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アーティスト・イン・レジデンス

noteを書いていますが、いつもどなたが読むか分からないまま、自分のメモ書き的なnoteとして書いています。あとで見返すことができるし、自分の頭の中もそれなりに整理できます。

さて、今回はアーティスト・イン・レジデンスについて、少し書いてみたいと思います。たぶん、日本語訳で分かりやすくいうと、「アーティストの滞在制作」となると思います。アーティストがスタジオや普段の慣れ親しんだ生活圏から出て、どこか別の街や国へ出向いたり、招待されたりして、一定期間過ごしながら制作を進めることだと私は理解しています。

となると、参加するアーティストと受け入れ側の存在が出てきます。また、いろいろな手法で実施されています。そのあたりのことを、私の実体験を振り返りながら、遡ってみていきたいと思います。

私が初めて「アーティスト・イン・レジデンス(滞在制作)」という言葉を知ったのは、アメリカ留学中の2年目くらいでした。以前もnoteに書いたことがありましたが、テキサス州のヒューストンにあるProject Row Housesで企画された地域の選抜学生向けの滞在制作でした。約1ヶ月半くらいの制作期間中スタジオが提供され、その後に展覧会が1ヶ月ほど企画されました。記憶が朧げですが、少しだけ制作費も提供していただいたと思います。普段はアート・スクールで制作していたので、自分だけのスタジオというものを持っていませんでしたので、この時が初めて自分だけの自由に使えるスタジオを持った時だったと回想します。

私は日本の大学にいた頃に人類学を専攻していたので、基本フィールドワークのような手法が大好きです。知らない土地で新しいことを見たり聞いたりすることにとてもワクワクします。たぶん、多くの方が共感されるところだと思います。この視線でスタジオを提供していただけるとその地域の生活者の視線に近づいて、その地域社会や人々を見ることができるのと同時に、地域の人からは別のどこかから来た他者として捉えられます。

なので、私のヒューストンでの滞在制作の場合、私は日本人として、アメリカのアフリカ系アメリカ人の人たちが多く住む地域で滞在制作ができたことになります。実際に、その時に私が対象としたプロジェクトの参加者は、ネイティヴ・アメリカンを先祖に持つ人たちを対象とし、普段は黒人としてのアイデンティティーを誇りにしている方々や、普段はこの地域には来ない白人としてのアイデンティティーを持った方々を招待し、お互いルーツを辿っていくと何らかの共通するものがあることを実感してもらうプロジェクトを実施しました。

この時の私は、アイヌ人の制作した装飾やアメリカ西海岸のネイティヴ・アメリカンの装飾、また南米の人たちの視覚的な類似点であったり、グレート・ジャーニーと呼ばれるエチオピアからチリの最南端までの人類の長距離移動の歴史であったりに興味があり、アメリカ国内でしばしば問題になる人種間の隔たりではなく繋がりをアジア人として、日本人として、伝えたかったという気持ちがあります。たぶん、その地域の生活者では持っていなかった視点ではないかと思います。

その後の数年間でアメリカの大学院での修士課程を終えて、アメリカを離れることになるのですが、これまでに受け入れ期間の運営手法は様々ですが、ドイツ、ブルガリア、インドネシア、フランス、イギリス、スイスなどで滞在制作に参加してきました。アーティスト達が運営しているもの、NPOとして運営しているもの、行政が運営しているもの、プログラムとして整備されているものもあれば、こちらからの提案で受け入れをしてもらった自主的なものなど、様々でした。

私は自分のスタジオの中で技術レベルの高いものを製作するという手法はあまり取らず、フィールドワークや出会った環境や状況に合わせて制作をすることが多いです。また、展覧会もインスタレーションのようなその場限り、その状況限りのような展示が多いので、展覧会の準備期間中もある意味滞在制作の状況になります。この場合、一般的には滞在制作とは呼ばないと思いますが、状況としては滞在制作になっていると思います。

さて、そんな滞在制作ですが、現代アートに慣れ親しんでいる人にとっては、「アーティスト・イン・レジデンス」という言葉の方が耳に慣れているかと思います。この20年ほどで現代美術やビエンナーレや国際芸術祭などの活動が普及したおかげで、最近はアートに馴染みのない人でも「アーティスト・イン・レジデンス」や「滞在制作」という単語はよく耳にされていると思います。

この状況を俯瞰的に見てみると、経済の減退、少子高齢化、地方の過疎化、それらに伴うお祭りなどの人の繋がりの希薄化や治安の悪化といった社会問題があり、その解決策や対応策として地域の人たちが賑わいや地域の魅力発信などのために、アーティストを招聘し地域に受け入れ、滞在制作を通して、文化交流や観光の活性化などを促進するというような、ある種の地域の人々の願いが象徴的に具現化した一連の活動だと思います。

そこで、改めて「アーティスト・イン・レジデンス/滞在制作」を日本の文脈で理解するために、その地域の人々の願いに目を向けたいのですが、私が住む山口市には今八幡宮というとても先進的な名前の神社(「今」八幡宮!Contemporary!)があります。宮司さんも新しいものを受け入れていただける方で、色々とお話を交わすことがありました。私が現代美術を実践してアート活動をしていることや今八幡宮で何か展示をさせていただきたいと相談しに行った際に、楼門内に飾ってあったいくつかの絵馬についてお話を聞かせてくださいました。

それは簡潔にお伝えすると、ここに奉納されている絵馬のいくつかは、地域の人たちが願い主となり、絵を描く画工を招待し、地域の人たちがその画工の滞在のお世話をし、制作を見守ったと言うお話でした。また、額を制作する額工や書を施したりする方々も制作に携わったことが、絵馬の隣の木版に署名されていました。まさしく「アーティスト・イン・レジデンスだ!しかもコラボレーション!!」と宮司さんに心躍らせながら伝えると、さらに宮司さんからその画工は尾張から来たと記載されていることも教えてくださいました。何と偶然なのでしょう。あらかじめ私が名古屋市出身と自己紹介していたので、この画工が尾張から来たということもしっかりと教えてくださり、自分が何となくその画工の追体験をしているかのような気持ちになりました。

ということで、アーティスト・イン・レジデンスからいろいろなものが見えてくると思います。ライター・イン・レジデンスやポエット・イン・レジデンスなどもありますが、アート業界に限らず滞在制作のような手法は地域や人々の生活に様々な好影響をもたらすと思いますので、もっと広く普及していくと社会がさらに良くなると思います。また、そういった活動の理解や支援も活発になることを願っています。

参考:アーティスト・イン・レジデンスの情報を掲載しているwebsite

https://resartis.org/



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