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市場のダイナミクスから利益構造を見通す:連載「実証ビジエコ」第11回より

『経セミ』2021年4・5月号から始まった連載、上武康亮・遠山祐太・若森直樹・渡辺安虎「実証ビジネス・エコノミクス」。早いもので、この2023年4・5月号で第11回となりました!

前々回=第9回(2022年10・11月号)から始まった「動学ゲームの推定」編も、モデルと推定の概観、疑似データを生成・活用したモデルの挙動の確認に続き、今回で3回目。今回は、いよいよモデルのパラメターを推定していきます!

動学ゲームの推定編では、消費者の反応だけはなく、競合、ライバル会社がどう動いてくるかもふまえて経営戦略を考えるという問題にチャレンジしてきました。この問題は、「参入ゲームの推定」編(第5回第6回)で扱った問題をさらに拡張し、自社とライバルの行動の読み合いで常に変化する競争環境を分析するために、競争環境をゲーム理論的な構造のもとで "ダイナミック" に捉えて、競争優位につながる戦略を構築するという目的を達成するためにどんな分析を進めていけばよいかを考ていきます。

前回(第10回)は、2社によるダイナミックな参入ゲームのモデルの性質をより深く理解するために、企業行動と市場構造を記録した疑似的なデータを発生させ、モデルの性質と挙動を吟味しました。

今回(第11回)は、改めて動学ゲームのモデルのポイントをおさらいしたうえで、推定方法をステップ・バイ・ステップで解説し、実際にパラメターを推定します。

このnoteでは、連載第11回の内容紹介と、ウェブ付録のご案内を行います。今回は、疑似データの生成から、本文で扱った推定方法に基づいてパラメターの推定値と標準誤差を導出します。コードと見比べながら本文をご覧いただくことでより理解が深まると思いますので、ぜひ両者をあわせてご利用いただけたら幸いです。
なお今回も、サポートサイトではMATLABRよる分析コードを公開しています(第10回の分析コードとあわせて、今回のページで提供しています)。コードの中にかなり詳細な解説が付いているので、本誌とわせてご覧いただくことで理解が深まるはず!)

第11回のサポートサイトは【こちら】です:

連載「実証ビジネス・エコノミクス」サポートサイト

なお、過去の連載各回の紹介は、以下のnoteマガジンにまとめています。本連載のガイダンス+著者たちが意気込みを語った第1回は、本文の試し読みもできます。ぜひ覗いてみてください!

また、前回(第10回)の本文および分析コードに修正の必要な箇所がみつかりました(第11回の掲載記事、注4でも言及しています)。お詫びして訂正いたします。訂正情報の詳細は、連載第10回のサポートサイト【こちら】をご覧ください(なお、2023年3月21日以降にアップされているコードでは、ここでの誤りは修正されています)。

今回の連載(第11回)が掲載されている『経済セミナー』2023年4・5月号の特集は、「経済学でビジネスを動かせ!」です。連載の執筆者の一人である上武康亮先生は、特集にも登場しています(座談会、寄稿)。本連載とも関係のあるテーマ、「ビジネスで経済学を活用する」という視点でさまざまなお話が紹介されているので、こちらもぜひご注目ください!

それでは、前置きはこれくのくらいにして、以下では第10回冒頭の内容を紹介します。引き続き、「最近若年層で話題のハンバーガーチェーン、エールバーガー」からの、首都圏某地域に出店すべきか否かを調査・分析してほしいというご依頼にお答えすべく奮闘していますが、今回は上司と推定手法について検討しているシーンから始まります。

■ 第11回:1節より

ケース:あるハンバーガーチェーンの悩み~その3~

最近若年層で話題のハンバーガーチェーンであるエールバーガーの依頼を受けて、都内の一等地に新規出店すべきか否かを、動学ゲームのモデルを用いて分析する方針を固めたあなた。先輩の助言に従って、まずはモデルの性質を見極めるために数値計算に取り組んで疑似データの生成を行い、ついにモデルを推定する段階までたどりついた。すると、今度は上司から「動学ゲームの推定手法は複数あり、近年はBajari, Benkard and Levin (2007:BBL[1]) の提唱した手法がよく使われているが、現在検討しているモデルであればBBLよりも簡単に推定できる手法もあるはずだ。まずは、そちらの推定手法から試してはどうか」とBBL以外の手法をすすめられ、いくつかの関連論文のファイルが送られてきた。そこで、あなたは上司のアドバイスに従い、BBL以外の推定手法も勉強して実装に取り組んでみることにした。

[1] Bajari, P., Benkard, C. L. and Levin, J.(2007)Estimating Dynamic Models of Imperfect Competition,” Econometrica, 75(5): 1331-1370.

------------- 第2節以降は、ぜひ本誌をご覧ください -------------

■ 第11回のウェブ付録

このように、今回はいくつかある動学ゲームの推定手法の中で、第9回でも紹介し、今回の第1節でも言及されていた「BBL」の手法に加えて、「Pesendorfer and Schmidt-Dengler (2008:P-SD) [2]」の手法を解説します。P-SDの推定方法は、今回の出店戦略のモデルのように、企業の意思決定が離散変数のみの場合に用いることのできる手法の1つで、より一般的に用いることのできるBBLの手法よりも簡単に推定を行うことができます。そのため、今回はまずP-SDの手法から丁寧に解説し、推定結果も吟味していくことにします。

[2] Pesendorfer, M. and Schmidt-Dengler, P. (2008)Asymptotic Least Squares Estimators for Dynamic Games,” Review of Economic Studies, 75(3): 901-928.

分析内容の詳細は、ぜひ【サポートサイト】にアップロードされたコードと、その中に付されている解説を、本誌記事とあわせてご覧いただければと思います。なお、MATLABとRのそれぞれについてファイル構成を明記していますが、基本的には両者はパラレルに対応する形になっています。

コードの概要
コードの説明(MATLAB)
コードの説明(R)

なお、今回はMATLABというソフトも用いて分析コードを作成し、実行しています。MATLABをお持ちでないけれども、MATLABコードも回してみたい!という方は、「Octave」(GNU Octave)というフリーの数値計算用ソフトウェアを用いることで、今回提供しているコードをそのまま実行することが可能です。

GNU Octaveは以下のウェブページからダウンロードが可能です(なお、編集部ではWindows版のバージョン「octave-7.3.0」で実行確認を行いました)。

ダウンロードページの以下の部分から、ご自身の環境に合うものをダウンロード・インストールすれば、すぐにご利用いただけます。

なお、マニュアルは以下のサイトからもご覧いただくことができます。

■ おわりに

以上、経セミ連載=上武康亮・遠山祐太・若森直樹・渡辺安虎「実証ビジネス・エコノミクス」の第11回の内容とウェブサポートのご案内をいたしました。

連載も終盤が近づき、扱う問題がかなり現実的になってきている一方、分析はかなり難しくなってきているかもしれませんが、引き続き実証分析の実践的な側面を重視しつつ、マーケティングや経営戦略の意思決定などなど、ビジネスで活用できる経済学の理論と実証分析に関する学びの場を提供していきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。

なお、第11回を掲載している『経セミ』2023年4・5月号の特集「経済学でビジネスを動かせ!」では、上武先生も参加して、以下のようなラインナップでお送りしています! 

  • Sansanやサイバーエージェント、ZOZOなどといったテック企業での経済学の実践例、

  • 東京大学エコノミックコンサルティングによるクライアント企業への経済分析を通じた価値の提供、

  • 株式会社エコノミクスデザインが行った経済理論に基づく商品評価集計(レーティング)システムの設計、

  • 東京大学マーケットデザインセンターが実践したマッチング理論の新入社員配属制度への実装,

などなど、具体的な経済学の実践例と、それを可能にするスキル・知識の習得について、登壇者・執筆者の実体験に基づいて詳細にディスカッションしていきます。

『経済セミナー』2023年4・5月号、特集「経済学でビジネスを動かせ!」

本連載とも関連の深い内容となっていますので、ぜひご覧ください!


サポートに限らず、どんなリアクションでも大変ありがたく思います。リクエスト等々もぜひお送りいただけたら幸いです。本誌とあわあせて、今後もコンテンツ充実に努めて参りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。