むためにプラスに作用しています。
まさに"ギリギリ"ダンスを表現するサウンドとしては最高に思えます。

また音楽面の話ではないがそれらはMVにも出ており、
どこか懐かしさと不安感を感じる昭和の作風に、笑顔でダンスをするというギャップが掛け算されています。これらの一貫性には脱帽です。

 

3、楽曲構成の整理

本楽曲は切り出し箇所の楽曲構成も非常に計算されております。

よく使われた箇所の構成は以下の3セクションに分類できます。

(1)もう一歩を踏み出して〜 
(2)サビ直前の「・・・ーーー・・・」
(3)「ギリギリダンス」の間に入る合いの手
【+@】イントロの逆再生に隠されたメッセージ

それぞれの箇所でやっていることを順番に解説します!


(1)もう一歩を踏み出して〜 

TikTokで最も使用された使い方はサビ直前の

「もう一歩を踏み出して 嫌なこと思い出して
 鳴らせ君の3〜6マス」

というフレーズ以降の切り出しです。

弊社では以前、TikTokでUGCが3万以上伸びた曲100曲を分析し、
冒頭2秒間でどんなことをしているのかパターンごとに分類したことがあるので切り出し箇所のパターン分類化をしているのですが、

本楽曲は『Riserセクション+ブレイク』という組み合わせに分類でき、これは6つある王道パターンの1つです。Riser要素は鳴らせ君の〜のフレーズでピアノが迫り上がっていく部分で感じますね。

同じパターンの曲はこんな感じ。

@oshinoko_anime_official

TVアニメ【#推しの子#サインはB 振り付け動画を公開!✨是非踊ってみてくださいね🐰

♬ サインはB アイSolo Ver - TVアニメ【推しの子】公式

また尺感も王道で、
もう一歩を踏み出して〜の場合『約6秒』
鳴らせ君の〜の場合『約3秒』

となっています。

挑戦的な要素も入れつつ、切り出し箇所のイントロの選択では王道を貫いています。これらのバランス感が優れていたのも本作Hitの理由と言えます。

切り出し箇所が王道だと昔ながらのTikTokっぽくて親近感が湧きますね。


(2)サビ直前の「・・・ーーー・・・」

この部分は解釈のしようが沢山あるブレイクの歌詞で、作り手の創作意欲を刺激されます。

例えばこの動画では写真をコマドリで出して変化を楽しんでもらう
という見せ方。

@yudainakamichi

聞いた瞬間思いついた動画wこの曲めっちゃ耳に残る🤣🤣 #ウェディングフォト #音ハメ

♬ はいよろこんで - こっちのけんと

あるいはこの推し動画では、キャラクターのモチーフを出すというオタク愛溢れる演出を見せています。

推し動画は特にその界隈が好きな人が見ることが多いので、こういった愛をわかりやすく表現できるようなブレイクでかつ解釈の幅が広い歌詞が頭にある事はUGCの感動をブーストさせる効果があったと推察しています。


(3)「ギリギリダンス」の間に入る合いの手

サビ中では「踊れ」「もっと鳴らせ」と言う歌詞の合いの手が入っている。
裏ではドラムの裏打ち=ディスコビートが鳴り、さながらクラブのフロアーで踊っている姿をイメージできるかのようです。

これらがある事でBGMとしての聞きやすさを担保しつつも、なんか耳に残るという印象も同時に残すことができて、もう一度聴きたいと思わせることに成功しています。


【+@】イントロの逆再生に隠されたメッセージ

サブ的な要素として、本楽曲の冒頭では本物のモールス信号と解読不明な音声が収録されている。

この部分を逆再生すると、モールス信号はSOSになっており、音声は「結局はね優しささえあればいいとは思う」というメッセージになっている。

こういったUGCはショート動画市場やXの投稿で非常に伸び易いネタです。
現にこの動画も120万回再生されています。

「裏側に隠された秘密」という切り口のコンテンツがそもそも人の興味を引くのと、
気づいてしまった自分…という投稿者の承認欲求を刺激している点
が強いです。

このようなユーザーの「気付いた感動UGC」を誘発させる楽曲の仕掛けは
非常に再現性のあるマーケティング施策だと思います。

例えば似たようなマーケティング施策がヒットした事例で
『FinalFantasy7 Rebirth』というゲームの体験版でピアノが演奏できるようになっていたことを筆者は思い出しました。

要するに「俺ゲーム内のピアノで演奏しちゃったwwww」みたいな自慢と、体験版のミニゲームでこんなことができるんだwという面白さが相まって自然にUGCをバズらせることに成功していたのです。

発売前に遊べる体験版でピアノゲームが遊べたので、そこをやり込んだ様子をXに投稿してバズっていたのを当時よく見て「いいマーケだなぁ」と思ったものです。

こういったインタラクティブな体験は、ユーザーの承認欲求や感動体験をうまく巻き込みつつ嫌な印象を与えず自然にUGCを発生させる施策として最近あらゆる所で有効であると考えています。


4、時代背景における本楽曲の立ち位置

(1)2024年求められるサウンドにおける立ち位置

先週のnoteでも同じ話をしましたが、
TikTokトレンド曲においても時代の流れを汲み『今時代が求める曲をリリースすること』は非常に重要です。

例えば「香水 / 瑛人」「逃避行 / imase」などを2024年現在投稿してもおそらくバズらないであろうことはなんとなく皆様もイメージできると思います。

つまり本楽曲も『今リリースしたから伸びた』可能性が高く、
それが何故なのか、歴史の流れと照らし合わせながら立ち位置を理解することがSNS楽曲分析では特に重要だと考えています。

結論:社会的抑圧への反発

といういってみれば19世紀からずっとあり、特にコロナ禍以降日本では爆発的に人気になったムーブメントへの迎合だと考えております。

例えば
2020年 「うっせえわ / Ado」
2022年 「Habit / SEKAI NO OWARI」
2022年 「可愛くてごめん / Honey Works」

などもこれらの流行に迎合したHit曲です。

つまり、社会的な抑圧に対する反抗の歌であり、
特にコロナ禍以降は皆精神的にも金銭的にも貧しくなっているのと、
SNSのアルゴリズムの発展とテクノロジーの発展により個人で生きていける時代となり人々が個のコミュニティから出なくなっていったことから、
多くの人がコミュニティ外の人との接触に嫌悪感を感じるようになっています。

これらが共感を生み易いトレンドのメッセージなのですが、
本楽曲もこっちのけんとさんが双極性障害であることについて、「日々SOSを出す癖をつけたい」という思いから制作された、と語っている通り「ギリギリで生きている僕たちからのSOS」というメッセージ性が2024年のSNSでのメッセージと共通したことが挙げられます。

これらは2020~2021年と比べるとダウントレンド気味ではありますが、毎年このタイプのヒット曲がSNSから沢山出てくる事は間違いなく衰えていないので引き続きしばらくはトレンドとなると私は見込んでいます。


(2)リバイバルブームにはまだまだ乗れる

元来続く「リバイバルブーム」もバズの発端になっていると考えます。
よく聞く話で流行は12年周期、なんて話もありますが、最近は平成中期と初期のリバイバルがSNSで流行しています。

リバイバルは現代の若者は、このような絵柄を「新鮮なもの、流行」として認識し、その時代を生きてきた年代の方々は、「懐かしさ」を感じられるようになっているのでインプレッションの幅が広いのが特徴です。

例えば平成プリのフィルターで流行した「ぱかぱかぱかり / ぼっちぼろまる」

平成初期の名曲「ロマンスの神様 / 広瀬香美」が突然22年にTikでUGCが急増した事などが例として上がります。

今回のMVは「昭和アニメ」を彷彿とさせるテイストであり、私自身「サザエさん」を連想しました。

この頃のリバイバルで言うと(MVはこれより更に古い世代の絵柄にも見えますが便宜上…)

1986年以来36年ぶりにTVアニメ化された「うる星やつら」のECテーマ曲「トウキョウ・シャンディ・ランデブ / MAISONdes feat. 花譜, ツミキ」
・若者の「古いもの好きな俺、私」のアピールにも出来る
・直撃世代の「回顧」「懐古」感を想起させる

ことができ、「昭和の懐かしさ」と「令和の新しさ」という部分で楽曲自体が注目されUGCが伸びた作品でもあります。

UGCの↓一例↓

ここで重要なのが「若者が面白いと思う」という視点です。
若者が反応しないものをリバイバルしてもSNSでは伸びづらいです。そういうズレたリバイバルをして外してる施策をよく見ます。

本楽曲の場合は、

  • 面白くて可愛い動き

  • 昨今ブームとなっている他者と関わり合うことへの反抗と結びついた絵柄

と言う2点で現代っぽさが感じられるリバイバルであった点が優れていたと思います。


5、バズった結果得られたものまとめ

(1)主な成果まとめ

2024/8/21現在の情報。

・SNS総再生回数60億回超え
・虹色侍、冨岡愛等人気YouTuberやアーティストとコラボ多数
・地上波歌番組やニュース番組に出演
・大型ロックフェスの出演
・韓国のウィークリーミュージックビデオランキング2位
・ビルボードチャートJAPAN Hot 100 Top5入り

アーティスト性とシナジーのある伸び方をしたことで、しっかり自分の活動へ跳ね返りのある有効性が期待できるバズとなっています。


6、再現性のある要素

(1)余白を作りクリエイターの創作意欲を刺激する

この動画では、合いの手のシーンではダンスではなくキャラクターの魅力を引き出すシーンを創出している

@neintion

IM OBSESSED WIH THIS SONG GRAAAUGH ⁉️🔥 ngl it kinda sounds like gojo or im just tripping🕊️ #fypage #jujutsukaisen #anitok #jjk #gojosatoru #anime #gojojjk #animation #trend #🍉

♬ はいよろこんで - こっちのけんと

イントロもだが、楽曲に対して余白をある程度残すことで二次創作をしやすい構成にするのはどんな作品にでも言えますね。


(2)王道のHit要素 × 時代性

本楽曲は、切り出し箇所からの構成などは王道でずっとTikTokでヒットしているような傾向を踏襲しつつ、
サウンドやメッセージに関しては今の時代が求めるものに果敢に挑戦した結果このような成果が出たように感じました。

このようなバランス感覚を思案する事はどんな作品作りにでも必要な事だと言えるでしょう。


(3)自身のアカウントでゴリゴリUGC促進

リリースされたらダンスや切り抜きを自分で上げる、
伸びてきたらTikTokで強い人とコラボ動画を積極的に上げる、
など自分のアカウントでゴリゴリ発信する事でUGCを認知する界隈を開拓していく施策は特に予算が少ないアーティストの切り札となります。


「はいよろこんで」の分析は以上となります。

来週は別の曲を分析しますので、
よければ僕のツイッターをフォローして来週の更新をお待ちください!

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前作「シカ色デイズ / シカ部」の分析はこちら!


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執筆協力は「宮本隆平さん」でした。いつもありがとうございます!

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