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Jリーグのアジア戦略について

Jリーグがアジア戦略を本格的に始めて早9年が経とうとしていますが、立ち上げから現在までプロジェクトを推進している立場として、改めてその戦略の背景や目指すところを言語化してご紹介しようと思います。

背景と目指すところ

Jリーグは1993年に開幕以来、日本全国にクラブの数を拡げ、日本中の各地にスポーツ文化を根付かせてきました。一方で、これから人口も減少し高齢化が加速する日本国内だけを市場と見ていて成長性があるのだろうか?という議論は当然ありました。アジアは今後世界の経済成長センターになることは明らかで、そこの市場を目指すべきだという考えに行きつくことは必然でした。これは他の産業界でも起きていることで、とても分かりやすいかと思います。

同時に、グローバルのフットボールマーケットを俯瞰してみたときに、明らかに欧州一極集中の構図となっています。ヒトもカネも欧州に集中する形となっており、フットボール界のルールは欧州が基準に決められると言っても過言ではない状況かと思います。これから更に経済成長が見込まれるアジアですが、ここのマネーまでもが欧州サッカー界に吸い上げられてしまっては、アジアサッカーの発展はないと思います。

分かりやすい例で言えば、英プレミアリーグの放映権収入の海外比率はおよそ50%に近づいています。頭打ちした感のある国内放映権に対し、海外放映権はまだまだ伸びています。しかもそのうちの多くの部分をアジアマネーが占めています。

グローバル競争待ったなしの状況の中で、アジアサッカー界(もちろん日本含む)が発展するには、この構図に一石を投じるゲームチェンジを起こす必要があると感じています。アジアマネーはアジアサッカー界の発展のために還流させるべきだと思っています。そこをJリーグがイニシアチブを取って、アジア各国と協働していこうとしている形です。要は、アジアサッカー全体の発展無くしては、Jリーグの発展も無いと思っています。

ですので、アジア戦略の目的は以下の二つにまとめられます。

・Jリーグの価値をアジア市場の中で高め、新たな事業機会をリーグ・クラブ・ステークホルダーと創出する。
・アジアサッカー全体のレベルアップとアジアサッカー界の活性化。


なぜASEANなのか

アジアの中でも特に東南アジア(ASEAN)を注力市場として活動続けてきていますが、その理由はいくつかあります。主なものとしては以下が挙げられます。

・サッカー人気が圧倒的に高く、国民的スポーツとも言えること。
・日本サッカー・Jリーグへのリスペクトを持ってくれていること。(現状の競技力の相対関係的に、Jリーグでプレーすることが一種の憧れになる)
・国内サッカーに投資が集まり始め、今後爆発する予感があること。
・親日国家が多く、日本との関係性、日本へのグッドイメージがあること。
・日本政府も外交上ASEANを重視し、さらには日系企業も数多く進出していること。
・国を動かす実力者(王族・政治家・財閥・警察・軍など)がサッカー界の主要ポジションに多いこと。
・欧州主要リーグが最重要視しているのは中国・北米(ASEANではない)
などなど・・・・

ASEANでJリーグを観てもらうには、当然ASEAN出身のスター選手のJリーグ加入が最も効果的なわけですが、これまでベトナム・インドネシア・タイ・マレーシア・シンガポール・カンボジアなどの国出身のJリーガーが誕生しています。これはアジア戦略を始める前の時代には考えられなかったことかと思います。これらの効果、実績、ASEAN現地で起きた現象についてはまた別の機会にまとめて書こうかと思っています。

一つのマイルストーン

一つのマイルストーンとして、2026年のFIFAワールドカップがあります。この大会からこれまで32だった出場枠が48に拡大、アジアからの枠も4.5から8に拡大します。これにより、これまでワールドカップに出場したことのなかった(夢だった)ASEAN各国にとって、初出場できる可能性が大きくなっているのです。どの国もこのタイミングでのワールドカップ初出場を目標に強化を続けています。例えばですが、仮に、タイがこのタイミングで初出場し、タイ国中がワールドカップフィーバーに沸く中で、タイ代表の主力選手のほとんどがJリーグでプレーしているような世界観を創れれば、Jリーグのアジア戦略は次のフェーズに突入できると信じています。その頃には、ASEAN10か国のGDPは日本のGDPを追い越すとも言われており、市場としての経済力もより一段と魅力的なものになっているかと思います。



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