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COVID-19が問う企業の大義、アクティビズムの決意(カンヌライオンズ2020)

今年は先週開催予定だったカンヌライオンズ・国際クリエイティビティフェスティバルが中止となり、オンラインライブに代替された。
そのせいか国内ではレポートやニュース記事も全く上がっていないが、この世界が激変する環境下で、時代の転換を示すいくつか重要なプレゼンがあった。

中でもP&Gの最高ブランド責任者であるマーク・プリチャード氏の”Creativity As A Force For Good”というピッチは、パーパス主導のブランドがこの環境下でどう一貫性を持ちながら迅速に、社会的意味のある行動と影響力を行使すべきかについて、極めて重要な実践事例(4ヶ月の出来事)を提示しており圧巻だった。
すべての企業が学ぶべき、エポックメイキングなものだったので、簡単に共有しておきたい。

(詳細は以下のサイトで全文と動画が掲載されているので、興味のある方はご覧頂ければ。)
https://us.pg.com/blogs/cannes-2020/
https://bit.ly/2BDS44h

1、COVID-19の危機が顕在化した時の初期の対応。3つの優先事項を確立。
1)まず、P&Gの人々の安全を守る。
2)この環境下で必需品となる健康、衛生、洗浄製品で、世界中の人々を支える。
3)可能な限り、困難を抱えるコミュニティを支援。
医療従事者や困難に直面する家族、エッセンシャルワーカーを物資や支援組織を通じてサポート。

2、COVID-19との闘いを支援し、支援を必要とする人々と活動を行う組織に焦点を当て、特に不平等・不利益を被るコミュニティを支援するプログラム展開。
-ジェンダーの不平等がもたらす困難(最前線の労働者の75%が女性で家庭の困難を抱えながら従事)。
-人種による不平等(ヒスパニック移民の医療システムの欠如。黒人アメリカ人は、COVID-19で死亡する可能性が最大340%高いという、医療の不平等)。

3、状況はさらに悪化。パンデミック環境下でジョージフロイド事件を契機に、人種差別への革命的反対運動が再燃(Black Lives Matter)し、衝突が激化。
P&Gは、以前から”Talk”の企業広告シリーズはじめ、ファンドの設立など人種差別完全撤廃に取り組んできた。この状況の中、さらに一歩踏み出して、“The Choice”という行動喚起を促すメッセージ広告を展開、白人コミュニティ含む全ての人々がこの運動による人種差別完全撤廃を勝ち取るアクションを自ら推進。


4、自社を取り巻くビジネスプロセスでの人種的平等を実現する4つのロードマップを発表。
1) クリエイティブ活動全体で、黒人コミュニティや有色人種代表を含むダイバーシティを達成する(まずは自社内で40%の実現)。採用、トレーニング、パイプライン開発、追跡、説明責任を徹底改善。
2)購買システムを変え、黒人の所有・運営するメディアや代理店・サプライヤーへの投資を大幅増とすることで、黒人コミュニティと経済の発展を支援する。
3) ブランドに関して、広告コンテンツが黒人やすべての人を正確かつ丁寧に描写していることを確認するために、包括的なレビューを実施。
4) すべてのメディアチャネル、ネットワーク、プラットフォーム、プログラムの包括的なレビュー実施。コンテンツが黒人と全ての人を正確かつ丁寧に描写し、バイアスを助長していないか確認(Facebookはじめ全てのSNS広告を当面停止)。

「パーパス・ブランディング」という言葉は、最近日本の企業でも流行語のようになっているが、これはもちろん新手のマーケティングの手段ではない。

経営者が強固な意思と大義を持って、ビジネスの優先順位と仕組みを変え、顧客とコミュニティの課題解決を中心に据え、社会課題解決のためにリアルなコミュニティと能動的に関わらない限り無意味だ。

自戒を込めて言うなら、COVID-19で社会的危機が顕在化した今日の環境下では、コンプライアンスを遵守して適正にビジネスを行う、というレベルでは全く不十分だ。社会的使命と倫理感を持ち、自社のリソースや影響力を用いて、問題のある社会の仕組み自体を変えていく、特に経営層の強い意思とリーダーシップの実践が求められる。

そして端的にいえば、ブランドアクティビズムの伴わない綺麗事のメッセージは、黄身のない卵のようなものだ。
課題が解決されないのは、社会的合意形成が出来ていないからで、反論や批判を恐れない強靭な意思と行動で、人々を支援し動機づけていく必要があるからだ。

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