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一発台と車とバドガール

今から20年以上前、ススキノのハズレにバドガールがいるバーがあった。
当時の俺はそこに入り浸っていた。
はじめはスケベ根性、それからいつしか家よりも落ち着く場所としてカウンターの左端に陣取るのが日課となった。

家よりも落ち着くと書いたけども決しておおげさなことではない。
本当に家のように過ごしていた。

なぜなら俺はパジャマ姿で飲んでいたのだ(笑)

いくらススキノのハズレとは言ってもススキノはススキノだ。
パジャマで歩いてりゃそりゃ目立つ。
それでも後ろ指をさされようがどこ吹く風で、愛用のキセルを咥えながら毎日ススキノを歩いていた。

飲み代は一日千円のみ。
みんな俺が貧乏なのは知っている。
だからツマミは他の客に奢ってもらった物、下手すりゃお残しというか誰かの残飯、最終的にはバドガールが自腹で俺のツマミを買っていた。

飲んでいる焼酎のボトルは何故か中身が毎日増えていく。
預かり期限が過ぎた客のボトルの中身を、誰かが俺のボトルに移すからだ。
ボトル一本では入り切らなくなってしまうこともあり、「今日は頑張って減らしなさいよ。これじゃ入り切らないよ!」なんてこともあった(笑)

そんなことをしながらカウンターの左端で閉店の2時まで眠りにつく。
その後は店をハネたバドガール達と遊んだり、顔なじみの風俗嬢達と遊んだり。
と言ってもエッチなことになるわけでもなく、ほぼ女の子達の奢りで酒やコーヒーを飲みながら、くだらないおしゃべり相手になるだけだ。
愚痴を聞き、頷き、笑う。
それでもただただ楽しかった。


こういった愚痴聞きが良かったのか、女の子同士のトラブルが減ったんだとオーナーや店長から聞いた。
大勢の女の子達が働くところには必ず派閥が出来る。
派閥が出来るとどうしても争いも起きるが、お互いの「ここをこうして欲しい」という話を聞いて、それとなく双方に柔らかく伝えていたのだ。
いわばパイプ役というやつ。

店長やオーナーには言いにくいことも、いつも飲んだくれているパジャマ男には言える。
派閥だけじゃなく個人的なことも俺に言えば誰かに伝えることも出来るし、逆に「それは違うと思うぞ」と諭してその場で解決もしたり。

こういった役割をこなしていたから、残飯を食っていようがパジャマ姿で寝ていようが、金を落とさなくても追い出されることはなかったのだ。


で、そんなバドガールの店に珍しく昼に用事があって行くこととなった。
もちろん開店前だがちょっとしたおつかいとお手伝いを頼まれたのだ。
それほど時間はかからない。
駐車場に停めるほどではないとお寺の横に車を置いて歩いていった。今日はパジャマではない。

オーナーとちょっと話し込んでから店を出て、車を置いた場所に戻るも車がない。

そこで普通なら「やられたー!」と叫んで頭を抱えるところだろう。
駐車違反でレッカー移動された以外に何もないんだから。
なのに俺ときたら何ということか・・・

今日は地下鉄に乗ってきたんだったっけ?と勘違いをしてしまったのだ(笑)

我ながら頭がおかしい。
車がないならこれ幸いと一杯酒を引っ掛けて、ススキノの小さな小さなパチンコ屋に飛び込んでしまった。

あまり見たことがない台に適当に座って鼻歌交じりに500円。
どこからか球が役物に飛び込んで、どこかの穴に入ったらチューリップが一つ開いた。
それに気がついた店員が大当たりの札を台の上に挿していく。

あれ?これ一発台かよ(笑)

一発台と知らないどころか当たり穴すらもわからない。
そもそも何処から飛び込んだのかも知らないのだ。
こんなので12000円も儲かってしまっていいのだろうか?

ということを3回も繰り返してしまったのだ。

あっという間の36000円勝ち。
3回目の当たりでようやく台の仕組みを理解した。
理解した途端全く入らなくなってしまった。そんなもんだよな。
ミニビギナーズラック終了。

約3万勝ちで意気揚々と地下鉄に乗って家に帰り、テレビを見ながら晩御飯。
横になって一服しながらシーハーして、そろそろ遊びにでも行こうかと外に出て愕然。

車が盗まれている!!

駐車場に車がない!
まさか?!いつ!?どこで??
さっき帰ってきた時は車あったか?

大慌てで家に戻り母にそれを伝えると「あんた昼に車乗って出かけるって言ってなかった?」と。
この時点でもまだ記憶が抜け落ちていたのだ。なんて馬鹿なのだ。

半信半疑で警察署に電話をかけてみると、確かに駐車違反でレッカー移動されていた。
普通ならショックな出来事だろうが、こっちは車を盗まれたと思っていたもんだから「本当ですか!いやぁ良かった!」と電話口で叫んでしまった。
夜10時頃に警察署までまた地下鉄に乗って行き、罰金とレッカー代と駐車場代を払う。

それが合計約3万円。

詳しい金額は忘れてしまったが、とにかく今日パチンコで儲けた金から500円引いた金額ということだけは覚えている。地下鉄代も含めて。
これが噂の帳尻合わせだ。

残ったこの500円は、レッカー移動されていなかったらなかったはずの500円。
レッカーされてなけりゃパチンコに行かず車に乗って帰っていたはずだ。
ただ3万儲かったと思っていただけになんとも複雑(笑)

レッカーされた車が保管されていたのはバドガールのお店のすぐ近く。
車を取りに行ったついでに一杯飲もうかと思ったが、今日はおとなしく500円プラスのまま帰ろう。


そんなバドガールのお店も程なくして、ちょっとオシャレな大人のバーとして生まれ変わった。
飲み放題で馬鹿騒ぎする若者や、大勢でやってきてワイワイ大騒ぎする米兵や外国人観光客相手ではなく、オシャレでシックな大人のバーとして改装したのだ。

だがこれは違うよオーナー・・・
いくら古臭かろうがなんだろうが、あの明るさと程よいエロさが良かったんだよ。
3000円で90分ビール飲み放題。
次々と注文が入るビールを颯爽とバドガールが運んでくる。
客ひとりひとりに女の子が付く店なんて他所の店で十分なんだ。

一昔前の西部劇に出てくるような古臭いバーに、エロい格好のバドガールがそこら中をウロウロしてる。
一見さんでも3000円でこの雰囲気を十分味わえ楽しめるのが良かったんだ。

案の定あっという間に客は飛んだ。
あの時いたバドガール達も次々と辞めてしまった。暇すぎたのだ。

この頃今の嫁と知り合い俺もすっかり足を運ばなくなっていたが、一度はこの「元バドガールの店」を見せてやりたいと嫁を連れて行った。が、

すでに入口のドアは板で塞がれ、店はなくなっていた。
思い出と俺の居場所はあっさりと消えて無くなってしまった。


追記
前回書いた軍艦マーチを最後に聴いたパチンコ屋の街で、パチンコ屋を飛び出し用事を済ませていた時に、たまたま出会った風俗嬢に「あ、パジャマの人だ!」といきなり言われてびっくり。

話を聞くとどうやら色んな風俗嬢に店が終わった後に話し相手になる男として有名になっていたらしく、偶然その男がパジャマでウロウロしていたのを風俗嬢仲間の誰かが見たらしいのだ(笑)
それが友人経由で耳に入ったとか。俺の顔は元々知っていたそうだ。世の中は狭い。

因みに風俗店通いも実はラウンジみたいなところで酒だけ飲んで帰っていただけだ。
やっていたことはバドガールの店の時と何ら変わりがない。



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