【後半】営業利益56%増に上方修正!VTuberプロダクション「カバー」をMBAの視点で徹底解剖!
この記事では、2023年3月27日に東証グロース市場に上場した「カバー」について、VTuberプロダクション市場の特性を踏まえ、そのビジネスモデルの強みとリスクを分析していきます。
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以下は、前編で述べたVTuberプロダクションで成功するための要素=KSF(Key Success Factor)です。
では、こうした特性を踏まえてカバー社は一体どういった戦略を行っているのでしょうか?後編では有価証券届出書から読み解いてみます。
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①VTuber活動や収益還元の幅をいかに広げることができるか?
②広げた活動でいかに収益を上げ、所属VTuberに還元するか?
IPをホールドしている
まず資料の中で最初に述べられているのは、IP権利を保有していることです。
IP(知的財産)ビジネスとは「知的財産」を使い、ライセンス使用料などの収益を得るビジネスモデルのこと。 IPとは、知的財産を英語で表す「Intellectual Property」の略です。IPを保有する企業は、IPを何度も利活用することで、ライセンス使用料でビジネスを展開することができます。
カバー株式会社の有価証券届出書では、直接的な収益にくわえて、MD(マーチャンダイジング/グッズ販売)やライセンスビジネス=二次売上の重要性も強く訴求されています。
派生するコマースの売上は、1キャラクターあたり年間2億円だとされており、所属VTuberは約70名ということなので、これだけで140億円となります。
演者ではなく、IPとしてのマネジメント方法
カバー株式会社のセグメント別の売上を見ると以下のようになっています。
演者による配信とライブ活動による売上(=いわゆるIPビジネスでいう『一次売上』)は約半分です。
それ以外の半分はMDやライセンス収入などの『二次売上』となっています。
・配信(スーパーチャット/メンバーシップ):38.4%
・ライブイベント:16.1%
・マーチャンダイジング:35.3%
・ライセンスタイアップ:10%
特に2023年度3月期では配信やライブで稼ぐ売上よりも、それ以外での売上、つまり「IPビジネス」の比率が大きいように見えます。これにより、彼等は、より利益率の高いビジネスを展開できます。
VTuberとしての活動はもちろん、IPとしての収益が大きな比重を占めるようになっているようです。
自社サイトを経由したグッズ販売
また、特筆すべきはMD(グッズ販売)が主に自社EC「hololive production OFFICIAL SHOP」で行われている点です。
これはどういうことかというと、基本的にはECを利用しようと思った場合、AmazonといったECプラットフォームを活用するのですが、この方法は手軽な分、手数料が取られてしまいます。
もちろん始めやすいという点では他社のプラットフォームを活用するのも一つの手ですが、取引量が多くなると無視できない手数料となります。しかし、自社ECを利用すれば、そうした手数料はかからないため、利益率に大きく影響してくるのです。
ライセンス/タイアップ
ライセンス/タイアップとは、企業のプロモーションとしてIPを活用することです。ここで特筆すべきは、VTuberの場合、タイアップ先が広く、例えば「ゲーム」などともコラボレーションが可能である点です。
また、タイアップ広告などでは、通常インフルエンサーが体験する必要がありますが、VTuberでは直接的な稼働が発生しません。そのため、効率は非常に良いです。
その辺りも有価証券届出書のなかでシッカリと訴求されています。
③タレントの盛り上がりを一過性で終わらせない仕組みをいかに構築できるか?
エンターテインメントビジネスでは、トレンドの変化が速いです。つまり、急激に流行が訪れますが、廃れるのも早いのです。
特に、VTuberの主なターゲット層である若者ではそれが顕著でしょう。
そのため、エンターテインメントビジネスのプロデューサーは、ヒット作品を生み出すことと同じくらい、いかにヒットしたコンテンツの寿命を延ばすかについても悩んでいます。
では、こうしたトレンドの流行り廃りにカバー株式会社はどのようなアプローチを行っているのでしょうか?
ユニットでのプロデュース
カバー株式会社では、個別のVTuber IPの開発に加えて、VTuber・バーチャルアイドルグループ「hololive」のようなグループIPや、統一感のあるキャラクター・コンセプトや世界観を前提とした「秘密結社holoX(ホロックス)」のような「ユニットIP」をプロデュースしています。
これはいわゆる「箱推し」と言われる状態を作り出しているともいえるでしょう。
「箱推し状態」とは、ファンがグループ全体を応援する状態のことを指します。
この状態になると、ファンは個々のメンバーだけでなく、グループ全体に対して応援し、支援することが一般的です。ビジネス的な観点から、「箱推し状態」を作り出す理由はいくつかあります。
・収益の安定化:
箱推し状態にあるファンは、グループ全体に対して投資する傾向があります。これにより、グッズ販売やライブチケットなどの売上が安定し、収益が向上する可能性が高まります。
・メンバーの入れ替わりへの対応:
アイドルグループでは、メンバーの卒業や加入が頻繁に起こります。箱推し状態のファンは、新メンバーや卒業したメンバーに関わらず、グループ全体を支援し続けるため、メンバーの変動に対しても影響が少なくなります。
・グループのブランド力向上:
箱推し状態のファンが増えることで、アイドルグループのブランド力が高まります。
つまり、IP単体のファンからグループ・ユニット全体のファンへのシフトを促すことで、IP単体の人気による一本足打法や、流行り廃りに左右されなにくい状態を作ることができます。
二次創作の推奨
二次創作とは、既存の作品を何らかの形で利用し、派生的に新たな作品を創作する表現行為のことです。
著作権的にはグレーな部分が多いものの、ファンの熱量を高めるためや、作品がさらに成長するためには欠かせません。
カバー株式会社では、このようなファンによる二次創作を推奨しています。
具体的には、YouTubeなどでの切り抜き動画を認めることにより、多くの切り抜き動画が存在しています。累積動画コンテンツ供給数は約6.3万本であり、それらの動画コンテンツの累計再生回数は約98億回にのぼると言われています。
デビュー体制
また、カバー株式会社には、質の高い魅力的なIPを継続的にデビューさせる企画・制作体制が整っているとされています。
オーディションにより選ばれた演者や、影響力の大きい外部クリエイターとコラボレーションしながら、チーム全体でIPを盛り上げることに力を入れています。
その結果、新規のVTuberでもデビュー時から大規模な集客を行うことが可能だと言われています。
まとめ
上記のような仕組みにより、カバー株式会社は単なるVTuberプロダクションにとどまらず、超高収益、且つ、継続的なIPビジネスを展開しています。
こうした営みが売上高 約200億円、営業利益率16%(23年3月期)という結果を叩き出しているのでしょう。
彼らは今後さらに「メタバース企画」を推進することで、なんと営業利益率30%を目指しているといいます。
これまでと全く異なる新しい形で「IPビジネス」を展開するカバー株式会社。今後も注目したい企業のひとつです。
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