サバ、フォードvsフェラーリ、松重豊。

昨夏、村上春樹さんの『アンダーグラウンド』(1999年、講談社文庫)を読んだ。
もう10年以上前に購入したのだが、当時は最初の数ページで挫折。たまたま、蔵書の整理をしていて見つけ、今度こそはと読み始めた。

この本では、村上さんが地下鉄サリン事件の被害に遭われた方や、そのご家族などにインタビューした内容をまとめているんですが、その中に、ご主人をなくした奥様のインタビューがあった。
奥様は当時、妊娠中で、おなかも大きかったそうだ。ご主人が事件に遭われた日の朝。いつもは朝ごはんを作らないんだけど、前日にご主人が「たまには、朝ごはん家で食べたいよな」と言ってたから、その日はちゃんと目覚ましをかけて早めに起きて、トーストと目玉焼きとウィンナーとコーヒーを用意した。そしたら「あっ!朝ごはんだ」ってご主人も喜んで、そしていつも通り会社に向かって、その数時間後、命を落とされた。

このインタビューを読んで、なんだか、地面がぐらぐらした感じがしたんです。怖かった。人って、こんなに急にテレビを消したみたいに「プツッ」って、死んじゃうのかって。

読んでしばらくしても、やっぱり怖くて、いろんな人や風景や音楽や芸術を見るたびに、もう二度とこんな風に目にできることはないのかもしれないって、好きなものであればあるほど思っていた。元来のネガティブに拍車がかかって、しばらくは、人と「バイバイ」するときに、一生の別れになるのかもと考えると苦しくて、だからこそ、体調が悪くても、ちょっと不機嫌でも最後は笑顔でいようと、ニコニコしてバイバイを言っていた。

さすがに、しばらく時間がたって、恐怖はおさまったのだけれど、でも、楽しいときとか好きな人といるときほど、もう最後かもって思う瞬間がある。だからこそ、ちゃんと後悔しないように、できる限り向き合いたい。素敵な絵画を見たら、この気持ちを忘れないでおこうって思うし、好きな人に会ったらなるべく正直に素直に話をしようと、そして、ありがとうって言おうと。
すべての瞬間にはできないけど、なげやりにも、おざなりにも、なってしまうことはあるんだけど、でも、せめて、好きな人やモノにはなるべくそうありたい。
誰かが「プツッ」っとスイッチを切っても、せめて、ちゃんと向き合った瞬間のほうが多いようにしたい。

今日は、同居人と一緒に、遅めの朝ごはんを食べた。
サバの塩焼き、オクラのおかか和え、卵焼き、大根の味噌汁、ごはん。

フォード&フェラーリを見に行こうと話していて、
そして、マッドデイモンを日本の役者さんに当てはめると誰かな、と二人で議論した。
結果、お互いに納得したのは、孤独のグルメに出ている松重豊さんだった。

朝ごはんのサバは脂がのってておいしかった。
映画は来週見に行くことにした。
笑って二人でごちそうさまをした。

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