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もし宮崎駿が再びアカデミー賞を獲得したら?ーアニメ産業への波及効果とその課題

※本記事は個人的見解・意見を述べるものであり、所属する組織の公式見解を示すものではございません。また、本記事に登場する内容はすべて公開情報、及び一般論であり、業務上知り得た機密情報などは一切含みません。
※トップ画像はスタジオジブリの作品静止画(https://www.ghibli.jp/works/kimitachi/#frame)から拝借をいたしました。

少し時間が経ってしまいましたが、『君たちはどう生きるか?』が第81回ゴールデングローブ賞の最優秀長編アニメーション映画賞を受賞しました。

ご存知の通り、ゴールデングローブ賞はアカデミー賞の前哨戦とされており、この受賞で2度目のオスカー受賞への期待が高まっています。

『Rotten Tomatoes』のレビューからみる4つの評価ポイント

そもそも、日本だと評価が真っ二つに別れた本作。ところが、海外での評価は非常に多くのポジティブな声が上がっています。

米国の映画評論サイト、『Rotten Tomatoes』のレビューをチェックしてみると、主に4つのポイントで評価されていることが分かります。

①ベースにある宮崎駿監督の知名度と評価の高さ
宮崎駿監督のこれまでの実績とブランド力は、海外でも絶大な影響力を持っています。

『千と千尋の神隠し』や『風立ちぬ』など、過去の作品で得た高い評価とファンの支持が、最新作の評価にも寄与しているようです。

②遺産としての位置付け
宮崎駿監督は1941年生まれで、今年83歳。年齢とキャリアを考えると、この作品が監督の最後の作品と考える人は多いです。

レジェンドでありながらも、依然として新たな手法に挑戦し続けており、その情熱が評価の一因になっています。

③手描きアニメーションの美しさと創造性
ジブリ作品の魅力は、何と言ってもアニメーションの美しさにあります。

レビューでは、アニメーションの細部にわたる美しさや、独創的なビジュアルが称賛されています。

④物語とテーマの深さ
一般的に映画賞では、自伝や個人的な感情を描いた作品が対象になることがあるようです。

本作は監督の「自伝的ファンタジー」とも呼ばれ、監督の幼少期のエピソードが描かれています。独自の創造性やオリジナリティが高評価を受けています。

『君たち~』がオスカーを受賞すれば、日本のアニメ産業にはどんなことが起こるか?

2003年、宮崎駿監督は『千と千尋』でオスカー(長編アニメ映画賞)を受賞しました。

『日本のアニメ監督はいかにして世界へ打って出たのか?』によると、この年の宮崎監督の活躍により、日本のアニメ監督が海外で認知を挙げるルートが確立。国内で才能ある監督が、次々に世界に出ていく流れができあがったそうです。

そして今回、もしまた監督がオスカーを受賞すれば、日本のアニメを始めとする「ジャパニーズコンテンツ」が世界でさらに注目を集めることでしょう。

2023年には、『すずめの戸締まり』や『THE FIRST SLAM DUNK』など、多くの日本作品が海外で人気を博し、『【推しの子】』の主題歌「アイドル」は全米グローバルチャートで1位を獲得しました。

また、実写映画『ゴジラー1.0』は歴代興行収入で2位にランクインするなど、日本コンテンツの存在感は超絶の高まりをみせています。

さらに、再びオスカーを受賞するとなると、当然この流れは加速します。

そして、こうした流れのなかで、アニメ業界はこれまで抱えてきた問題解決に着手しつつあります。

24年に業界で加速するであろう流れとして、2つのトピックをピックアップします。

「大手によるアニメーションスタジオのM&A」や「内製化」


ここ数年のグローバル化により、アニメコンテンツの需要は爆増。更には、世界中のファンからの期待度も高まっており、クオリティも手が抜けません。

しかし、アニメクリエーターは数が限られており、制作環境は常に圧迫されている状況です。これは、供給が需要に追いついていないことを意味します。さらに、経営面での課題を抱えているスタジオも少なくありません。

このような状況の中、「高品質なアニメーション制作をいかにして安定的に行うか?」という問題が、かつてないほど重要になっています。

その結果、昨年話題となった日本テレビのジブリ買収などにみられる「大手によるアニメーションスタジオのM&A」や「内製化」の動きがさらに進むと予想されます。

実際に、「コンテンツ産業の展望 2022(みずほ銀行)」では、クオリティコントロールを目的とした内製化について大きく言及されており、業界はこの動きを追っています。

※一方で、クリエーターの労働環境に関する問題は依然として多く存在します。しかし、近年では制作費の上昇傾向が見られ、状況の改善が期待されています。それでもなお、クリエーターの制作環境の問題は、業界全体で取り組むべき課題です。

「グッズ」のグローバル展開の加速


よく言われるように、日本のアニメ産業には、「狭義」と「広義」という2つの市場があります。

「狭義のアニメ産業」はアニメ制作とその放映からの直接収益で、市場規模は約3,000億円。

一方で「広義のアニメ産業」は主題歌、キャラクターグッズ、ゲームソフトなどアニメ関連ビジネスを含み、市場規模はなんと約2兆7,000億円に達します。アニメ産業は関連ビジネスのほうが遥かに大きいのです(アニメ産業レポート2022より)

なかでも、アニメグッズ販売等の商品化セグメントは大きな市場を占め、その規模は約7,000億円にもなります。

しかしながら、こと海外においては高いニーズがあるにも関わらず、グッズ展開はまだまだアプローチが弱いのが実情です(背景には、扱ってくれる店舗や棚の問題、トレンドの読みづらさ、ライセンス管理の複雑さ、各国の法令などの課題があると言われています)

そうした状況に近年、各IPホルダーやグッズメーカーは、とうとう重い腰を上げつつあります。

例えば、去年11月の小学館はアニメグッズのECなどを手掛ける「Tokyo Otaku Mode」を完全子会社化しました。また、海外展開を強化するアニメイトが「アニメイトロサンゼルス」をオープンするなど、海外展開を更に強化しつつあります。

広義のアニメ産業の市場規模:2兆7,000億円のうち、約1兆3,000億円、つまり半分が海外からの売上です。

2024年は、制作体制の強化とグッズ展開の推進が、アニメ産業における主要なトピックとなると思っています。

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