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【前編】営業利益56%増に上方修正!VTuberプロダクション「カバー」をMBAの視点で徹底解剖!

この記事では、2023年3月27日に東証グロース市場に上場した「カバー」について、VTuberプロダクション市場の特性を踏まえ、そのビジネスモデルの強みとリスクを分析していきます。

本記事は2023年5月時点の公開情報を基に、私が個人的に分析・考察したものです。ターゲットはエンターテインメントやVTuberについてまだ十分キャッチアップできていないMBA生向けです。したがって、詳しい方からすると細かい指摘があるかもしれませんが、どうか前提をご理解いただけると幸いです。

後編はこちら

カバー株式会社とは?

カバー株式会社は、VTuberプロダクション「hololive production」の世界展開を軸に、日本発で最先端の二次元エンターテインメントを提供する企業です。つまり、VTuberプロダクション事業を通じて、包括的なエンタメ事業を展開している会社です。

カバー株式会社 HPより https://cover-corp.com/

そもそもVTuberって?

VTuberは、アニメ風のアバターを用いて活動するバーチャルエンターテイナーのことです。彼らは2Dや3Dのアバターを駆使して、様々なコンテンツを提供しています。

VTuber市場の規模

VTuber市場の規模については、いくつかの調査や推定がありますが、一概には言い切れません。ただし、以下の傾向は確かです。

  • VTuber業界は、2017年から急速に拡大し、2020年には2兆円(国内、海外含む)を超えるペースで成長していると言われています。

  • VTuber業界は、日本だけでなく海外でも人気が高まっており、特に中国や東南アジアなどの市場が大きいとされています。

  • VTuber業界は、メタバースやNFTなどの新しい技術やサービスとの相性が良く、今後もさらなる進化やイノベーションが期待されています。

こうした盛り上がりの背景にあるもの

2017年12月にキズナアイが100万人のチャンネル登録者を突破したことで、VTuberの知名度が高まりました。


キズナアイ公式ウェブサイトより https://kizunaai.com/

さらに、3Dモデルや動画配信技術の進化により、リアルな表情や動きを表現できるようになったこと、プラットフォームの進化により配信のハードルが下がったことも、VTuberの人気を後押ししました。

そして、コロナ禍での巣ごもり需要が増加する中、日本のアニメは世界中で消費され、その存在感が高まりました。これに伴い、アニメルックが特徴的であるVTuber市場も大きく広がったと考えられます


VTuberとYouTuberを比較することで明らかになるVTuberのポテンシャル

VTuberとYouTuberを比較すると、実はVTuberのほうが活動の場がかなり広いです。

また、個人が始めやすいという意味では、YouTuberよりも、VTuberの方がチャレンジしやすい側面もあります(ただし、成功しやすいという意味ではありません)。

そのため、VTuberの方が経済的なポテンシャルがあると思っています。その理由を以下に記します。

VTuber(バーチャルYouTuber)の優位性とは?

プライバシー保護:
顔や本名を隠して活動できるため、個人情報を保護しやすいという利点があります。そのため、歌やトークは得意だが、容姿に自信がないため顔出し活動ができない、というクリエイターでもチャレンジしやすいです。

キャラクターデザイン:
独自のキャラクターを作成できるため、ブランド力や視聴者とのつながりを強化できます。

幅広い表現力:
アニメーションや特殊効果を使って、リアルタイムで表情や動きを変えることができます。これにより、視聴者の関心を引き付けやすくなります。

長期的な活動:
見た目が変わらないため、歳を重ねても同じキャラクターで活動し続けることができます。

YouTuber(実写YouTuber)の優位性:

リアリティ:
実写でのコンテンツは、視聴者によりリアルで身近な印象を与えることができます。

製作コスト:
VTuberに比べて、動画の制作に必要な機材やソフトウェアがシンプルで安価です。

実績と信頼性:
YouTuberはすでに確立された市場であり、広告主やスポンサーとの取引がしやすいという利点があります。ただし、近年ではYouTuberの不祥事やスキャンダルが取り沙汰されやすくなっています。

VTuberのポテンシャル

<強み>

①動画VTRではなく、ライブ配信であることの強み→広告モデルではなく直接課金モデル

YouTuberの動画は基本的にアーカイブ配信です。アーカイブ配信が再生される回数に応じて、企業からの広告収益が入るモデルです(BtoBtoCモデル)。

しかし、VTuberはライブ配信によるスーパーチャット(※)が中心です。これは、YouTuberに比べてVTuberの技術的な制限により企画性のあるアーカイブ配信ができないことから、結果的にライブ配信となったと考えられます。

※スーパーチャット (Super Chat) は、YouTubeのライブチャットを利用した生放送や動画の公開時に、チャット欄で自分のメッセージを目立たせるための権利を購入する機能(wikiより)

とはいえ、一度、撮影・編集しておけば再生回数がそのまま広告売上となるという側面においてはライブ配信の生産性はアーカイブ配信に劣ります。

このようなことからライブ配信が中心となったVTuberの活動ですが、直接的なファンとのコミュニケーションやコンテンツの緊張感・鮮度の維持へと繋がり、ファン化がより一層促される構造になっていると考えられます。

また、その結果として、収益はスーパーチャット(投げ銭)となりましたが、昨今のアドセンスの単価下落の影響を受けないという非常に重要な副産物を生み出しました。

②従来のアニメIPと比べた場合のVTuberの強さ

また、従来のアニメIPと比べた場合の、「IPを育てるコストパフォーマンス」も特筆すべきです。VTuberはライブ配信などで活動するインフルエンサーであることに加えてキャラクターIPとしての性質を持っています。

アニメIPの場合、アニメ化するに当たってのコストが1クール2-3億円と言われています。こうしたアニメ製作・配信を通じてアニメ作品をIP化していくのですが、ほとんどの作品がコストを回収できていないと言われています。

一方、VTuberにおいては、MVやライブなどの特定のイベント以外では、ホロライブのようにブランドとして確立している場合、キャラクター作成、採用、配信環境への投資のみで低コストです。加えて、VTuberならではのファンとの双方向でのやり取りができることで、ファンとの距離を縮め、ファンをつなぎ止めることができます。

<リスク>

ただし、VTuberの主要なファン層はまだまだ狭い

VTuberを楽しんでいるファンは、主に若い世代のインターネットユーザーです。これはYouTuberを楽しんでいるユーザーよりはるかに狭いと考えられます。これには、「アニメルックアバターの許容度」が関係していると推察されます。つまり、アニメルックアバターが人によっては親しみにくいと感じる人もいるということです。

「Vチューバー」を、10代の約7割が認知 動画&動画広告 月次定点調査(2019年2月度) より
https://www.justsystems.com/jp/marketing-research/report/report-video-20190319/

しかしながら、近年のアニメエンタメ市場の盛り上がりと同時に、アニメルックアバターに関する人気・許容度が若年層を中心に爆発的に上がっていると考えられます。

実際にVTuberによる配信などを観ていると、声優の独特の声と自由に動く3Dアバターは一種の中毒性があるように感じることがあります。

ただし、アニメルックアバターがYouTuberのように老若男女まで支持されているかといえば、まだまだこれからのように思います。

例えば、私の60代の父親などは寝室にまでiPadを持ち込んで常にYouTuberの動画を観ています。ニッチで細分化されたコンテンツが非常に多いです。今後VTuberが幅広い層から支持を得られるかが分水嶺になるでしょう。

(さらに)Vtuberの顧客の特徴:流行に超敏感な若者をターゲットにするということ

VTuberプロダクション業界に限らず、エンタメ業界の特徴はトレンドの流行り廃りが激しい業界です。特に、VTuberのようなターゲットが若者を中心に据えていると、なおさら流行の波が激しいです。

つまり、仮に運良く一人のVTuberを発掘し、大ヒットを飛ばしても、その人気は単発的で、すぐに飽きられる可能性が高いです。

そのため、こうしたトレンドの波を何らかの方法で回避する必要があります。

具体的には、ファンを繋ぎ止め、盛り上げる施策だったり、グループを作ってファンが複数のVTuberを応援する状態を作り出したり(いわゆる箱推し)、新人VTuberが育つ仕組みを作ったりなど、さまざまな手法を変えながら仕掛けが必要になってきます。


一方で、VTuberプロダクションの特徴とは?

そもそも「VTuberプロダクション」のような「プロダクション」とは何だろう?日本音楽事業者協会のウェブサイトによると、芸能プロダクションとは、「タレントを発掘、育成し、マネジメントを行う会社」であるとされています。

結論から言うと、こうした「プロダクション事業」における勝ちパターンは、

  • 所属タレントを発掘し、活動・活躍の幅を拡張すること

  • その結果としてタレントをプロダクションにホールドしておくこと

によって、経済性が生まれ規模を拡大していくということが重要です。

こうした背景にあるメカニズムを、

①芸能プロダクション
②YouTuberプロダクション
③VTuberプロダクション


を比較することで説明します。

①芸能プロダクションで重要なこと

芸能プロダクションの収益の源泉になるのは、「人(そのもの)」と「メディア業界とのネットワーク」です。

そもそも芸能プロダクションはほぼ変動費で人に依存しています。

固定費がさほどかからず、その代わりに変動費(率)が高いいわゆる「変動費型」のビジネスです。当然、初期コストもあまりかからず、誰でもスタートができるため、中小のプロダクションが乱立しています。

では、誰でも芸能プロダクションを立ち上げられるか?といえば、決してそうではありません。

芸能プロダクションで成功するためには「メディア業界とのネットワークと、一緒に業界を盛り上げるためのノウハウ」が必須だからです。

芸能プロダクションの成長の鍵となるタレントのホールド力(りょく)

一般的にマスコミはクローズドな業界と言われます。

こうした業界にコネクションを持ち、一緒にマスコミ業界を盛り上げられる能力を持つ属人的なノウハウが必要です。そのため、いわゆる“テレビと芸能プロダクションの共犯関係”でマスコミを盛り上げていきます。

その結果、テレビ番組は盛り上がるとともに、タレントの知名度も上がり、やっとタレントとして独り立ちをします。そして、企業とのタイアップによって、いっきに育成までのにかかったコストを刈り取るのです(ですから、タレントの番組出演のギャランティーはそんなに高くなく、実は高いのは広告ギャラです)

そのため、せっかく育てたタレントが他所に移籍したり、独立してしまうと、事業の致命傷になります。また、日本の芸能プロダクションには、「引き抜きはしない」という不文律があると言われています。

よって、批判もあるものの、芸能プロダクションの所属タレントに対するホールド力はまだまだ強いです。こうしたホールド力を活かし、プロダクションは規模を拡大していくのが経営の定石だと考えられます。

※ただし、御存知の通りそうした影響力は近年は低下しつつあると言われています。上場している既存のタレント事務所を運営する企業の時価総額が、知名度の割にそこまで高い時価総額にならないのは、こうした人的依存に伴うリスクが価格に折り込まれているからだと言われています。

②YouTuberプロダクションにおけるタレントのホールド力は?

では、YouTuberプロダクションのホールド力はどうでしょうか?

結論から言ってしまえば、YouTuberプロダクションのホールド力は弱いと考えられます。

YouTuberプロダクションとは、YouTubeで活動するタレントやクリエイターをサポートする事務所のことです。最大の違いはマネジメントをするのが、芸能人ではなくYouTuberであることです。

「個人で活動ができるのなら、YouTuberならプロダクションに所属する必要はないのでは?」と考える人もいるでしょうが、実は個人での活動には限界があります。

例えば、大きな収益源である企業とのタイアップ(いわゆる案件)はとても個人で獲得できるようなものではありません。

また、グッズ販売(マーチャンダイジング)についても専門的な知識が必要で、手間がかかる作業です。

その他、所属するVTuber同士をコラボレーションして人気を作ったり、プロモーション活動をサポートしたりをまとめて行うことで、一定の経済性が生まれます。それらがYouTuberプロダクションの存在理由です。

しかしながら、芸能プロダクションと比べてプロダクションのホールド力は弱いです。

なぜなら、売れっ子YouTuberは芸能事務所に所属するタレントと違って、自分でコンテンツを拡散できるチャネルを持っているからです。「自分でアシスタントを雇ってやります」となっても、芸能プロダクションと違ってそれを防ぐ手立てはありません。

そのため、YouTuberとプロダクションの関係は、経済的インセンティブが均衡する薄氷の上に成り立っていると言われます。

③VTuberプロダクションが成功するための重要なファクター

VTuberプロダクションは、VTuberの発掘や育成、キャラクターデザインやモーションキャプチャーなどの技術提供、メディアやスポンサーとの交渉などを行います。

VTuberの個性を引き出したり、グループ展開でファン層を拡大したり、商品化や案件をまとめ収益化をサポートし、VTuber活動をブーストさせるのが彼らの役割です。

※VTuberイメージ

VTuberのキャラクターの著作権を多くの場合保有している

特にVTuberプロダクションは、キャラクターの著作権を持つことが多いですが、その中でもIP権利の管理や活用の仕方はさまざまです。

例えば、カバー株式会社は、所属VTuberのキャラクターIP権利を自社に帰属させており、IPに基づいたマーチャンダイジングやライセンスビジネスなどの多様なコマース展開を行っています。こうすることで、他事務所への移籍が難しく、ヘッドハンティングされるリスクが小さい点は安定成長の要因だと考えられます。

仮にVTuberが他の事務所に移籍する場合には、名前だけでなく外見やSNSアカウントを全て放棄して、ゼロからの再出発が必要となります。

つまり、VTuberのコア価値であり収益の源泉である「IP」部分をホールドすることで、移籍のリスクが極めて少なくなるわけです。

長くなったので、ここでまとめです。


【まとめ】VTuberプロダクションの機会とリスク

【機会】VTuberプロダクションビジネスの高いポテンシャル

■ビジネス展開の幅広さ
UUUMの売上は8割以上がYouTubeの広告収入と企業からの広告収入であるが、カバーやANYCOLORのような事務所はキャラクター性が強く、グッズやデジタルコンテンツの販売が売上の大部分を占めている。

また、VTuberのアバターがアニメーション風であるため、マンガ、アニメ、ゲーム、音楽などのメディア展開が容易であり、コマース分野が売上の大きな柱となっている。

■初期投資や固定費が少ない
そもそも芸能プロダクションの経営では、初期投資はほとんどかからない。また、ほぼ変動費であり、人(VTuber)に依存している。

そのため、初期投資がそれほど必要でなく、急成長するモデルで深い赤字を出すことはない。

■一定の参入障壁がある
机一つで始められるVTuberプロダクションではあるが、そのノウハウは高度なものである。

具体的には、テクノロジー✕IPエンタメ戦略✕プロダクション運営のスキル・ノウハウが必要であり、実際には参入障壁が高いと言える。既存の芸能プロダクションが簡単に参入できる市場ではない。

【リスク】

Youtuberなどと比べて、VTuberを楽しむファン層がまだまだ少ない。ただし、グローバルでVTuberファンは急成長中である。


以上を踏まえて、VTuberプロダクションのKSF(Key Success Factor)を炙り出してみます。

VTuberプロダクションのKSF(Key Success Factor)

【①】VTuberの活動をどれだけ広げることができるか?

  • VTuberを人気のある状態に育て、VTuberの活動を継続的にサポートすること

  • また、タレントの個人の影響力に依存するのではなく、流行の移り変わりに左右されないように、安定的にファンがつき続ける仕組みを構築することが重要

【②】広げた活動でいかに収益を上げ、所属VTuberに還元するか?

  • 収益の源泉であるIPライセンス部分をホールドし、IPビジネスを展開するとともに、タレントの流出を防ぐこと

  • Youtuber同士のコラボレーション機会の提供、ライブ活動、企業タイアップはもちろん、IPのライセンスアウトによるマーチャンダイジングや、アニメ化・ゲーム化・漫画化などのメディアミックスの実施などの活動や収益機会の提供

【③】タレントの盛り上がりを一過性で終わらせない仕組みをどれだけ構築できるか?

  • 一過性のトレンドで終わらないことを目的にしたファンのコミュニティ化。具体的には、ファンコミュニティの運営のサポート

  • タレント単体ではなく、グループ全体を推すための仕掛け(箱推し状態の構築)

  • タレントが継続的に生まれ、育つための仕組み化

そして、こうした活動を通じて、VTuberにとって所属する魅力の大きいプロダクションであり続けることが重要である。これらのエコシステムが大きくなればなるほど、プロダクションは自ずと成長していく可能性があります。

では、こうした特性を踏まえてカバー社は一体どういった戦略を行っているのでしょうか?後編では有価証券届出書から読み解いてみます。

後編はこちら

(参考)
https://www.ipokiso.com/company/2023/cover-corp.html
https://www.gamebusiness.jp/article/2023/02/21/21385.html
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2302/24/news064_2.html
https://note.com/bizdave/n/n83cdaf14b3e0
https://note.com/kojiro001/n/n4b73b18a04de


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