スポーツは人を大人にするか？
今回は、内田樹著「寝ながら学べる構造主義」を読んで
「スポーツが人を大人にするか？」というテーマを考えました。
「構造主義」を簡単に言うと、「物事を成立させている仕組み(構造)を分析し、人間の様々なことを明らかにしようとする思想」です。
1960年代にフランスで誕生し、人類学や言語学など、現代思想のあらゆるところに影響を及ぼしています。
本著は構造主義の入門書という位置付けで、構造主義の代表的な思想家たちの主張を分かりやすく解説してくれています。
今回はその中からジャック・ラカンの主張を取り上げ「大人になること」について考えていこうと思います。
**大人になるとは **
結論から言ってしまうと「成熟＝大人になる」ということは、
おのれの無力と無能さゆえ叶わない「自己認識」と「自己実現」を、自分より強大な力を持つ、「不条理」なものの介入の結果と納得する
こととラカンは主張します。
多くの子供はこの過程を、異性の親から同姓の親によって引き剥がされることによって経験します。
男の子を例にすると、
男の子は生まれたばかりの頃は、母親と自分との区別さえついていません。
ものごころついてからも「母親は自分だけのもの」と疑うことはありません。
よく、子どもが「お父さん/お母さんと結婚する！」と言ったりしますが、それは「異性の親を自分だけのものにしたい」という欲求の現れです。
しかし、その欲求は「同姓の親」の存在により絶対に叶うことはありません。
子供は、既に「異性の親」を手に入れている「同姓の親」という絶対的な存在の介入によって、「異性の親を自分だけのものにする」という望みを諦めます。
これを、構造主義では「成熟」と呼びます。
大人になるということは、自分の無力さにより叶わない望みを「絶対的な存在」のせいにして受け入れることが出来るようになることなのです。
**スポーツは人を大人にする **
それでは、スポーツにおいてこの構造は当てはまるのでしょうか？
スポーツをはじめた時、多くの子どもが「あの選手みたいになりたい」とか「プロサッカー選手になりたい」とか「全国大会優勝」したいと考えています。
いわゆる「夢」ですね。
その純粋さは、その願いがほぼ叶うと信じているくらいで、それは夢と自身の一体化と言ってもいいでしょう。
しかし、その一体化は敗北、絶対的なライバル、怪我などによってビリビリと剥がされていきます。
そして、多くの人がスポーツをはじめた時に理想としていた自分になれず、それを上記のような不条理な力のせいにし、納得します。
これは、この「渇望」→「挑戦」→「挫折」→「諦め」という流れはスポーツに限らず受験や文化活動、恋愛などにも当てはまるプロセスだと思います。
ただ、スポーツは「挑戦の数が圧倒的に多い」という点において、他より抜きん出ています。
受験や恋愛は１度成功or失敗してしまうと中々次のチャンスは訪れませんが、スポーツは挑戦のチャンスが次々とやって来ます。
もし成功したとしても、レベルが上に上がれば新たな挑戦が待っているし、
もし失敗したとしても、次の試合が待っています。
その圧倒的数の挑戦のなかで、アスリートは挫折し、諦め、大人になっていきます。
諦めというとそこで物語が終わりのような気もしますが、物語は続いていきます。
ワールドカップで得点王を夢見たサッカー少年が、諦めを繰り返す内に、DFでその活躍の場所を得る。
それも一つの諦めです。
そして、諦めを学び大人になるためには一つの条件があると僕は思います。
それは「本気」で渇望し挑戦し挫折し諦めることです。
「俺はまだ本気を出していないだけ」とベストを尽くさなければ、そこには「もしも」が積もるだけで成熟は望めません。
そんなことを繰り返しても「架空の自分」が肥大化したモンスターが出来上がるだけです。
僕たちに出来るのは、渇望し挑戦し挫折し諦め、諦めた先でまたベストを尽くす。それだけだと思います。
ps
皆さんが挑戦して諦めたことはなんですか？
それによって人生は良くなったと感じますか？悪くなったと感じますか？
もし良かったら教えてください。
僕は、大学4年の日本インターカレッジのレースで陸上「選手」としての自分を諦めました。
それによって人生は良くなりました。
今回読んだ本
寝ながら学ぶ構造主義
内田樹
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