痛みは不安で増幅し希望で軽減する。一夜で痛みが軽くなった話
9月の半ば、長年愛用していたメガネが、突然鼻の上で真っ二つに折れたのを皮切りに、不運やトラブルが重なり、そのストレスからか肩が痛くなった。症状から、いわゆる五十肩と思われたが、医者嫌いのため「どうせレントゲン撮って、湿布薬と鎮痛剤の処方だし」と、市販の湿布薬を貼ってしのいでいた。
しかし、夜中に寝返りをうっても目が覚め、次第に睡眠不足になっていった。数週間すぎても痛みは治まるどころか肘までしびれているような不快感に苛まれた。うっかり肩を壁にぶつけてうずくまり、着替えにも不自由し、一日に「イタタタ」のセリフを何度口にしたことか。そうなると意欲も食欲も失せ、縦の物を横にするのも面倒になり、ささいなトラブルでも無力感と絶望に襲われた。この痛みが一生続くかという不安が無気力を誘い、完全に負のスパイラルへと陥っていった。
みかねた家人の「もしかしたら五十肩ではなく別の病気、たとえば鍵盤断裂かもしれない。もう医者へ行こう」というすすめに従い、観念して医師の診断を受けることにした。
結果は予想通り典型的な五十肩、医学名・肩関節周囲炎であり、軽い体操の指示と湿布薬の処方という想定内の治療に終わった。
しかしその晩、処方された湿布を貼ったら、約2ヶ月ぶりに、痛みで目覚めることなく熟睡した。翌朝すっきりした気分で意欲もわき、痛みが驚くほど軽減した。ひとつには市販のものと医師の処方箋による湿布薬との効果の違いと考えられるが、より有効だったのが「医師の見解を聞いた」ことではなかったかと思っている。
五十肩は加齢による症状で原因は不明である、そこまでは理解していたが、治癒のプロセスについては皆目見当がつかない。ネットや知人の情報によれば「突然治る」ということだが、安直に信じることはできなかった。
結局、発症も治癒も原因は不明で、突然痛みが発生するが、ほとんどのケースは数ヶ月で治癒する、というのが医師の説明だった。
「ほとんどは数ヶ月で治癒する」この言葉に私は安心したのだと思う。つらいことも、ある程度先が見える、大げさにいえば希望があれば耐えられる、ということだろう。今思えば増幅する不安が痛みを倍加させていたのかもしれない。診断と湿布薬、併せて約2000円は安心料としてはお安い。医者にも行ってみるものだ。
だが、「痛み」が去ったら今度は「疲れ」が始まった。「やまいだれ」とのおつきあいはしばらく続きそうである。
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