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差別化を持続させられない世界でどういうマインドセットを会社で育てたらよいかについて

どんな会社も事業もライバルがいる。そんな競合他社との闘いをしながら独自の製品やサービスを提供することで社会が発展しているのがぼくらの世界だが、そういった独自性を打ち出すのがドンドン難しくなっていることを誰もが感じている。

差別化戦略をとるのかコストリーダーシップ戦略をとるべきかという点について原則的にはポーターさんのお話や、一般的な経営戦略としては差別化を狙った方が目指すべき方向で同時に実現することはとてつもなく難しいのでどちらかによせるべきだということは記事としてこの間書かせていただいた。

ポーターさんの競争優位性をいかに上げるかという観点は5F(ファイブフォース)などの多くのフレームワークとともにこれまでも死ぬほど語れてきているしMBAの授業や様々なビジネス書で出てこないことはない。それくらい彼の功績は大きくて複雑な経済学の世界を一般のビジネスレベルまで使えるようにしたのは本当に大きいなと感じる。

■ 差別化が持続しなくなってきている

一方で彼の基本として「いかに持続的な優位ポジションを築くか」ということを起点としたことについて現代のビジネスでは当てはまらないのではないかという研究も行われている。

業界にかなりよるところが大きいが、確かにデジタルや通信技術の発達によって開発コストは下がり、よいものが生まれると同じような製品やサービスがすぐ生まれて市場が陳腐化してしまうことがますますふえていると感じている人も多いかもしれない。

似たようなウェブサービスやSaaSが乱立したり、誰もがプラットフォーマとしてその産業の胴元になりたがるので色々なプラットフォームができて消費者からすると分散されたバラバラはサービスが各社から乱発されているように感じる。なんとかペイも今まさにこういった環境にあって今後集約されるかもしれない。みずほ銀行が主導するJCOINペイはイマイチな感じだしPayPayを展開するソフトバンクがLINEを吸収するなど覇者になろうとする動きもある。

誰もがブルーオーシャンをつくろうと躍起になっているが、その海はすぐに赤く染まってしまう。そんな減少がハイスピードで起きているのが現在のビジネス環境といえるのかもしれない。

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こういった動きはデジタルだけの話ではなく、飲食店でも同じかもしれない。肉マイレージでロイヤリティを高めつつ回転率を上げて成功してきたいきなりステーキも重要な局面を迎えており、飽きと似たような飲食店の乱立などと戦っている。「俺の」シリーズも立ち飲みだったのをさいきんでは着席にして普通の飲食店的な感じになってきたが分野を色々な料理に水平展開することで多角化して変化を狙っている。

一方でぼくのような昔ながらのメーカーでは業界のプレイヤーがさほど変わることもなく、一部ではm &aなどで業界再編は起こるものの、顧客や仕入れ先との関係などバリューチェーンが大きく変わることもなく旧態依然としている。ものづくりは参入障壁はそれなりに高いのと大きく伸びないことなどから移り変わりのスピードはこれまでは遅かった。ただ、これからはテクノロジーの変化についていかないと大きな変化にのまれて負け組になる可能性も高まっている。

こう考えると企業として「差別化によって持続的な安定成長」は目指すところだが、「差別化する」というところがすぐ真似されたり、ビジネスのスピードが上がることから機能しなくなっているか、差別化できたとしても一瞬であるようなことが増えてきており、ポーターさんの理論をベースにしつつも、対応せざるを得ない環境の変化にどう対処していくかという課題が出てくるようなビジネス環境にあると思っている。

■ もう差別化は無理なのか、競争優位は終わり?

コロンビア大学のマグレイスさんという教授がいてTwitterをフォローしているのだが、彼女は不確実で不安定な上に書いたようなビジネス環境でどうやって戦略をねるべきかということに関する権威として知られている。

そんな彼女が執筆した「競争優位の終焉」という本は差別化が一瞬であるということをよく解説してくれている名著なのでおすすめの本の一つだ。(ポーターさんの競争戦略を読んでからの方がよいかもしれませんが)

マグレイスさんは「競争優位が持続する時代は終わった。一時的な競争優位性を獲得し続けることが必要だ」ということを一貫している。

ぼくはこの本を読んだときに激しく同意し感動したのを覚えている。ぼくが会社経営に携わる中でいろいろな疑問にぶち当たることが多かった複数の疑問に対する答えと思えたからだ。

今でもこの本を読み返すたびに今のぼくの会社は井戸の中のカエルのように自分のことしか見えておらずじぶんが考える強みやコア技術ばかり盲信していてなかなか変われない現実に危機感を抱く。一部のわかっている人とは会社を変えるための施策だったり事業を変えていく手を打つようにコツコツやっているものの、大半の課題意識もなくチャレンジより安定を求める99%の人には安定はないということを教えてあげたいが理解されない。「そうはいってもなんとか歴史長いしなんとかなるでしょ」という雰囲気がとても強い。

持続的な競争優位性がないとしたら、安定など訪れないということをベースに考えなければならないのだが、多くの人は大きな組織で働いているとそういった危機感がどこかにいってしまうらしい。

そんなぼやきは読んでいて心地よいものではないのでこれくらいにしておいて、マグレイス教授の「競争優位の終焉」に話を戻すと、彼女は上場企業5000社から2000年以降の10年間で収益を毎年5%以上伸ばしている十社を選び、その優位性の源泉を研究した。

■ これから競争優位性をどう確保していくか。

彼女の研究した10社はいずれも一瞬の差別化を連続して打ち続けて成功しているというのがこの本には細かく書かれている。

ではそういった企業はどうやってこの差別化が実現しづらい中で成功を収めているかということについていくつか共通項をポイントとして挙げているので何個か紹介すると以下のようなものがある。

1)資源配分を的確に見直し効率性を高めている

普通は各事業が資源を放さない。一度事業をはじめると常に人は足らないしお金もかかるし、製品も継続しようとする。こういったところを積極的にメスをいれて、やめる事業はやめるとか、逆に一気に大きくする事業は極端に資源を投入して「ちょっとずる様子見しながら」ということをせず大胆に投資をする姿勢がある。

2)衰退の前兆やマーケットの変化を捉えて引くところは引く

事業をやっているとよりコストが安い海外メーカーの成長や、代替する産業の登場を感じて脅威に触れることはおおい。そういったときにそれに対抗する手段は当然とって戦略的に戦っていくわけだが、もう一つの目をもっていてその市場の変化や今後の見通しもふくめて引き際を理解するのが早い。自社だけで撤退せずとも他社とのアライアンスに切り替えたり外部化したり売却したりすることで資源のシフトを起こしやすいようにする。

日本ではなんとか頑張れ、気合が足りないといっていつまでもズルズル何年も不採算事業を続けてしまったり、撤退したり売却しても他に何をしていいかわからないとなる場合も多いし、祖業の事業というような愛着で喜んで赤字の状態で維持したままにしているケースも多い。もしくは体面を気にして規模を維持したいという欲が出る場合もある。こういったことをしていると社員も前向きになれるはずはないしスピードが遅いと言われたりステークホルダーを軽視していると言われても仕方がない面がある。

当然社員や株主は大切にしながら、冷静に事業の中身を見極めて戦略的にかえるべきところを変えている企業が成功しているといえる。

3)安定性と俊敏性を両立して常に変わり続ける体質がある。

安定しながら早く動くというのは難しいように感じるがそういったことを実現している企業が成功していると彼女は分析している。

どうやってそういう状態を作るかということについては、「明確な戦略と高い目標を持って、自社の価値観や風土を醸成し、社員におしみなく投資し、リーダーシップを幹部が発揮しながらいろいろな企業と良い関係を築く」ということが秘訣だといっているが、どれも目新しいものでは正直ない。

だができているかというと、それは別ということが言いたいのだろうと思う。頭ではわかっているが、やるとすればなかなかできないことを実現している会社。それが一瞬の差別化を連続して実現することで、結果として安定を手に入れているということだと思う。

■ これからの企業経営で少しずつ意識を変えるところ

ではぼくらはどういう意識を会社に持ち込んで考え方を変えていけばよいのだろう。

新しいベンチャー企業や先進的なIT企業など、フットワークが軽くドンドン中身が変わっていくような会社は例外として、一般的な旧態依然とした昔名がらの会社はどう発想を変えていけばいいのだろうか。

会社や経営としては「持続的な成長、事業を通じた社会貢献」をうたっている以上は安定して業績を伸ばしていくことが求められているし、会社もそれを目指している。中期経営計画や、長期的なビジョンやあるべき姿を掲げている以上、企業経営というのは長い目で物事を考えていくものだ。

また、世間的にもSDGsに代表されるようなサステナブル(持続的)に社会とともに伸びていく企業を良しとしているので、一瞬で差別化が終わるから短期志向で利益追求をしようという方向には変化は求められていない。

あくまで持続的な成長は目指しつつ、差別化が効く時間が限られているとしたらどう発想を変えるか。ぼくなりに考えてみると大きく3つくらいのポイントがあるのではないかと思う。

・今の優位性に固執せずいずれなくなる前提をもつこと

今ある会社の事業や強みというのはずっと続くものではないという認識を会社で持てるようにするというのがまず大切だと思う。企業は自社の強みから発想してエリアはビジネスのフィールドをずらしながら事業拡大をしていくことが一般的だがそういった展開はもちろん今までの延長戦ではやりつつも、新たな強みを作り上げる活動を増やしたり、買収や売却をしたり特許の使用許諾を受けたり、大学と新たな研究をしてみたり、強みというのは変わるという前提を社内で作り上げる仕掛けをいろいろ作っていくと良いのかもしれないと思っている。

年を取ればとるほど自分の昔の体験や、経験からしかものを言えなくなるのでより今までの強みや歴史に固執しがちで、そういったものを軽視する社員がいると激怒したりする。強いと思い込みたいという思いもあるので、冷静に他社との比較などしないのが一般的なのかもしれない。現場の我々はそうもいっていられないので常に強みについては他社や市場の代替産業を見ながら本当に強みなのか、これからもこれで飯を食っていくのかということを考え続けるしかない。

・仮説を重視して「もし」という言葉を恐れない

会社で「もし」とか「例えば」という仮のはなしを嫌う人というのはいるものだが、そういった質問を恐れずに議論できるような場を作っていくと新しい発想が生まれやすいし、常に「IF」について考えまくっていると、いろいろな外部環境の変化が起きたときに、考えたことが実際に起きるということで初動が早くなり対応がしやすくなるという大きなメリットがあると僕は思っている。

かの大前研一さんも何かの本で「IF」を話すことに対する心理的なハードルは下げてドンドン考えるべきだというような内容のコメントがあったのを覚えている。

「もしこうなったら」ということをメンバーと普段から話していると変化を受け入れやすくなりし、それが面白いアイディアにつながるのであれば外部環境の変化を待つのではなく、自分たちで変化を起こしていこうという前向きな姿勢に変わるきっかけにもなるとぼくは思う。

・見切り発車する。完璧を求めない。

「とにかくまずやってみる」という意味ではリーンスタートアップとか、プロトタイプの量産など、いろいろなイノベーションの考え方の中で語られることなので特に真新しいことではない。

一方でやはり石橋を叩いて渡る文化が強い日本では、徹底的に調査をしたり、資料を完璧にしたりすることにこだわり、最初に一歩を踏み出すことが遅いという点については大きく変わっていない課題と言える。「石橋をたたきすぎて、いざ渡ろうと思ったころに現場は疲弊しモチベーションが下がって、橋も壊れている」という状況にならないために、とれるリスクの幅は限定しつつも早く初動で動けるようにしておくというのは大切なのかもしれない。

会社で言えばある程度お金を自由に使える予算の枠をあらかじめとって決裁権限を現場に一定程度つけておくとか、人事制度でいえばチャレンジ関係の要素を入れ込むとかいろいろなことを複合的にやって、まずやってみよう的な雰囲気を作っていくことがとても大切なのではないだろうか。

さいごに

久しぶりにこの間ポーターの差別化戦略を振り返って色々考えているときにこの本についても読み返してみたら今の経営環境にあてはまることが多かったのでシェアをしたいなと思って書いてみました。

水面を泳ぐアヒルやカモのようにスーっと泳いでいるように見えて水面下では足を漕いでいる姿はこれからの目指す姿に近いかもしれない。心地よく持続的に前に進みつつ、中身を積極的に変えていく姿勢が維持できるかがぼくらの会社の成長に大きく影響を与えるのかもしれない。


keiky.

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