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XaaSを採用して「ホールドアップ!」状態にならないために取引コスト理論をちゃんと考えておこう

「自社でやるか外部に委託するか」

こんなことを考えるケースというのは仕事をしていると出てくるものだ。例えば何かの部品や雑誌の記事を作る場合や給与計算や経理処理など、それを自社でやるべきか外部に依頼するかといった判断が必要になるケースというのはあるものだ。

「自分でやるか他部門や部下にやってもらうか」

マネージャーであればこんなことを考えることも多い。この作業は自分でやった方が早いけど他の仕事ができなくなるし部下にやってもらおうか。でも依頼するときにいちいち説明しないといけないし、お願いしないといけなかったりするので自分でやっちゃおうかな。こんなことを考えるシーンというのは結構ある。

そんなことを考えるときに「取引コスト理論」というのを意識した上で、外部に委託した場合に起きる「ホールドアップ」というリスクがあるということについて少し考えてみたい。

■ ざっくり取引コスト理論を理解しておく

企業と企業、もしくは企業と個人、それか組織と組織でもそうだが、その間で何らかの取引をするときに発生するコストを最小化する形態を目指すとしている。取引をする場合に自分コストがなるべくすくなくなるような手段をとるというのを”取引コスト理論”といったり、”取引費用理論”といったりしている。

簡単にいってしまうとこの取引コスト理論というのは「外部に依頼するのと、自社でやることのどちらの方がコストを低くできるか?」ということを説明しているにすぎない。

例えばメーカーであればある部品を外注するのが良いのか自分でやる方がいいのか。ITサービスでいえば人事や財務、営業ツールなど外部のサービスを使った方がいいのか、自社でやった方がいいのかといったことも該当する。

他にも買収してプラットフォームを獲得した方がいいのか、自分で作り上げていった方がいいのか。外部企業との共同開発契約を結んで一緒に開発した方がいいのか、自社で完全に開発をした方がいいのか?といった形で、どの例をとっても言えるのは「市場で取引した方が、時間やコスト、結果の観点で良いのか、取引せず内部でやった方がいいのか」とういことを考えるのが上記の取引コスト理論といえる。

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まずこの理論を理解するには「限定された合理性」というのを理解する必要がある。人は「合理的に行動する」ということを古くからの経済学では前提と置くことが多いが、だいたい人はほっておいても合理的に動くということを前提としておくことにあまり違和感はない(人は必ずしも合理的ではないとする企業行動理論という分野もあるがちょっと難しくなるのでまた今度)。

限定された合理性とは人間は未来を見通す認知能力に限界があるので、「知りうる限り」においてのみにおいて合理的に判断するとしている。実際に未来を見通せるわけではなく、予測するのだからある意味当然のことともいえる。

知っている範囲でしか合理的に行動できないと起きる問題が「ホールドアップ問題」といわれた問題がある。ホールドアップというのは銃を突き付けられて「Hold up(手を上げろ!)」という映画のシーンのあのことを指している。つまりお手上げ状態になってしまうということが言える。

■ ホールドアップ!(手を上げろ)状態

ホールドアップがどういった状態で起きるかというと不足の事態を予見できない、取引が複雑すぎて全体を把握できない、資産特殊性があるといったことが背景にあるといわれているが、「資産特殊性」というのが一番大事な観点として考える必要がある。

ここでいう「資産」というのはぼんやりした定義で、「特殊なノウハウや情報や経営資源」をさしている。上記の例のように「自社のビジネスに必要な技術やノウハウが外注先にたまってしまい、結果として外注先が交渉上有利になってしまった」といった場合に起きやすい。自社に技術がたまらず、外注先にたまることで不自由になってしまう例はいろいろと思いつく。

例えばXaaSなどのように「~as a service」というのは自社の機能をアウトソースすることで外注化すると確かに本業に集中できるが人事や財務などの場合作業以上に重要な部分を外注してしまうとそのサービスなしでは成り立たなくなり、外注サービス側が強くなって交渉力がなくなってしまうことが想像できる。

他にも例えば自動車工場で、部品をコストダウンを名目に外部で作らせるようにしたが、実は自動車の重要パーツであってその外注業者ナシではなりたたなくなったり、新たな車を開発するにしてもその業者抜きでは全然つくれなくなってしまうような場合も想像される。

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ITについては最近本当に便利なサービスが多くなった気がするが、それに依存した体制を会社側が作ってしまうと、そのサービス抜きでは経営が成り立たなくなるので注意が必要だ。Slackやセールスフォースなどのベンチャーサービスもそうだが最初は安く設定されていてとても使いやすいがだんだんと使っていると、それに依存してしまい簡単には抜けられなくなった時に思いっきり値上げをされたり新たなサービスに強制的に移行できるようにすることもできるので、いつでも代替手段は残しておきながら外部に依存しすぎない環境を整えておくことが重要といえる。

サーバーやセキュリティ関係もそうだし、独自に自社向けのITシステムを構築しているような場合も一定の変動費のコストのつもりで払っていたが、「代替できない、他に変えがきかない」となった場合は「変動費が固定費になる」ということを考えておく必要がある(固定費が高いと損益分岐点が自然と高まるので大きく成長するときにはメリットがあるがデメリットもある)

サブスクリプションやXaaS系のビジネスというのは「いかに依存させるか」ということが戦略のキーになっているので、単純に「便利だなあ」と思って使うとあとあと依存していることに気づくこともあるので冷静な判断が重要だったりするのだ。

—— 〻 ——

前に当事者同時が持っている情報が非対称であることからおきる問題として「アドバースセレクション問題」、「モラルハザード問題」という2つをご紹介した。このどちらの問題もある当事者同士がどちらももっている情報に差があるため結果的に悪い方向へ流れてしまうという現象がおきるということを説明した。今回の「限定された合理性」から来る問題としては「ホールドアップ問題」という問題が起きることを考えた。

この3つの問題は経営学を学んでいくうえでとても興味深い現象なので暇なときに自分が置かれた問題がこのどちらかに該当していないかチェックしてみるだけでも冷静になれたりする。これらは「情報の非対称性」」と「限定された合理性」という2つの要因から起きているので、自分の抱える問題もこういったところに原因がないか考えてみるとすっきりすることがぼくは結構多いのでおススメだ。

■ ホールドアップ状態を回避する

このホールドアップ問題が起きるのには、相手への依存度が上がった時に自分としては交渉上弱い立場になってしまいお手上げ状態になることを指すが、そうなった場合に相手は「悪意があるから強気に出てくる」というような相手を悪者扱いする考え方をもつよりも、論理的に考えてかならず「自社のために相手は足元を見てくる」と理解したほうがいい。

代替が困難であればどんな会社だって値上げを依頼するときに強気の交渉をしてくるのは当たり前だからだ。問題はその相手ではなく、自社を弱い立場においてしまったということを考えると、取引コスト理論的に言えば「自分が見誤った」ということとして理解しなければならない。

「外部に依頼するのと、自社でやることのどちらの方がコストを低くできるか?」ということを取引コスト理論は考えるわけだが、その中で「限定された合理性」の中で知っている情報の範囲でしか企業や個人は選択肢をもてない。

そうだとすると、新たな情報をとりに行くという姿勢はとても大切であり、限定された情報からの判断ではなく知っていることを増やすことで他の選択肢もとれるようになる。結果として取引コスト理論で「内部でやるべきか外部でやるべきか」ということの選択を誤らずに済むことになるといえる。

—— 〻 ——

一つの解決策としては内部取引にしてしまうということが言える。例えば外部のサービスに依存していた部分が、「取引コスト的に損」という結論をつけて、自社で内製化するというのが有効だ。そのためにゼロから自社でやってもいいし、会社を買収することでも目的を達成することができる。

自動車部品であれば外注先を買収してもいいし、外注先に依頼していることをできるような第三者の会社を買収してそこを育てることもできる。

ITサービスでいえば自社で改めてそういったシステムを構築して業者依存にならないように方針変更することだってやろうと思えばできるし、もっと安く済みそうな業者に移行するということもできる。

そのサービスへの依存度が高まったということは取引コスト理論で「外部取引と内部取引の選択肢をミスった」ということになるので、その点は認めた上で、取引コスト的に外部に任せるのは「損」だったと考えて、今度は得をするためにその機能を内部に自社で構築するというのは有効だ。

ただし、それを内部で構築することが難しかったり、自社の事業とは関係がない内部的な仕組みだったりするので「労多くして得るものなし」という状態になる可能性があることも意識しておく必要がある。取引コスト理論上の間違いをリカバリーするのには大きな時間やコストがかかることを考えなくてはならない。

こう考えると個人で気軽に辞めることができる場合を除いて、多くの企業でサブスクリプション系のサービスやXaaS系のサービスを新たに採用するときには入念に考える必要があるということはいえる。「取引コスト理論的にこのサービスはどういったデメリットがあるか」ということをちゃんと考えた上で採用しないと上記のようなホールドアップ状態になる危険性もある。

そんなことを考えながら最新のテクノロジーやITサービスは採用していきたいと考える。社内の流行りモノが好きな上層部のオジサンたちをうまくコントロールしないと、新たなサービスを採用して一見変動費っぽいけど長く使うと固定費になってしまうような余計なものを採用してしまう可能性もある。

Keiky.




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