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軍艦マーチよ鳴り響け!

いつからだろう?
パチンコ屋に軍艦マーチが流れなくなったのは。
今は軍艦マーチや演歌はもちろん、オシャレなBGMすら流れない事も多い。
それぞれの台が各自に音を発するようになったからだ。


現在、パチンコ屋はうるさいというイメージがあると思う。
しかし実のところ、台が音を発していない場合や店に音楽が流れていない時、ガラスに玉がカチャカチャと当たる音だけが聞こえる寂れた工場のような雰囲気になる。

まだチューリップがメインだった時代。
玉が出る時のチリリンというベルの音と玉がガラスを叩く音以外はなく、木の床が歩くとギシギシと鳴る音も聞こえるくらい静か・・・とまでは言わないけれど、うるさくはなかったのだ。

そこには何とも言えない物悲しさがあった。

仕事に疲れた大人たち。
心の何かを埋めようとしてる人たち。
盤面を見つめながら、それこそ工場で残業をしてるような表情。

その物悲しさを解消するために必要だったのが軍艦マーチだった。

行くぞやるぞと景気よく、そして軍艦マーチにのせて煽る店内放送。
いらっしゃいませいらっしゃいませ!
いらっしゃいませいらっしゃいませ!
ありがとうございますありがとうございます!
本日はパーラー〇〇店にご来店いただきまして、誠にありがとうございます!
~(中略)~
ジャンジャンバリバリ~ジャンジャンバリバリ~お出しくださいませお取りくださいませ!

これがないとすぐに店内の雰囲気が残業してる工場になってしまうのだ(笑)

以前遠隔操作していた店に実態調査を行った際にも、静かすぎる店内に焦ったことを書いたけれども、実はこれ以上にとんでもないことになったことがある。今回はあまりにくだらない話だが。
俺が最後にパチンコ屋で軍艦マーチを聴いた時の話。


とある用事でとある街に行った時のことの話。
夜は繁華街として賑やかな街であることは知っているが、真っ昼間は完全に眠りにつく街。
明け方のススキノの裏通りと同じようなものだ。

車で行ったものの、いくら探しても目的地のそばに駐車場が見つからない。
はて困ったなどうしよう?という時に飛び込んできたのが、だだっ広い駐車場を持つ一軒のパチンコ屋だった。

一時間ほどで用事も済む予定だし、ちょっとだけ停めさせてもらおうか?と思ったが、他の車が見当たらない。
これじゃもう目立つどころの話じゃない。そもそも営業しているのかも疑わしい。

恐る恐る車を停めると、店内から覗き込む店員の顔が見えてしまった。
これでもう逃げることはできない。
打ちたくもないパチンコを打つことが決定してしまったのだ。

こうなったらもう思い切って聞いてみようか?
「ちょっと遊んでいくから1~2時間車を置かせてもらえないか?」と。
ダメ元だったが、店長らしき男に「いいよいいよ。閉店までに取りにおいで」とあっさりOK。なんておおらかな。

嫌な顔もせずに許してくれたことにすっかり気分が良くなった俺は、何千円か捨てて帰ってもいいだろうという気分になっていた。
これが大間違いだったということも知らずに。

店内は小さく有線放送がかかっている状況でかなり静かだが、どこからか音が聞こえる。
どうやらスロットを打っている人がいるらしい。
店長と店員たちに見守られながら俺もスロットに向かった。
ガラ空きのシマでひとりぼっちで打つ気には到底なれない。

スロットを打っていた人の数台左に座って千円札を突っ込んだところで、その人がすっと立ち上がり、にやっと笑った。
そしてそのまま去っていってしまった。

え?何これ??ここってそういうシステム?!

確かに誰かが来るまで帰れる雰囲気ではない。
店員達、特に店長の見守りっぷりが凄まじいのだ。

この店はボーナスが入ると上部のパトランプが回る。
揃える前、フラグが成立した時点で回りだすのだ。
当時はそんな店がチラホラあった。
見守られてる状況ではこのシステムが地獄と化す。

「おおっと〇〇番台のお客様!ボーナス成立おめでとうございます!」

うわぁヤメてくれ。まだ揃えてもいないのに。
他に客はいないと思うけど店員達がいるだろう。どんな羞恥プレイだ。

「あーっと残念!レギュラーボーナスでした!」

おい!本気でやめろ!!
クスクス笑うカウンターレディー。
そしていつの間にか入ってきていた数人の客。
早く!!お前達早く俺と代わってくれ!

しかしその客たちは座ることなく去って行った。
冷やかしかよ!質悪いな。

店長は俺への実況にもう夢中。
「ここで連チャンするのか?はたまた飲まれてしまうのか?張り切ってー張り切ってージャンジャンバリバリ!(以下略)」
もっと色んなことを言われたけれどもう忘れた。むしろ記憶から消したい。


結局そのままあっさりと飲まれてしまった。
かと言って駐車場を借りる手前ジャカジャカ出ても気まずいし、なんだか変な気分。
俺への実況が終わってしまった店長が心配そうにこちらを見る。
わかってるよ!誰か来ないと帰れないんだろ?打つよ!

適当なパチンコ台に座る。回らん!
台を変える。回らん!
これじゃあ客が入るわけないだろう。
どうすりゃいいんだ。打てる台がない。

困惑しながら3千円目の千円札を両替機に突っ込んでいる時に、その店長が話しかけてきた。

「なんか好きな音楽かける?」

はぁ?何だそりゃフレンドリーだな(笑)
と思ったが、そんな事されたら尚更去りにくくなる。
かと言って無下にもできない。

「じゃあ軍艦マーチを鳴らしてよ。景気よくさ」

店長は返事をしたかしていないかわからないくらいの勢いですぐに踵を返し、カウンターに走っていった。
程なくして店内に大音量の軍艦マーチが鳴り響く。

いらっしゃいませ!いらっしゃいませ!
ありがとうございますいらっしゃいませ!

水を得た魚のように決まり文句を叫び続ける店長と、それを苦笑いで見つめる女性店員達。
あぁ・・多分店内の音楽の趣味は女性達の趣味だったのだろう。確かにそんな選曲だった。

店長の得意の名調子につられるように台も回りだす。
鳴り響く軍艦マーチも軽やかに。
やっぱりパチンコ屋はこうでなくっちゃ。

そんな様子を知ってか知らずか、誘われるように客も数人やってきた。
そしてそばにやってくる気配。
わかるわかるよその気持ち。誰かのそばで打ちたいもんな。さあ交代の時間だ(笑)

台を見つめながら素知らぬふりをしていると、まずはガッシリとした体型の男が俺のすぐ左に座った。
いくらなんでも近いな。
寂しいとはいえ空いてるのにこんな隣に座らなくても。まあいい。

残りの二人は俺の右側に席を一つ開けて座った。もうひとりは更にもう一つ右側に。
こんなに広いガラ空きの店内でものすごい人口密度。
まあそれもいい。これでようやく脱出できるってもんだ。
そう思いながらふと右側に座った男の顔をちらりと覗いた。

ん?ちょんまげ?!

二度見しないように必死に耐えながら、目玉だけを右側にギリギリまで寄せてもう一度確認。
やはりちょんまげだ。力士だ。左に座った人の頭にもちょんまげが乗っていた。

ガラ空きの店内で力士に挟まれた。

軍艦マーチにのせながら店長の名調子は続く。
「いらっしゃいませいらしゃいませ!ふっ!ありがとうございますいらっしゃいませ!」
お前今笑ったろ。

特別な巡業がない限り北海道では殆ど見かけない力士。
あったとしてもここはススキノでもなく、会場から近いわけでもない。
お忍びで街外れの空いてるパチンコ屋に遊びに来たのかどうなのかは知らないが、とにかく今俺は力士の間に挟まっている。

そこに更に数人の若い力士たちがやってきた。付き人だろうか?
先に座っていた左右の力士たちがお小遣いを渡し、その若い力士たちも周りで打ち始めた。

なんなんだこれは(笑)

左から力士、俺、空席、力士、力士。
俺の背中側にも力士、力士、力士。
その他歩く力士。見守る力士。ジュースを買ってくる力士。
そして軍艦マーチ。

たとえ夢でもこんなに突飛な夢なんか見るものか。
不意に目が合った店長はマイクを片手に持ちながら、漫画でも見たことがないくらいほっぺたを膨らまして吹き出すのを堪えていた。

もういいだろう。もう許してくれ。
スクッと立ち上がると力士たちが全員一斉に俺を見る。
いたたまれない気持ちになって、軍艦マーチを聞きながらそのまま店を脱兎の如く飛び出した。


これがパチンコ屋で俺が最後に軍艦マーチを聞いた時の思い出。
そもそもがこの事があったしばらく前から、軍艦マーチをパチンコ屋で聞くことはもうなかった。

これ以降軍艦マーチの話になると「軍歌だ」「パチンコ屋のテーマソングだ」なんてことはなく「大相撲だ」と答えることにしている。
そしていざ相撲中継で土俵入りする力士を見た時は、頭の中に軍艦マーチが流れてきてしまうのだ。




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