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論理空間とは何なのか~野矢茂樹著『ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』を読む』第8章「論理はア・プリオリである」の分析


論理空間とは何なのか ~野矢茂樹著『ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』を読む』第8章「論理はア・プリオリである」の分析

http://miya.aki.gs/miya/miya_report41.pdf

とりあえずできました。こちらのサイト(経験論研究所:レポート一覧 )からもダウンロードできます。

論理空間に関してこれまでいろいろ述べてきたことをまとめました。


(はじめに)

 本稿は野矢茂樹著『ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』を読む』(筑摩書房、2006年)第8章「論理はア・プリオリである」(165~189ページ)の分析である。
 論理がア・プリオリではないことは、これまでのレポートで何度も詳細に説明してきた。本稿では主に論理空間の問題について詳細に、野矢氏が見落とされた論点も含め検討していきたいと思う。
 論理空間とは、結局のところ命題の真偽を決する前提となる世界(とりあえずそう呼んでおく)、事実・事態の集合体であると言える。それは現実世界でも良いし、物語でも良い。「太郎と花子は家にいる」という命題は「現在の事実」という前提ならば偽で「昨日における事実」という前提ならば真であるかもしれない。時間を考慮しなければ真か偽どちらかである(=真偽が決定できない)ということになる。「サンタがトナカイと空から飛んできて世界中の子どもたちにプレゼントを配る」はそのことについて書かれた物語があればその物語(の論理空間)において真であるが、現実世界では偽である(それをナンセンスと呼ぶべきかに関してはさらなる議論が必要かもしれない:本稿第7章)。
 論理空間はルールの設定によっても導かれる。野球のルールにより野球というゲームにおける論理空間が形成され、独自の真偽関係が導かれる。「バットを三回振って投手が投げたボールに一度も当たらなかったら三振アウト」という命題は野球のゲーム上は真であるが、野球というものがこの世界になかったとしたら(あるいは知らなかったらその人にとって)ナンセンス文以外の何物でもない。そしてラグビーのルールから導かれた論理空間においてもナンセンスである。
 人々は命題の真偽を問うとき、特定の状況・条件を想定している。意識していないことも多いが、改めて問われれば答えを導くことができると思う。「論理空間=有意味な言語表現の範囲(つまり言語表現に対応する事実・事態を見出すことができる)」と解釈したとしても、論理空間がただ一つのみ存在するという根拠づけはできないようである(実際、野矢氏も特定の論理空間の設定を試みられている)。
 論理空間とはア・プリオリなものではなく、人為的に設定されたルール(当然ア・プリオリではない)や物語によっても生み出しうるし、現実世界を構築する様々な具体的経験(過去の経験・現在の経験)によっても生み出されてくるのである。それは命題の真偽を左右するのみでなく、場合によって異なる論理というものが抽出されたりもするのである。

 本稿における引用は、特に指定のない場合は、野矢茂樹著『ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』を読む』からのものである。いくつか拙著からの引用もしている。
これまでに私が書いた『ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』を読む』の分析レポートには以下のものがある。論理はア・プリオリではないことを主張するものである。

「語りえない」ものとは? ~ 野矢茂樹著、ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』を読む、第1~3章の分析
http://miya.aki.gs/miya/miya_report35.pdf

言語使用のあり方は言語外の対象によって決められる
~ラッセルのパラドクスに関するウィトゲンシュタインの解明について
(野矢茂樹著『ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』を読む』第4章の分析)

http://miya.aki.gs/miya/miya_report36.pdf

 その他、下記に示す論理学に対する批判的分析において野矢氏の著作に関して論じた箇所があるので参考にしていただければと思う。同じ論理形式でも前提条件、あるいは真偽がもたらされるシチュエーションを変えることによって真理(値)表の内容が全く変わってしまうことについても説明している。

命題を(論理学的)トートロジーと決めつけた上でA→Bの真理値を逆算するのは正当か?
http://miya.aki.gs/miya/miya_report39.pdf

A→Bが「正しい」とはどういうことなのか ~真理(値)表とは何なのか
http://miya.aki.gs/miya/miya_report40.pdf

選言の真偽とはいったい何なのか:(¬A∨B)≡(A→B)に根拠はあるのか
http://miya.aki.gs/miya/miya_report38.pdf


<目次>

※ ()内はページ
1.「操作」にも対象がある (3)
2.「pかつq」もf(x)=x+1も特定の事実・事態(定義域)の前提を必要とする関数と言える (6)
3.経験と現実 (9)
4.論理空間は一つではない (12)
5.規則・ルールを決めることで論理空間が形成される(1) (13)
6.規則・ルールを決めることで論理空間が形成される(2) (14)
7.ナンセンスな話は論理空間となりえるのか (15)
8.現実世界においても異なる論理空間を抽出できる (17)
9.論理空間は経験として現れうるもの (19)
10.存在は経験から導かれる、すべての始まりは経験 (22)
引用文献(拙著以外) (24)






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