【ドブネズミみたいに】ネズミSF4選【美しくなりたい】

執筆: ボブマン


ネズミ,いいですよね.『トムとジェリー』のジェリーのような可愛らしいイメージがある一方で,深夜の渋谷をうろつくドブネズミのような不衛生で醜いイメージやねずみ男のようなずるがしこいイメージもある.魅力的な生き物です.

この記事では,そんなネズミの魅力を感じることができるSFネズミ作品を4つ紹介します.

なお,様々なバージョンがある作品は,自分が読んだものを紹介しています.


1. ジョージ・オーウェル 『一九八四年』(早川書房, 2009) (原書初版: 1949)

 1984年,世界は3大国に分かれており,ウィンストン・スミスの住むオセアニアは「ビックブラザー」が党首を務める一党独裁体制下にあった.ウィンストンは限度を超えた言論・思考統制やプライバシーの侵害に不満を抱いていた.ジュリアという女性と出会ったことを契機に反政府組織「ブラザー同盟」に加盟するが...

世界的に有名(?)なディストピア小説.政府の強制的支配や思考統制を扱った本作はフィクションの域を超えて評価され,支配的・全体主義的思想や社会を批判する際に引用されることも多い.

 さて,本作においてネズミは,主人公ウィンストンの「最も恐れるもの」として度々登場する.これはウィンストンが戦時中に母親の死体に大量のネズミが群がっていたことを見たためと説明される.最終的にはネズミを使った拷問を嫌がるあまり,反政府活動の全てを白状し,全体主義に飲まれてしまう.現代の日本に住む私には「なぜネズミがそんなに怖いのか」と不思議にも思えるが,著者のオーウェル本人も戦時中に似たようなトラウマがあったのかもしれないなど,こんな快作を生み出した当時の社会に思いを馳せてみるのも面白い.Big Brother is watching you!


2. ダニエル・キイス 『アルジャーノンに花束を[新版]』(早川書房, 2015) (原著初版: 1966)

知能障害を持つ青年チャーリイ・ゴードン.機会に恵まれ,白ネズミのアルジャーノンと共に,大学で知能を向上させる手術を受ける.アルジャーノンと競争しながら知能はめきめきと向上する一方,これまでの自分が虐待やいじめを受けていたことも理解する.やがて並ぶ者のいないほど頭のよくなったチャーリイは孤独を感じるようになる.

映画化,ドラマ化もされ,あのアイザック・アシモフに「どうしたらこんな小説が書けるのか」と言わしめた作品.小説はチャーリイの日記形式で書かれ,知能向上と共に文体が大人びていくトリックにも引き込まれる.

本作に登場するのは実験動物の白ネズミ,アルジャーノンだ.主人公チャーリイと同様の知能向上手術を施されている.手術前のチャーリイにとって,アルジャーノンはただの動物だったが,手術を受けてともに学び成長する中で,アルジャーノンは唯一の気の許せる仲間となる.そして,自身もアルジャーノンと同じくただの実験体として扱われる日々に嫌気がさし,ともに研究室から逃げ出す.ネズミと人間,二人の実験体の友情や待ち受ける運命に注目.


3. 貴志祐介 『新世界より』 (講談社, 2008)

 1000年後の世界,人々は呪力(超能力)を扱えるようになり,自然に囲まれて牧歌的な生活を送っていた.10代の少女,渡辺早紀は学校で呪力の扱い方を学びながら平和に暮らしていた.しかし.初めて集落の外へ出た夏季キャンプの日に,隠された歴史を知ってしまったことで,ユートピアのように見えていた世界の化けの皮が徐々にはがれてゆく.

日本SF大賞を受賞し,アニメ化,漫画家もされた人気作品.一見すると異能力バトルもののようだが,その実は非常に世界観の作りこまれたディストピア作品.

本作で描かれるネズミは,醜く下等な生物とされる「バケネズミ」である.ハダカデバネズミをベースに進化した人間サイズで,人間並みの知能を持ち,言葉を話す生物.しかし人間のような念動力は持たないため,奴隷として扱われている.作中では登場人物たちにこれ以上ないような表現で罵倒されたり,ひとたび気に障るような行動を起こせば念動力で惨殺したりと,かなりひどい扱いを受ける.この作品を読み終わると不思議と醜いネズミへの愛情がわいてくる.バケネズミを通して見えてくる人間の本能的・社会的残虐性が見どころ.


4. 陳楸帆(チェン・チウファン) 『鼠年』(『折り畳み北京 ―現代中国SFアンソロジーー』に収録, 早川書房, 2018) (原著初版: 2009)

中国の近未来。ペット用に遺伝子改造されたネズミが脱走し,人間に危害を及ぼすようになり、政府は将来もろくに考えてないようなダメ大学生たちを駆除部隊として派遣する。彼らは野山での過酷な任務の中でネズミ騒動の裏に隠された事実を知るが,ただの大学生にはどうすることもできないのであった.

本作の遺伝子改造ネズミは,雄雌関係なく数十匹の子を産むバイバインもびっくりの繁殖能力に加えて,人間を罠にかけたり宗教を創設したりと高い知能を持つ.結局大学生たちの手ではネズミを駆除しきれないのだが,最後には驚くべき方法でネズミたちが息絶えることとなる.生物SFに見せかけたディストピア系の社会派SF.


SF作品紹介といってネズミの話をしてもいいくらい自由なサークルです.SF, 小説に限らず幅広い作品,媒体を扱っています.興味のある方はいつでもtwitter (@keio_sf)までご連絡ください.

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