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いざグランドチャンピオン大会へ

小さな頃ひとりぼっちで人生ゲームをやっていた俺にとって、ビデオゲームやテレビゲームの出現はまさにもってこいの遊び。
気がつけばメキメキと上達していった。


外で遊べる時は公園に行けば誰かがいる。
知らない誰かと話をするのはパチンコ屋で慣れているから、すぐに打ち解けてその場だけの友達を作る。

ある時は下は3歳位から上は8歳くらいまでの子供らを十数人引き連れて、山登りに行こうとしたことがある。
俺が5~6歳の頃。

町内を離れ、一丁二丁と道を進む度に不安に襲われ泣き始める子供達。
「もう歩けない!」「帰りたいよう!!」
座り込んで泣き叫ぶ。

このままでは足手まといだとその場に置いていこうとしたが、心配した年長者が手をつないで道を戻っていったりした。
一人減り二人減り三人減り。気がつけば俺を含め残り三人。

そしてこの二人も「もう帰る!」と泣きながら帰っていった。
距離にしてまだ500mも歩いてはいないのだけれど、見知らぬ風景にただならぬ不安を覚えたのであろう。

結局俺は一人になり、そのまま突き進むことにした。
市電が走る大きな通りを越え、徐々に山は近づく。
パチンコのグランド銀座がある西12丁目付近から西24丁目にある西友辺りまで来たから、今地図で見るとここまでで1kmちょっと歩いたということか。

昼の3時位に出発したのでやや日が傾きかけてきた。
途中で子供らが泣いてしまったのも時間のロスではあったが、そもそも子供の歩くスピードは遅いのだ。
これでは到底山登りすることは不可能なので残念ながら引き返すことにした。我ながら良い判断。


一方その頃、自宅付近では結構な大騒動となっていた。
当然だ。公園から子供達がごっそり連れ去られたのだから。


市電の走る大きな通りを渡った頃には何台ものパトカーが走り回っているのが見えた。
物騒だなぁと考えながら更に戻り、いつものパチンコ屋の銀座が見えたところで俺も一安心。
とある店にのぼりを立てるブロックがあったので腰掛けて一休み。

「今度はもう少し早めに家を出ないとな」とロダンの考える人のポーズで計画を練っていた俺の目の前にパトカーが停まった。

「KT君だね?」「はい」
ハーメルンの笛吹き男となった犯人は無事逮捕され自宅まで強制送還された。
死ぬほど怒られたし呆れられたし、今でもまだたまに怒られている。


それ以来すっかり危険人物扱いとなってしまったけども、それでも子供達は俺の周りになぜか集まる。
「缶蹴りやろうよ」と知らない誰かに話しかけ、数人で遊びが始まると一人二人と仲間が増えていく。

ブランコに一人揺られながら寂しそうにこちらを見ている子を見つければ、すぐさま駆け寄り「仲間になってよ!一緒に遊ぼ?」と声をかける。
そうしてあっという間に公園にいる全員が参加する大缶蹴り大会となる。

こうして遊びを通じて、知らない友達と知らない友達が仲良くなって話しているのを見るのが好きだった。
一人ぼっちは俺だけでいい。


夕方頃雨が降りはじめ、大慌てでみんな帰りはじめる。
寂しそうに一人で遊んでいた子も、どうやら新しい友達と明日遊ぶ約束をしたようだ。
土砂降りの雨の中、待ち時間なしで乗り放題となったブランコに揺られながら水たまりが地面にできていくのを見ていた。

そしておもむろに服を脱ぎ始め、全裸になって水たまりでスイミング(笑)

誰もいないし別にいいやと平泳ぎでバシャバシャと水たまりをかいていたところを母に見つかった。
この事も40年以上経った今も言われ続けている。
余程衝撃だったのだろう。自分の子供が裸で水たまりを泳いでいたのが。

こうして俺は「雨の日は頼むから家でおとなしく遊んでくれ」とゲームやトランプなどを買い与えられたのだ。



ただゲームと言ってもまだまともなテレビゲームなんかはない。
冒頭で書いた通り、人生ゲームなどのボードゲームやドンジャラという麻雀もどきを買ってもらった。
買ってもらったはいいがこれを一人で遊ばなければならない。

人生ゲームは一人でやっても楽しいのだけれども「仕返しマス」に止まった時がとにかく困る。
仕返しする相手は常に自分なのだ(笑)

ドンジャラに至ってはひとりで4人分をやる。
途中で「俺は一体何をやっているのか?」とどうしても白けてしまうので「どんな事をしてでもすぐにあがれる方法」を暇つぶしで追求していった結果、自然にイカサマ技術が身についていってしまった。

トランプも英語塾の先生に教わった技術を練習してイカサマが身についた。
手品の練習がてらやっていたらついうっかり(笑)


この頃にはすでにブロック崩しやインベーダーなどのビデオゲームは世に出回っていたけども、子供のお小遣いでは満足出来るほど遊べない。
デモ画面を見ながら脳内プレーをする程度。

そして俺が小学校5年生になった時についにファミコンが発売された。

発売前に予約して貯めていたお年玉で発売日に即購入。
まだコントローラーが四角いゴムボタンのファミコンだ。
ソフトはポパイとマリオブラザーズしかなかったのだけれども、残念ながら目当てだったマリオブラザーズの方は完売。仕方なくポパイの方を買った。

これを俺はもう文字通り狂ったようにやった。
当然だ。この時を待っていた。
一人で遊ぶにはこれ以上のものはない。

ゲームはデパートにあるパソコン売り場やゲームウォッチなんかでも出来たけど、これほどクオリティーの高いゲームが出来る安価なゲーム機はなかった。(アタリやカセットビジョンといったゲーム機はあったけど、クオリティーはまさに子供騙しのものだった)


元々ゲームが好きだったのもあったけれど、俺には他に選択肢はないのだ。
残念ながら一般家庭のような一家団欒なんてものもなかったから、雨の日と夜はゲームゲームゲーム!

中学に入る頃にはたくさんのゲームが発売され、片っ端からやりまくった。
今までデモ画面を見て指をくわえて我慢してきた鬱憤が全て吹っ飛ぶ。
そうなれば否が応でも腕前は上達していく。

一体どれだけ俺は上達したのか?
モノは試しとデパートで開催されていたゲーム大会にエントリー。
みんな上手だなぁと思いながら3つのゲームを制限時間内でこなしていく。


結果、参加者や付き添った友人がドン引きするほどの得点で圧勝。


いやほら・・・敵の出てくる場所とか全部覚えてたし。
多分もう一回やってもほぼ同じ点数出るよ。3分でこれ以上の点数は取れないはず。
この時貰った「第三回ファミコン大会優勝」の楯が、俺の生涯で唯一貰った優勝の証。今でも本棚の上かどこかでぶっ倒れてるはず。

それからしばらくした後、デパートの方から「グランドチャンピオン大会に出場していただけませんか?」と電話で連絡があった。
各大会の優勝者達が集まり、真のゲーム王を決めようというのだ。

よし!受けて立とうじゃないか!

開催日。
デパートに着くとゲーム会場に通された。
広々としたイベント会場に集まる人、人、人。
その正面ステージに俺を含む6名ほどの各大会の優勝者達が並ぶ。

これは・・・えらいところに来てしまったぞ。

ここでみんな同時にゲームをするのではなく、ひとりひとり順番にゲームをしていくのだ。観客がじっと見守る中で。(二人ずつだったかもしれない。失念)

想像してみてほしい。操作ミスで「プギャ!」という音を出しながら操作キャラが死ぬところを。
百人以上が「ゲームチャンピオンのやり方」を見てる中でだ。ゾッとする。


そんな心配をしていると、最初にプレイを始めた第一回チャンピオンが案の定みっともない死に方をして低得点で終わる。緊張したのだろう。
この時初めて名人と呼ばれる人達が凄いプレッシャーの中でゲームをしていることを知った。あんたらはえらい。

程なくして俺の出番がやってきた。
友人らの冷やかしを受けながらステージへ。

「続いては第三回大会で記録的な点数を叩き出したチャンピオンの登場です!」

うーわ。なんてことを。
ハードルを宇宙の高さまで上げやがった。
それでも緊張するタイプではないのでなんとかいつものようにこなせた。なかなかの高得点。これなら優勝争いも・・と思っていたのだが。

「続いてはこちら!」と出してきたゲームが全くやったことのないゲーム。
名前すら知らんし今も思い出せない。

他人のプレイを盗み見てなんとかプレイはしたけれども平凡な点数で終わってしまった。
こうして俺はグランドチャンピオン大会を3位でフィニッシュ。
平凡っちゃ平凡で俺らしい。が、変に注目もされず正直安堵もした。


その後引っ越した先の生協でゲーム大会が開催された。
ゲームはスペースハリアー。
3分のプレイで何点取れるか?の勝負だったと思う。
子供達に紛れて俺も一緒に参加してみた。

「俺80万点行った!!」
「おおっとこちらは100万点突破しました!現在トップ!」
「やった!!120万点!!」
「すごい記録が出ましたー!!!」

みんな大騒ぎする様子を見ていた。
ワイワイガヤガヤ。お前うまいな!お前もすげーじゃん!
ゲームを通じて知らない友達と知らない友達が新しい友達になっていく。
それをニコニコと眺めていた。なんだか懐かしい。

「さあ最後は中学生のお兄さん!自信はありますか?」
「ゲーム大会でチャンピオンになったことあります」
「おぉ!これは期待出来ます!現在トップはダントツの150万点。抜くことは出来るでしょうか?!」


後日。
生協の壁には申し訳無さそうな顔をしている俺の写真が貼られることとなった。
350万点で優勝というコメントと共に。

敵が出てくる位置を完璧に暗記していた俺は、敵が出てくる場所に先に弾を撃つというとんでもないことをやり、画面にほぼ敵の姿が現れずに点数だけが上がっていくという謎の現象を起こしてしまい、見ている全員をドン引きさせたのだ。

これが俺が最後に出場したゲーム大会となった。


追記
高校生の頃には足でコントローラーを操作してロードファイター(車のゲーム)をノーミスクリアしてクラスメイトの女の子をドン引きさせたりもした。

ああ、画面に出てくるゴキブリを叩くもぐらたたき大会も参加したことがある。もう社会人になってた頃かな?
ゴキブリが出てくる位置とタイミングを全て暗記していたので(以下略)

ちなみに扉画像にある店の角に小さな誘拐犯である俺は座っていた。パトカーが目の前に止まった風景を今でもはっきりと覚えている。
実は以前書いた「西屯田のパチンコ屋」の中に「昨年の夏のある日の夕暮れ時、この辺りを久々に歩いてきた。」とあるが、この角にちょこんと座って一杯引っ掛けてきたのだ。
幸いパトカーが迎えに来ることはなかった。



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