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金融庁の無理難題「企業価値担保権」は地方銀行で活用可能か?

「企業価値担保権」という新しい融資の形態が、日本の金融業界へ導入される可能性があります。

この記事では、企業価値担保権の基本から、その評価方法、そして金融庁がどのようにこの新しい制度を推進しようとしているのかをわかりやすく解説します。

スタートアップから中小企業まで、これからの融資にどう影響するのか考察します。


企業価値担保権とは?

新しい融資形態の「企業価値担保権」は、事業性融資促進法に基づき導入が検討されています。

この担保権は、従来の不動産等ではなく、企業の技術力や成長性などの無形資産を評価対象とし、資金調達の機会を広げることを目的としています。

有形資産の乏しいスタートアップ企業などにとって、資金調達の新たな手段になるでしょう。


企業価値担保権の基本的な概念

企業価値担保権の概念は、企業の将来性を評価し、企業の成長ポテンシャルに基づいて資金提供を行うものです。

しかし、これには企業の正確な価値を見極める高度な分析技術が必要です。

人材不足の地方銀行にとっては、この担保権を取り扱うのは大きな課題でしょう。

法的な観点からも、企業価値の評価方法やそれに基づく融資の手続きは、既存の枠組みを大きく変える可能性があります。


企業価値とは?

では、企業価値とは何でしょうか。

ビジネスの文脈で「企業価値」という用語を使うビジネスパーソンは多いですが、説明できる人はほとんどいません。

これは、銀行員でも同様です。

一般的な銀行員の多くはファイナンスの知識を持っていません
また、地方銀行の場合はより顕著です。

企業価値(valuation)とは、企業が持つ経済的な価値を数値で表したものです。

この価値は、投資家等が投資する際の重要な判断基準となります。

企業価値の理解は、M&Aや資金調達など、経営戦略上で非常に重要です。


企業価値の計算方法

企業価値を計算する方法はいくつかありますが、主に以下の三つのアプローチがあります。

  1. 収益ベースのアプローチ(DCF法など)
    最も一般的な方法としてDCF法(Discounted Cash Flow:割引現在価値法)があります。将来にわたって企業が生み出すと予測されるキャッシュフローを現在の価値に割り引いて計算します。将来稼ぐ能力を価値として評価します。

  2. 市場ベースのアプローチ
    類似企業や競合他社が株式市場でどのように評価されているかを参考にして算定します。市場における類似企業の株価などを基に、比較を行い企業価値を導き出します。

  3. 資産ベースのアプローチ
    企業が持つ資産の総額から負債を差し引いた「純資産価値」から算定します。簿価ではなく、資産・負債を時価に引き直す「時価純資産法」が一般的です。会社が清算された場合に株主が受け取れる理論上の金額を示しています。


企業価値担保権の企業価値とは?

金融庁は「無形資産を含む事業全体を担保とする」という方針を打ち出しています。

よって適切なアプローチは以下の二つになります。

  1. 収益ベースのアプローチ(DCF法など)

    • 無形資産の価値は、現在の財務状態ではなく、将来の収益性に大きく依存しています。
      例えば、特許やブランド価値、技術力やノウハウ、優秀な人材などがこれに該当します。収益ベースのアプローチは、これらの要素が企業価値にどのように貢献するかを評価し算定します。

  2. 市場ベースのアプローチ

    • 無形資産の価値を含む事業全体を評価する際に、市場データや同業他社との比較を利用すれば、より現実に近い企業価値を導き出すことができます。公開企業の市場データを参照すれば、無形資産が市場評価にどのように反映されているかを把握できます。

二つのアプローチは、無形資産を含む事業全体の価値を評価する上で、異なる角度から有効な方法と考えられます。

収益ベースのアプローチが将来の成長潜力を直接評価するのに対し、市場ベースのアプローチは、市場がどのようにその企業を評価しているかを反映します。

それぞれのアプローチを組み合わせれば、より総合的でバランスの取れた企業評価が行えると考えます。


地方銀行が企業価値評価できるか?

金融庁が推進する「企業価値担保権」の導入は、日本の金融業界に新たな風を吹き込む試みです。

しかし、地方銀行にとっては多くの課題が伴います。

地方銀行が無形資産の価値を適切に評価し、企業価値担保権を実際に活用するのは、以下の理由により困難と考えます。


1. 専門知識不足

地方銀行は、主に不動産や設備投資といった有形資産を担保とする融資が主流であり、無形資産の評価に必要な専門知識や経験が乏しいのが現状です。

無形資産の価値評価は、その性質上、技術力やブランド価値、顧客基盤など、目に見えない要素の定量化が必要です。

これには高度な分析能力と市場に対する深い理解が求められますが、地方銀行にそのような内部人材はいません。


2. 評価基準の確立

無形資産の評価方法には標準化された基準が存在しません。

業界ごと、企業ごとに異なる要因が価値に影響を与えるため、一貫した評価基準の設定が難しいのが実態です。

地方銀行がこれらの基準を自ら設定し、運用するに至るには現状のリソースでは不可能で、時間が必要です。


3. リスク管理の課題

無形資産はその価値が市場状況によって大きく変動する可能性があり、その結果、融資に伴うリスクは加速度的に高まります。

地方銀行にとって、これらのリスクを適切に管理し、健全な融資ポートフォリオを維持するのは困難です。

一般の住宅ローンや、中小企業融資でさえも管理不足が指摘されている状況です。


結論

地方銀行が無形資産を評価し、企業価値担保権を有効に活用するためには、専門知識の向上など組織内部の育成強化が急務でしょう。

金融庁が、新たな担保権の環境整備を進めている現状をみれば、おそらく早い時期には導入されると思います。

しかし、能力不足のまま新たなリスク管理が必要となれば、不良債権化する融資が増えていく可能性もあります。

今後の行方に注視したいと思います。

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