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『経済セミナー』2024年4・5月号の見どころ紹介!

このnoteでは、『経済セミナー』2024年4・5月号の見どころをご紹介します!
今号の特集テーマは「経済学で格差を読み解く」です!

特集のきっかけ・ねらい
所得・賃金格差、教育格差、男女間(ジェンダー間)格差など社会にはさまざまな格差問題があります。

特に学部生・大学院生の皆様は、多様なバックグラウンドを持った人々が集まる大学という場で、こうした格差問題に当事者として直面することがあると思います。

そこで、学生の皆様に社会経済の問題を考える上での「自分なりの問題意識」を見つけていただきたいと考え、新学期最初の号で格差を取り上げることにしました。本特集が卒業論文や修士論文などのテーマを見つけるきっかけになれば幸いです。

今号のラインナップは以下の通りです:

■ 特集 「経済学で格差を読み解く」

■ 【鼎談】 格差はどこから生まれるのか? 身近な社会問題から考える

巻頭の鼎談は横山泉よこやまいずみ先生、鳥谷部貴大とりやべたかひろ先生、山重慎二やましげしんじ先生(3名とも一橋大学)による鼎談「格差はどこから生まれるのか? 身近な社会問題から考える」です!

今回の鼎談では、大きく次の3つのトピックを取り上げています。

  • 労働・雇用形態:正規・非正規雇用間の格差

  • 教育・スキル:スキルの形成・利用による格差

  • ジェンダー:役割の違いや社会規範による男女間格差

労働・雇用形態の問題については横山先生、教育・スキルの問題については鳥谷部先生、ジェンダーに関する問題については山重先生に中心的にご解説いただきました。

ですが、格差は上に挙げたようにきれいにトピックを切り分けられる問題ではありません。たとえば、雇用形態の違いにはスキルの高さやジェンダーが関連しますし、スキルの利用の問題はジェンダーごとの差につながっています。

鼎談では、このように複合的に絡み合う格差の問題を、3人の先生方が多角的な議論を通じて解きほぐし、経済学の知見から格差のメカニズムについて考察しています!

■ 最低賃金の引き上げは格差の縮小に貢献するのか?

津田塾大学の森悠子もりゆうこ先生による記事です!

直感的には最低賃金の引き上げは労働者の賃金を引き上げたり、雇用を縮小させたりすると予想されます。しかし、実証研究の結果を見ると、実は最低賃金が与える影響はそれほど自明ではありません。

最低賃金引き上げ政策は

  • 誰(どのような属性を持った層)に影響するのか?

  • 何に影響を与えるのか?(例:賃金、雇用、財の価格…etc)

といった点を考える必要があります。
森先生の記事では上記のポイントに沿って最低賃金に関する研究のレビューに加えて、格差縮小という観点から最低賃金政策についての考察を行っています。

森先生は東京大学の川口大司先生と共著で最低賃金の論文を執筆されています。下記のリンクからご覧ください!

Kawaguchi and Mori (2021)へのリンク

■ 教育は将来の格差解消につながるのか?

神戸大学の佐野晋平さのしんぺい先生の記事です!

経済学では教育を「人的資本への投資」と考えます。つまり、教育はスキルの形成・蓄積を通じて、賃金など労働市場での成果につながります。

今回の記事では、人的資本投資や教育の生産関数など教育経済学の基本的なフレームワークを概説しつつ、教育(政策)を通じた格差へのアプローチを解説しています。

今回の記事の特徴は、日本のエビデンスを中心に紹介している点です。日本では、教育に関するデータの整備・利用がアメリカなどの先進的な取り組みを行う国々に比べて遅れています。本記事では、長期的な視点も含めて教育政策の展望をまとめています。

■ 職業スキルと男女賃金格差

シカゴ大学ラルフ・ルイス記念特別社会学教授、山口一男やまぐちかずお先生の記事です!

本記事では、職業スキルに着目し男女間格差のメカニズムを実証的に論じています。

本記事では、「職業スキル」として「科学技術スキル」と「対人サービススキル」の2つを取り上げています。前者は、数理的な思考力やプログラミングなどのスキルを指し、後者は保育や看護といったケアサービスを中心とした職業に必要なスキルを指します。

2つの職業スキルに対する実証分析を通じて、男女間格差に対する政策的対応を考察していく本記事はかなり読み応えがあります!


■ 連載

■ 【新連載!】 はじめてのマクロ経済学 vol.1

マクロ経済学の事始め

盛本圭一もりもとけいいち先生(明治大学)による初学者向けの新連載です!
マクロ経済学の基礎的な内容から丁寧に説明していきます。

初回は、GDPなどの重要なマクロ経済指標やマクロ経済学における大事な原則についての解説を行いました。

学部生で今まさにマクロ経済学を勉強している学生の読者の皆様はもちろん、「GDPってよく聞くし、昔高校や大学の授業で習った気がするけどよくわからないな…」という社会人の方にも学び直しに最適な内容となっています。

■ 【新連載!】 社会保障のこれまでとこれから 福祉国家と実証経済学の視点 vol.1

福祉国家と実証経済学の交差点

こちらも新連載! 安藤道人あんどうみちひと先生(立教大学)が執筆します。
社会保障と実証経済学の橋渡しとなるような内容を取り上げていく連載企画です。

本連載では、教育・所得保障・医療・ケアといった広く社会保障に含まれるトピックを扱います。本企画は実証経済学の視点だけでなく、福祉国家研究と呼ばれる、経済学の研究とは異なる文脈からの視点も取り上げ、包括的に社会保障を議論していきます。

第1回は「そもそも福祉国家とは何か?」という問いに始まり、連載で取り上げていく対象や、着眼点を整理します。

■ 【最終回】 新しい環境経済学:実証ミクロアプローチ vol. 9

気候変動の社会的費用を考える (2)──新しいSCCへ

小西祥文こにしよしふみ先生による連載は今回で最終回!

今回は、第8回の後編という位置付けで、「SCC(Social Cost of Carbon)をどのように推定するか」というテーマを議論しています。

環境に対する社会的なコストを測定することは技術的に非常に難しい問題です。2020年以降の新しい研究動向に沿って、SCCの推定に関する問題を整理しており、非常に読み応えがある内容となっています!

第9回のWeb付録はこちらから!


■ マクロ開発経済学 vol.12

サービス産業化と新しいカルドアの定型化された事実

植田健一うえだけんいち先生による連載です!
今回の内容は特集テーマである格差問題にも関連します。

農業→工業→サービス業という産業構造の転換に対する考察を行い、その上で経済成長において何が重要かを示します。工業からサービス産業への転換は実は必ずしも自明でなく、どのようなサービス産業が経済成長に寄与するのか?

キーワードはスキルです。高スキル労働者に偏った技術変化は、特集でも重要なポイントの1つとして登場します。今回は家事労働なども含めたモデルによる検討も行われています。


■ どうする独裁者 数理・データ分析で考える権威主義 vol.5

独裁者に平穏なし──暗殺と粛清のスパイラル

浅古泰史あさこやすし東島雅昌ひがしじままさあき先生による連載。今回のテーマは「暗殺・粛清」です。

クーデター以外に、独裁者に対する対抗する手段の1つとして「暗殺」が挙げられます。クーデターのように用意周到に調整を必要とする行為とは異なり、新体制での立場や身分の保証はありません。

また、独裁者もいつ命を狙われるかわからないため疑心暗鬼に満ち満ちた日々を送ります。時には無実の人も巻き込んで「粛清」を行います。

今回の記事では、データを用いた実証分析・数理的な分析によって暗殺や粛清のメカニズムに迫ります(第5回は浅古先生と東島先生の合作です)!

第5回のWeb付録はこちらから!


■ データで社会をデザインする 機械学習・因果推論・経済学の融合 vol.16

実験デザイン (3)──最適腕識別

成田悠輔なりたゆうすけ矢田紘平やたこうへい先生による連載は第16回まできました!

今回は、前回・前々回に引き続きよりよい実験デザインを追求していきます。

第3編となる今回は、第14、15回で紹介した実験デザインを拡張し、未解決問題や今後の展望を示すという位置付けとなっています。より柔軟に、また動学的な実験デザインを考察します。

関心のある読者の皆様は、ぜひ第14回(2023年12・2024年1月号)、第15回(2024年2・3月号)もあわせてご覧いただくと理解が深まります!

■ 海外論文SURVEY vol.128

持ち家は子どもへのコミットメント?

御子柴みこしばみなもさんによる解説です! 今回、初の海外論文サーベイのご寄稿となりました。

住宅資産を持つことは、高齢期における貯蓄、消費行動や世代間移転においてどのようなはたらきをするのでしょうか? シミュレーションを用いた分析から得られる解釈について丁寧に解説します。

原論文(Barczyk, Fahle, and Kredler 2023)はこちら! ↓


■ おわりに

『経済セミナー』2024年4・5月号の特集「経済学で格差を読み解く」の見どころをざっと紹介させていただきました!

コチラでは簡単に立ち読みもできます。

ぜひお手に取ってご覧いただけたら幸いです!

サポートに限らず、どんなリアクションでも大変ありがたく思います。リクエスト等々もぜひお送りいただけたら幸いです。本誌とあわあせて、今後もコンテンツ充実に努めて参りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。