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わかりやすくTOBによる買収について直近の事例も交えてまとめてみる

時々「A社がB社をTOBにより買収!」というようなニュースを聞くことがあると思う。結構TOBについてニュースが増えてきた気がするのでどういったものかを簡単にまとめてみよう。

一言でいってしまうとある会社を買収して自分の会社に吸収させるための手段の一つといえるが、どうやったらTOBができるのかについて最近の事例も交えて振り返ってみることにした。

■ TOBとは上場している会社を手に入れる手段

TOBとは日本語で言えば株式公開買い付け。英語でTake Over Bid。

TOBがどういったものかについてまとめる前に、まずは会社の成り立ちの説明から。

株式会社というのは株を発行していて、その株を持っている人が株主ということになって実質的な支配者になる(実際に紙で発行するところは減っている) 。オーナーともいう。

社長と株主は全然立場が違っていて、株主が社長を選定して、社長が実際の経営をするというのが一般的な株式会社の運営形態。自分で会社を作って自分で社長をやる以外は基本的に社長も1年契約のサラリーマンでしかない。

そのいった株式会社の株をぼくたちは買うことができる。株式市場に「上場」すると、僕たちはSBIでもマネックスでもなんでもいいが、証券会社の口座を開設してして一般人が株を買えるようになる。

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非上場の会社の株はぼくたちは買えない。買うことができるのは、売買契約を直接結んで入手するか、だれかその会社の株を持っている人にお願いして売ってもらうかしかないので自由に誰でも買えるというわけではない。

非上場会社というのはリスクもあって、たとえ株を買ったとしても上場していない限り簡単に売り先がないので失敗すれば紙くずになるし、会社をやっていくには資金を調達してビジネスとして成り立たせないといけないので容易ではないリスキーな世界といえる。 

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ようはTOBというのは株を買う手段の一つで、上場会社の株を通常の市場売買でなく、買い取る株数と価格を広く世間にオファーして市場外で一括して買い付けること。

もう少し噛み砕くと、普段株式投資をする人はいろいろな証券会社に口座作って市場が開いている決まった時間に売買するが、そうではなくて、市場外で株を買い集めるということをしながら、多くの場合は株式市場でも「いくらで買いますよ~」とオファーを出して株を買い占めることを広くTOBというという。
 
TOBをする目的は一つ。経営の実権を握ること。一概に良いとか悪いとかそういうわけではなく、TOBの中でも買う側と買われる側が両想いの場合(友好的TOB)と、 嫌われている場合(敵対的TOB)もある。ちなみに日本では敵対的な買収の成功事例はほとんどないが最近は出てきているといった感じ。投資会社だったらいいですが、事業をやっていくうえで敵対的だと買収が成功しても雰囲気悪いでしょうしなかなかうまくいかない。

■TOBを考えるときに意識する5つの当事者

もう一つTOBを理解するうえで大切にしたほうが良いのはいろんな人の視点に立って考えること。個人的には5つの立場で考えるとわかりやすいと思ってぼくはいつも図式化して理解するようにしている。

以下の5つの当事者にとってTOBはどういう意味があるのか?それぞれどう感じるだろうか?ということを考えると交渉をしたり、話を進めるうえで論点整理が出来たり、ニュースを見たときにそれぞれの立場が分かりやすくなる。
 
1) 買収する会社の経営や事業サイド
2) 買収する会社の株主
3) 買収される会社の経営や事業
4) 買収される会社の株主
5) 市場での株の投資家
 
1)買収する会社の経営や事業サイド

買収する側の会社の人たち。自社の事業をを大きくしよう、自社に足りないものを補完しようとして不足するものを持っている会社を買収によって手に入れて自社の事業を大きくしようとしている。どういった理由でほしいかは様々ですが、事業に目線があり事業と事業の間のシナジー創出に主眼がある。

2) 買収する会社の株主

その買収する会社の株主。オーナー会社であれば1.と2.は一体として考えればよいですが、異なる場合は株主は株主の目線でその買収を考える。自分が株主である会社と別の会社をくっつければシナジーが生まれると考えている点は1.と一緒だが、それが自分がもつ株の価値をどう上げてくれるか?という点に主眼にある。事業のシナジーでなくても結果的に株の価値が上がればよいという方にウェイトがあるのでいろいろな資本政策やファイナンス的な見方も1.に比べては多いのが特徴。

3) 買収される会社の経営や事業

買収される側の事業の人たち。言い方は悪いですが、乗っ取られるか、救済される側の人たち。乗っ取り型の場合は戦々恐々としており自分のポジションが危ういのではないかという心配が先に出てくるし、もしつぶれそうで救済してくれる株主に買収されるのであれば助かった!と思っているかもしれない。それか、自社の経営者にうんざりしていて、期待できそうな会社に買ってもらってよかったと思っているかもしれません。ですが、基本的に買収された会社が新たな親会社になるのでいうことを聞く必要がありそれをチャンスととらえるか支配と捉えるかは個別の事情や心の持ち方によって変わる。

4) 買収される会社の株主

買収される側の株主。ようは自分の持っている株を買う側に売る人たち。株を売った代金が手に入るので基本的にはハッピーな人たち。事業は手離れするので責任からは解放される。株を売って経営者として残るケースもあるが、基本的に大金が入ればオーナー系の会社であればリタイヤする。オーナー系でなくて投資会社やファンドなど金融機関であれば、事業内容には関心は薄く、買った時の株価よりどれだけ売るときにあがるか?というところに主眼がある。

5) 市場での株の投資家

買収する側でもされる側でもない投資家。これは個人も含まれるし、株式市場で売買をしている証券会社、保険会社、外国人投資家など様々な投資家を指す。彼らからすると、TOBというのは一般的に市場で売っているよりも高い価格でかってくれるので、株を持っている人は株を高く売れるので儲かる。一方で株を買おうと思っていた人はその株を買えなくなるので、買うチャンスを失うことになる。

買収する側の会社の株を持っていた人はその会社が買収をすることで、株価が上がるかもしれないし、マズイ買収と判断されれば下がることもあるので何とも言えない。自分たちの力の及ばないところで会社の売買の話が出るのでリスクをしょっていることから、投資家保護の観点から今回説明しているTOBという仕組みが生まれたといってもいいと思う。

■ 直近の事例(ぺんてる、LINE、ZOZO、田辺三菱・・)

最近の事例をいくつか簡単にご紹介。

・文具大手コクヨによるぺんてるのTOB

コクヨはもともと37%のぺんてるの株式を保有したが、 過半数にして連結子会社にするための買い増し手段としてTOB。 関係は敵対的でぺんてる側は基本乗っ取られるのは嫌だということで反対。

社風や人間関係などは内部にいないのでさっぱりわからないが、 読み聞きした限りでは事業上の補完関係はありそうだし、 人口が減る日本からよりグローバルにシフトしなければならない状況はあるので、 文具など単価が安い産業では資本力も潤沢ではない場合もありえるのでアリな気はする。

ただしやはり心情的なものも多いし大きな流れでは理解していても買収されるというのは乗っ取られることに変わりはないので基本的に反対ということになるのだと思う。

・YAHOOによるラインのTOB。

これは戦略的なシナジー創出に主眼+赤字になったLINEの救済に近い。 色々心情的なものはあるだろうが、外野から見ているかぎりあまり敵対的ではないだろうと想像される。

ちなみにYAHOOはZホールディングス傘下、 Zホールディングスはソフトバンク傘下。 つまり支配関係でいけばソフトバンク→Zホールディングス→ YAHOOの関係がある。LINEの方はNAVER傘下。 ということで今回はNAVERとソフトバンクが合弁会社を作ってその下に両社を入れてヤフーとLINEを統合させていくというスキームになる。

若干複雑なので詳細は割愛するが、ソフトバンク的にはYAHOOとLINEのプラットフォームが手に入るしPaypayも連動させるなど今後ソフトバンクがぼくらちの生活をGAFA並みに抑えてくる気がしてちょっと怖さも感じる話だった。 

・ZホールディングスによるZOZOのTOB

剛力彩芽はおいておくとして、これは先ほど出たソフトバンク傘下のZホールディングスがZOZOをTOBした話。ソフトバンクの孫さんが前澤氏に直談判し自宅に招いてトップ同士の交渉をしたという話がある。

ZOZOは加盟ブランドの離反が続いていたことやスキャンダルも ありどういった経営状態だったかは把握していない。救済なのかソフトバンクによるECの覇権を狙ったものなのかわからないが、敵対的なにおいはあまりなさそうな案件に感じた。

ちなみにZホールディングスはソフトバンク傘下で2009年にGyaO、 2012年にバリューコマース、 サイバーエージェントFXなどを買収しており積極的にM& Aを行っている。余談だが前澤氏はなぜZOZOを売却したのかという話をnoteでまとめていらっしゃるのでリンクを貼っておきます。

・三菱ケミカルHDによる子会社、田辺三菱製薬のTOB

化学業界は私の業界と近いので親しみがある。 三菱ケミカルは化学系のグループ会社を三菱ケミカルに統合して1 社にしてそれ以外は独立した形で非常に巨大はホールディング体制 を敷いている。

グループ会社の中でメジャーどころはガス大手の太陽日産や製薬会社の田辺三菱など。 太陽日産は元々三菱系の大陽東洋酸素と日本酸素が合併した会社。田辺三菱は三菱ウェルファーマと田辺三菱が合併してできた会社。

他にもちょっとマニアックなところでは生命科学インスティテュート( 中身はLSIメディエンスというドーピング検査をする会社や、 クロリカプスという錠剤カプセルを作る会社など) という会社がある。

今彼らがやっているのは56% の株式をもっていた田辺三菱製薬の非上場化。 田辺三菱は上場をしていたのをやめるために株を買うというもの。 これは親子上場の問題の解決を目的としたTOBと言えます。(親子上場については以下で触れます)

・東芝による3子会社のTOB

これも三菱ケミカルホールディングスによる田辺三菱のTOBTと 同じような親子上場の問題をクリアにするためのもの。 東芝系の西芝電機、東芝プラントシステム、 ニューフレアという3社を非上場化している。

■なぜ親子上場がよくないか?

これは一言でいえば、過半数かそれに近い株式を所有する子会社が上場することが 問題であるということで止めようとする流れがあるからといえる。

じゃあなぜそれが良くないか?というとそれは資本の論理、 投資家保護の観点があるからと考えていい。親会社は子会社の株を握っているので支配的な立場があり、 普段言うことを聞かせられる立場にある( 面と向かってやると嫌われるのは当たり前なので、 あくまで仕組みの話ではある)。

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これが非上場であれば特に自由にやっていて問題ないが、 子会社が上場している場合、特定の支配力がある株主がいると、 一般株主は不利益を被る可能性があり、 欧米ではあまり例がないのが実態なので問題視されている。 日本でもアクティビストに狙われたりするとこういった問題は指摘され、 透明性を担保するために非上場化が必要ということになります。

良い例が直近のヤフーと連結子会社のアスクルの問題。 ヤフーは45%のアスクル株を握っているが、 アスクルは上場してて、自分たちとしては独立している意識がある。そんな中、アスクルのインターネット通販事業「 LOHACO(ロハコ)」 を譲渡るすことをアスクルに要求したことから、アスクル側は冗談じゃないよとい うことで関係がこじれている最中なのだ。

■有名なTOBの事例

上記に直近の例を挙げたが、他にも過去は以下のような事例があるので有名なものだけピックアップする。成功したりしなかったりバラバラだが、もっと知りたい方は掘り下げていただければと思う。
 
・伊藤忠によるDESCENTE(デサント)に対するTOB
・王子製紙による北越製紙へのTOB
・スティールパートナーズによるブルドックソースへのTOB
・ドンキホーテによるオリジン東秀TOB
・ベーリンガーインゲンハイムによるエスエス製薬へのTOB
・米サーベラスによる西武ホールディングスへのTOB

■ どうやってTOBをやるのか?

ちょっとマニアック気味だが、どうやったらTOBをやるか?というTOBをやる方法について、ざっくりどういう手続きをするかだけわかるようにかなり省略して書こうと思う。

まず、公開買付開始をするよ!という公告を出すプロセスが始まり、 対象会社による意見表明などを経た後、 買付期限を迎えると数量等が確定され決済されるという仕組みだ。

例えば途中で敵対的買収に対する買収防衛策の発動、 競合する者による対抗公開買付けの開始などが生じることもあり長期化するケースも想定される。
 
日本では公開買付けの期間について原則、最短 20 営業日、最長 60 営業日とされているのでその間に色々なドラマが繰り広げられて、ぼくらが見るニュースで報道されているということになる。

■ TOBをしないといけない条件

先ほど説明した通り、勝手に市場外で上場会社の株を売買することは一般の投資家にとって不利なので上場会社の株を買うには色々な制約がある。

一部の人たちで決めないで、株を市場外で買うのならば当事者同士以外の人の株も買うようにしなさい!というのが株式公開買い付け(TOB)だが、色々なもっている株の保有比率によって公開買い付けをしないといけないのか、しなくてもよいのかパターンがある。
 
・市場外での買付け等で株券等所有割合が5%超となる5% ルール)

・市場外で著しく少数の者からの買付行為でシェアが 1/3 超 となる (1/3ルール)

・特定売買による買付け等で株券等所有割合が 1/3 超となる

・市場内外の組み合わせで 1/3 超となるなど。
 
他にもいろいろな取り決めはあるが主なものには上記のようなルールがあって、こういったルールがあるから一般投資家は守られているということになる。
 
TOBをしなくてもいいという例外もあって、例えば議決権数がすでに考慮されているもの(例:新株予約権行使、 株式割当行使、ETFと現物交換、取得請求権付種類株式) やグループ内・関係者間での移転、 所有者が少数で同意がなされているものなど除外規定はある。

■全部買付義務がある場合もある

もともとTOBには買い付け条件や買い取る株数は基本的に自由に決めてよいという原則がある。

例えば公開買付けが成立するための下限の買い取り株数を設定して、 応募がそれに満たない場合は、公開買付けを不成立とする場合や、 逆に、応募がどれだけ多数であったとしても、 一定の数までしか買付け等は行わないということもできる(部分的買付け)。

ただし、部分買付けはなかなか難しく、公開買付け後に予定される株券等所有割合が 2/3 未満である場合にしか認められていない。これを全部買付(勧誘)義務といって、部分的買付けはダメだから応募のあった株券等を全て買い取ることを義務付けている。

■ 敵対的により基本は友好的がいい

敵対的な買収はたとえ成功した場合でも心情的にはマイナスからのスタートになる。買収先は非協力的で良い雰囲気とはいえない。 倒産しそうで救済型であれば文句は言えないが、 自立していたらなおさら自分たちのプライドがあるのだ。

なので、 買収した側は基本的に友好的であるスタンスを大切にしながら、 なるべく資本の理論を振りかざさずに経営できれば良い形といえる( 資本の論理は伝家の宝刀としておく)。

買収された側としては例えば新しい親会社のリソースを使って自社 の事業をドンドン大きくできたり、 任せてくれたりすれば前より良かったと思えるので、 そういったシナジーを買収した側が出していくことが重要になると言われている。

■ 大株主がいる場合は基本的に事前合意が基本

上場会社でも大株主がいる場合があるが、 TOB前に買う価格の合意は必要になる。 例えばファンドや金融機関であったり、創業家やオーナー、 発言権がある少数株主など、 そういった株主との事前の合意がないとTOBはうまくいかないと思われている。

オーナーであれば会社から足を洗って現金化をしたいと思っているかもしれないし、 ファンドなどもそろそろエグジット( 売って新たな投資に資金を回す) したいと思っているかもしれないので聞いてみる価値はある。

特にオーナー系の場合は事業や会社に愛着を持っているケースが大半だと思いいので、 自分がその会社の社員や事業のためにどれだけ貢献していくか? というところが問われてくる。

逆に金融関係だとその辺はドライで、 まず①投資リターンがあがるかどうかから始まり、② なるべく対象会社がハッピーになりそうは候補にうるという優先順 位なので経済合理性が勝る。
 

以上、ざっくりとTOBの仕組みについて振り返ってみた。難しい話は専門書に任せるとして、何となく雰囲気は伝わったら幸いです。

これからも色々なニュースが話題になると思いますが少しでもお役に立てたのならば幸いです。参考になるサイトと前澤さんの記事のリンクを貼っておきます。

keiky.




[参考]



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